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レポート

2010/10/19

ピンクリボン運動10年を振り返り、未来に向けて私たちにできること

 毎年10月になると、ピンクリボンが目立つようになり、全国各地でイベントが開催される。「乳がんに無関心な人々に、早期発見の大切さを伝えたい」という願いを込めて、多くの患者会、啓発市民団体、企業、メディアなどが、この運動に賛同し加わってきた。ピンクリボン運動は社会にどんな影響を与え、今後に向けてどのような課題があるのか。



 9月18〜19日、都内で、NPO法人乳房健康研究会10周年記念PINK RIBBON GLOBAL CONFERENCE 2010「日本のピンクリボン運動の振り返りと未来志向−この10年の評価と次の10年のための情報共有」(NPO法人乳房健康研究会主催)と題するイベントが開催された。乳房健康研究会とは、乳がんにかかる女性の死亡率低下を願って、2000年に4人の医師(霞富士雄氏、福田護氏、野末悦子氏、島田菜穂子氏)によって発足された日本初の乳がん啓発団体。乳がんを早期発見するための環境づくりを推進している。2日間で、32の団体や企業など約500人が集まり、熱心な表情で講演やパネルディスカッションに耳を傾けた。

医療の枠組みを超え、社会貢献活動に発展
 日本でもピンクリボン運動が始まって10年余り。乳房健康研究会の調査(*1)では、昨年、ピンクリボン運動の認知度は調査対象者(30〜60代の女性、336人)の8割に上った。


「診察をしていると、体験者に勧められてきたという人が非常に多い。体験者が体験をシェアしていくことが必要ですね」と語る、島田菜穂子氏。
 2日目前半の基調講演で、同研究会副理事長の島田菜穂子氏(ピンクリボンブレストケアクリニック表参道院長)は、医療界だけでなく社会全体にもピンクリボン運動が広がった理由として、次の4点を強調した。

(1)親しみやすい運動で、楽しく参加できる
(2)大手メディアが参入し、認知度を高めた
(3)医学的な証拠に基づく活動で信頼感を得た
(4)企業による多方面からのアプローチがあった

 前述の調査では、ピンクリボン運動に対して、社会が「非常にポジティブなイメージ」を持っていることが分かった。「啓発ウオーキング」など、メッセージ性のある参加型イベントが多く行われたことも、親しみやすさを感じさせた。「こうした参加型イベントが、地域での具体的な活動のヒントや市民団体発足のきっかけとなり、波のように運動が広がりました」と島田氏は言う。さらに、メディアとの連携は乳がんやピンクリボンの認知を一気に高めたという。「ニュースや情報として紹介されるとともに、経験者が個人の体験を話す、発表するという文化が生まれました」(島田氏)。

 乳房をX線で撮影するマンモグラフィー検診の有効性が評価されたことも、ピンクリボン運動の信頼性を高めた。かつての乳がん検診は、医師による視触診のみだったが、2000年に厚生省(当時)が「50歳以上の人に、2年に1回、問診、視触診、マンモグラフィー検診を併用する」ことを原則としたことから、各自治体でマンモグラフィー検診が導入され始めた(*2)。

 この時期、米国でも日本でも、50歳以上のマンモグラフィー検診は乳がん死亡率を低下させる、というデータが発表された。「このため、医学的に基づいた情報として伝えやすくなりました。ピンクリボン運動関係団体では、全国に正しい情報を伝えていこう、自分たちの体験をシェアしようという考え方が広まりました」(島田氏)。

 10月を「乳がん月間」と設定し、毎年、継続的に重点的な啓発活動をしていくことも、参加者の意識と知識の蓄積につながった。

 企業はキャンペーン広告や顧客へのメッセージでピンクリボンを告知した。「ピンクリボン活動が広がり、『女性のための』というCSR(=Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)としての企業参加が増加した結果、医療的というより、社会貢献活動としての位置付けがより高まりました」(島田氏)。

