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2010/9/28

『がんと一緒に働こう!』を出版した理由

32人のがん経験者たちからのメッセージ

 「がんになったら、もう働けないの?」――働き盛りのがん経験者にとって、就労は大きな問題。しかし、がんになっても働き続けるにはどうしたらよいのか、具体的な情報は不足しているのが現状だ。この問題を少しでも解決すべく、32人のがん経験者たちが集まり、自身の社会的スキルと体験を反映させた本『がんと一緒に働こう!』(CSRプロジェクト編)を出版した。32人を代表して、4人のがん経験者たちに本に込めた熱い思いを語ってもらった。



――この本を作ることになったきっかけは何ですか。

坂上 ある新聞に桜井さんのキュートな写真が載っていまして、まず、その写真に一目惚れ(笑)。しかも桜井さんの「がん罹患と就労」という研究活動がすごく新鮮で、すぐに会いに行きました。今思えば、私自身、10年前に乳がんを発病して以来、ずっと編集者として働いてきたこともあって、そろそろ「働くがん患者」の問題が出て来なければおかしい、という気持ちをどこかに持っていたのだと思います。

桜井 そのころ、私は働くがん患者を応援する小冊子を作成するつもりで、助成金申請の準備を進めていました。書類に添付するための目次が完成したところに連絡をもらったので、坂上さんに目次を見せたのです。そこから、一冊の本として出版する話に発展していきました。もともと「がん患者自身の手で作りたい」という強い思いがあり、早速、乳がん患者のメーリングリストで、この出版プロジェクトに参加してくれる人を募りました。

近藤 そのメーリングリストを読んで、手を挙げたのが私です。ちょうど社会保険労務士の資格を取って開業した直後のことでした。私の場合、乳がんになっても職を失わずに済みましたが、その後に会社が倒産して仕事を失い、失業のつらさや大変さを経験しました。また、がんになったとき、会社で誰にも相談できず苦しい思いもしたので、「社会保険労務士の資格を活かして何かやりたい」と考えていました。それで「就労」というキーワードを見た瞬間、参加したいと思ったのです。


桜井なおみ さん
37歳(2004年)のときに右胸の乳がんが見付かり、治療を受ける。現在もホルモン治療中。自身の離職体験をきっかけに、がん患者の就労問題に取り組む。NPO法人「HOPE★プロジェクト」理事長、キャンサー・ソリューションズ株式会社代表取締役社長。
桜井 本を作るなら、それぞれの患者が持つ社会的スキルを存分に反映させたいと思っていましたし、社会的スキルに「がん」という経験が加わったときに出てくるものに大きな価値があるとも考えていました。ですから、作り手が患者あるいは体験者であることに徹底的にこだわりました。文章やイラスト、装丁を手掛ける人はもちろん、たとえば、会社の人事に関する情報は、実際に人事部長をしているがん患者が受け持ちました。

宮坂 私は装丁とレイアウトを担当しました。メーリングリストの呼び掛けではなくて、ある日、桜井さんから「既存のがんの本とは違うことをやりたい。患者さん自身で一冊作りたいので、協力してください!」という連絡をもらいました。知り合いのがん患者さんが私を桜井さんに紹介してくれたのですが、私のように、知人や患者会、ブログなどのつながりで参加した人もいましたね。

何度も議論を重ね、一つひとつ原稿を作成

――この本には何人の患者さんが関わっていますか。また、どのように協力して、一冊の本を作り上げていきましたか。

桜井 気が付けば、全国各地から32人の患者さんが参加していました。それで毎週1回、6〜7人のコアメンバーが集まり、目次案を基にフリートーキングしながら、一つひとつ原稿を作成していきました。ある項目に対して、それぞれが自由に回答したり、疑問を出したりして、それを書記係がパソコンで記録し、ある程度意見が出尽くしたところで、内容を整理して文章にまとめるという方法を取りました。


