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レポート

2010/10/5

國土典宏教授の「肝がん治療の誤解を解く」(1)

肝がんには2種類ある!

原発性の肝がんと転移性の肝がん、どちらでも治療方法は同じと思っていませんか? 肝がんには、肝細胞のがんと、肝臓以外の臓器で発生したがん細胞が肝臓に転移したものがある。同じ肝がんでも、両者は全く異なる性質を持ち、治療法も異なる。肝細胞がんと転移性肝がんの違いを理解して、適切な治療を受けるようにしたい。



 数年前、ある著名人の新聞死亡記事に、「A氏は○月△日、肝がんで死去した。A氏は2年前に大腸がんを手術し、その後肝臓や肺に再発した。氏は自分のがんを公表し、闘病生活を続けながら精力的に活動し・・・」とあるのを読んだことがあります。

 これを読んだ私は、「肝がんで死去」という言葉が強くひっかかりました。なぜなら、この場合は、「大腸がんで死去」と言わないと医学的に間違っていることになるからです。

 新聞記事から医学的事実を推測すると、「A氏は大腸がんを手術した後に、肝臓と肺に転移再発した(大腸にがんは再発していない)。肝転移と肺転移の治療を続けていたが、肝転移巣の治療がうまくいかず、がんが肝臓全体に広がり肝不全になって死亡した。肺転移も治療効果は十分ではなかったかもしれないが、生命に関わるほど悪くはなかったらしい」ということになります。

 死亡時点でおそらく大腸にがんはなく、肝臓内のがん病巣によって亡くなられたため、ご家族や関係者は「肝がんで死去」と発表し、記者もそう書いたのでしょう。しかし、この場合は、医学的には「大腸がんで死去」と書くべきです。A氏の命を奪ったがん細胞は、肝臓にできた肝がん(肝細胞がん)細胞ではなく、大腸がん細胞だからです。

 大腸がんとして発生したがんは肝臓に転移しても大腸がんとしての性質をもち、肝臓に固有に発生する(原発といいます)肝細胞がんとは全く異なる性質を持ちます。性質が違う、ということは治療法も全く違うこともあり得るわけです。

がんの種類によって治療法は異なる
 このような誤解が肝がんの医療現場で混乱を招いています。例えば、3cm以下の肝細胞がんに低侵襲治療として最近よく行われているラジオ波熱凝固療法は、転移性肝がんに行うと明らかに再発が多く、再発した後の手術が難しくなります。転移性肝がんはどんなに小さくても切除できるものはまず切除するべきなのです。しかし、実際には、「肝がんです」と診断された患者さんが、自分は転移性肝がんなのに、ラジオ波熱凝固療法を選択希望されることがあります。

 現代のがん治療では、医師ががんの状態を100%患者さんに告知し、選択できる治療の候補の利点・欠点を説明した上で、患者さん自らが治療法を選択するのが当たり前になっています。そのため、医師が手術を強くお勧めしても納得されずにラジオ波熱凝固療法を強く希望された場合、「手術拒否例」としてやむを得ずラジオ波熱凝固療法を施行することになります。その後に再発して、改めて肝臓外科に紹介されるケースもあります。

 こうした背景には、「大腸がんでおなかにメスを入れられたのだから、また肝臓手術で痛い思いをするよりは、今回は針で直すラジオ波熱凝固療法で治療してもらいたい」という心情だけでなく、これまで述べた誤解の影響も大きいのではないかと考えています。

 肝がんの治療を選択する場合、肝がんの種類、進行度、そして肝臓の予備能力など、考えなければならない条件が他のがんよりも多く複雑です。しかも肝がんの領域のここ数年の技術や新薬の進歩は目覚ましく、医師であってもすべてに精通することは難しくなっています。そこから生じる誤解も多く、医療現場を少なからず混乱させているようにも思えます。

 私の外来に来られる患者さんの中にも、この誤解が解けないまま必ずしもベストとはいえない治療をこれまで受けて、治療が難しくなってしまった方が少なくありません。この連載では、実例を挙げながら肝がん治療におけるこうした誤解を解いていきたいと思います。

 次回は、この2つの肝がんの違いを説明したいと思います。

國土典宏(こくどのりひろ)

東京大学臓器病態外科学大講座、肝胆膵外科学・人工臓器移植外科学分野 教授

1981年東京大学医学部卒業。同大学第二外科助手を経て、89年米国ミシガン大学外科に留学。95年癌研究会附属病院外科、2001年東京大学肝胆膵外科、人工臓器・移植外科で肝胆膵のがんの外科治療とともに肝移植チームを指揮している。07年から現職。

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