 その結果、マンモグラフィーの認知度は09年には92.6%と上昇、ピンクリボン運動の認知度も09年には78.6%に上がった。それに伴い、マンモグラフィー受診率も03年の5.8%から09年の28.3%へと上昇した(*3)が、未だ国が目標とする50%には至っていない。

 そこで、2日目の基調講演では、がん検診受診率が高い米国と韓国から招いたゲストが登壇し、それぞれの国における検診率上昇のための工夫を紹介した。

がん検診を受けたくなるきっかけ作りに工夫を重ねる
 米国からは、スーザン・G・コーメン乳がん財団・教育部門のディレクターであるスーザン・ブラウン氏が、乳がん検診の現状について話してくれた。スーザン・G・コーメン乳がん財団とは、1982年、創設者であるナンシー・G・ブリンカー氏が、姉の乳がんによる死去をきっかけに、「世界的な乳がんの撲滅」という遺志を継いで設立した非営利組織で、乳がん体験者と支援者によって運営されている。


「S・G・コーメン乳がん財団では、15億ドル以上の寄付金を、乳がんに関する教育や啓蒙活動、検診事業、治療にまつわる研究などに投資してきました」と語る、スーザン・ブラウン氏。
 ブラウン氏によると、米国では全米で同一の乳房検診の推奨ガイドラインはないが、乳がんの視触診は20歳から最低3年に1回、40歳からは1年に1回の受診を勧めている。マンモグラフィー検診について、同財団では、罹患リスクが平均レベルの女性には40歳以上での受診を、高リスクな女性に対しては個々に見合った検診方法を医師と相談することを勧めている。

 また、NCCN(米国総合がんセンターネットワーク)は、リスクの種類によって検診方法は異なるが、毎年の視触診や自己検診のほか、25歳以上にはマンモグラフィー検診と、補助的に年1回のMRI検診も考慮するようにと推奨している。

 米国のマンモグラフィー検診の受診率は87年には29%だったが、12年後(99年)には71%に上昇した。だが、近年60%台に下降してきている。

 「検診を受けよう」というきっかけは、個々によって異なるので、受け手に情報が確実に届くよう工夫を重ねなければならない。そこで、ブラウン氏は「個人レベル」「友達・家族・ソーシャルサービスレベル」「組織レベル」「コミュニティーレベル」「公共政策(国・連邦)レベル」と、輪が重なるように、複数からアプローチすることを勧める。「市民に受診の必要性だけを伝えても、うまくいきません。情報を伝えるだけでは行動につながらないからです。どのアプローチが一番影響を与え、受診率を上げることができるか検討する。それを続けていけば、乳がんのない世界を実現できます」(ブラウン氏)。

 例えば、ブラウン氏は「ホームページの検診案内に、いつ受診したいか日程を登録しておくと、そのタイミングでハガキやメールでお知らせが届く」「友達とグループになって検診を受け、そのあとでランチをすることを毎年の慣例にする」「職場にマンモグラフィーの検診車を出し、受診しやすい環境を作る。雇用主からリクエストがあれば、昼食時に乳がんの教育プログラムを受けてもらう」などのアイデアを示した。

 このほか、「メディアがインタビューや広告、乳がん体験者による発表などの形で、乳がんの情報やニュースを流すことも、十分行動を起こすきっかけになる」と話した。

韓国では徹底した個人勧奨で検診受診率を高める

「韓国の乳がん検診の今後の課題は、地域ごとの精度のばらつきをなくすことです」と語る、朴恩?氏。
 韓国からは、国立がんセンターがん対策研究所所長の朴恩?(パク・ウンチョル)氏が来日した。韓国では、40歳以上の女性を対象に、2年に1度、マンモグラフィーと視触診の組み合わせによる乳がん検診を推奨している。乳がん検診の受診率は55.2%(国立がん検診調査、2009年)と、日本より高い。

 「96年から、がん対策は10年計画で実施しています。特に、1次予防、がん検診と早期発見、治療、緩和ケアの4点に力を入れています。がん検診プログラムは、政府による一元化されたトップダウンのアプローチをしています」と朴氏は言う。

 なぜ、韓国では検診受診率が高いのか。韓国のがん検診事情に詳しい国立がん研究センターがん対策情報センターがん情報・統計部長の祖父江友孝氏は、その理由を、「韓国では、国が個人情報付きの名簿を利用しながら、個々に受診勧奨をしているからです」と説明する。

 検診費用は、世帯所得の上位50%に属する女性の場合は、自己負担額1割となる。下位50%の人には中央政府と国民健康保険公団の両方から補助金が出るので、無料で受診できる。近年、韓国では、乳がんを早期のステージで発見することが多くなり、5年生存率は89%。「日本や欧米諸国と匹敵するほどの数字です」と朴氏は言う。

日本でも受診環境を整える取り組みが進む
 日本でも乳がんの検診受診率を上げるため、患者会や啓発市民団体を中心に、いろいろな草の根的な活動が広がっている。2日目後半のパネルディスカッションでは、NPO法人J.POSH(日本乳がんリボン運動)副理事長兼事務局長の松田壽美子氏と、NPO法人ハッピーマンマ理事の片岡明美氏が、所属する組織での取り組みを紹介した。


パネルディスカッションでは、国立がん研究センターの祖父江友孝氏、NPO法人J.POSHの松田壽美子氏、NPO法人ハッピーマンマの片岡明美氏の3人が登壇した。
 J.POSHでは、昨年から、“年1度、全国どこでもマンモグラフィー検診が受けられる日曜日”の実現を目指して、「ジャパン・マンモグラフィーサンデー」を実施している。今年は10月17日に全国300カ所以上の医療機関が検診を行った。「乳がん検診を勧めると、仕事や子育て、介護などで『平日は受けられない』という女性が多い。せめて年1度の日曜日は病院を開けて、検診を受けられる環境が必要ではないかと考えました」(松田氏)

 さらに、松田氏は「検診現場では障害者の方々のことが忘れられている」と指摘する。「障害者の方々は健康に敏感ですが、検診を受けることをあきらめていらっしゃる。すべての人が気持ちよく検診を受けられるよう、ノーマライゼーション(*4)ができているかどうか確認しなければならない」。

 一方、ハッピーマンマの片岡氏は、乳がん専門の医師でもあることから、女性医師の社会復帰をサポートするための「乳がん検診のための医療者教育」に力を入れている。検診対象者からは、「視触診を受けるなら女医がいい」という声が数多く上がっているからだ。

 ピンクリボン運動については“お祭り騒ぎ”と揶揄(やゆ)する人もいる。だが、こうして10年間を振り返ってみると、ムーブメントが広がることで、これまで「自分とは関係ない」と思っていた人も乳がん検診に関心を持ってきていることが分かる。今後は、そんな人々を、いかに受診につなげていくか。行政や医療従事者をはじめ、私たち国民にも、もうひと工夫が求められている。

(福原 麻希=医療ジャーナリスト)

<注釈>
*1、3 乳房健康研究会「乳がん検診受診率向上の鍵は?」調査報告書:2002年から隔年で、一般女性意識調査などを実施している。2009年は首都圏30km圏内在住の20〜69歳の女性を対象にアンケート用紙を郵送し、419人から回収した。調査対象者の各年代は、それぞれ20%になるように調整している。
*2 その後、厚労省は2004年にがん検診実施のための指針を改正し、「40歳以上の人に、2年に1回、視触診とマンモグラフィー検診を実施することが基本」とした。なお、20代、30代の人はマンモグラフィー検診を受けても、得られるメリットは少ないことがわかっている(マンモグラフィー検診は乳がんを早期発見し、乳がんの死亡率を下げる可能性がある一方で、若年者の場合、病変を見つけることが非常に難しいため過剰な検査や診断になりやすく、それによって受診者が不安やストレス、合併症、放射線被曝を受けることの方が大きくなる可能性が高い。このため、個人の判断が必要になる)。
*3 調査回答者2003年325人、2009年336人。
*4 障害を持っていても、健常者と均等に当たり前のように生活できる社会を実現させる取り組みのこと。

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