近藤明美 さん
33歳(2004年)のときに左胸の乳がんが見付かり、治療を受ける。現在は治療を終え、年1回の検診を受けている。発病後、勤務していた出版社が倒産。法律事務所に勤めながら社会保険労務士の資格を取得。今年7月に独立し、がん患者の就労相談も行っている。
近藤 文章が完成しても見直す過程で、新たな疑問が飛び出し「それ、面白いから入れよう」と目次に追加して――。「仕事でリンパ浮腫になると、労災になるのか」という疑問が出たときは、私が労働基準監督署まで確認に行きましたし、会社勤めの患者さんが自分の勤務先の就業規則を参考にしたりする、ということもよくありました。

桜井 体験に基づくコラムは、テーマを決めて「早い者勝ちだよ」とメールで参加者全員に連絡したら、奪い合いになりました(笑)。特に人気だったのは、ファッション系(ウィッグ、まつ毛、マニキュアなど)のテーマ。こんな風に、がん患者自身で作ることにこだわった結果、この本の内容はどれも具体的でリアルなものになったと思います。

宮坂 そうそう。この本に掲載されている弾性ストッキングやウィッグ、ストーマ用腹巻といった療養グッズは、基本的に各自が実際に使用しているものを自分で撮影しています。カタログでは出せない「リアル」を追求することにこだわりましたね。そこも、既存のがん本とは大きく違うところです。

坂上 大腸がんによる排便障害、子宮がんによる排尿障害への対応法は、同じがん患者でも驚きの連続でした。同時に「こんな工夫をすれば、働き続けられるのか」と改めて感心しました。いずれの障害も後遺症としては多いものですが、患者さんがひっそりと対応してきた問題なので、これまでリアルな情報が全然なかったのです。そういった患者の工夫をいろいろと反映できたことも大きな特徴の一つです。

桜井 私自身、会社を辞めた後、がんになっても働き続けるためには自分でもう少し努力できる部分があったことに気付きました。それは日常生活の工夫だけでなく、がんによる後遺症や治療による副作用のつらさを、上司や同僚にどのように伝えるのかということを含めて…。この本を作っているときも、他の患者さんの意見を聞きながら「あのとき、私もそう言えばよかったのか」と勉強になることが多かったです。

本づくりが生きる勇気につながった

――この本づくりを通して、印象に残った出来事について教えてください。

近藤 この本に関わった患者や体験者たちが自信を取り戻したり、生きる勇気につながったりしたことでしょうか。とくに男性陣が変わりました。最初は「会社に病気のことをあまり言っていないので、本名は出せない」と申し出る人が多かったのですが、最後には本名で掲載することに了承し、それをきっかけに自分の病気のことを会社や周りの人にきちんと話せる人が増えました。


宮坂泰子 さん
45歳(2004年)のときに子宮体がんが見付かり、手術と化学療法を受ける。「ステージ3」の診断だったが、治療を無事に終え、現在は経過観察中。アートディレクターとして広告・出版等の仕事に携わる。
宮坂 この本の装丁はオレンジ色を基調にしていますが、実はJR中央線の電車の色をイメージしています。あの色は、私にとって労働者カラーなのです(笑)。それから、この本づくりに参加している患者さんの中で、卵巣がんの治療で現在も大変な思いをしている人がいまして、エールを送りたいと思いました。それで、彼女のハンドルネームの「オレンジ・みかん」に因み、この色を選びました。

桜井 その人はここ3年ほど、卵巣がんの治療を続けていたので、治療のガス抜きをしてほしくて声を掛けたのですが、内心は「文章を書くことが負担になったら、どうしよう」と心配でした。でも、ふたを開けてみると、彼女は他の患者さんに伝えたいことをたくさん持っていて、彼女にしか書けないものがありました。

近藤 再発治療の入院中に原稿を書いてくれた患者さんもいます。再発したことで気落ちしていましたけれど、何度も原稿を書き直すうちに気持ちがだんだん吹っ切れたようで、自分が本当に伝えたいことをしっかりまとめてくれました。

坂上 その患者さんが「大変だったけど、楽しかった」と言ってくれたことがうれしかったですね。いろんな患者さんの想いがギュッと詰まった一冊になりました。

医療者にも“パジャマを脱いだ患者たち”の実情を知ってほしい

――最後に、この本を通して伝えたいことを教えてください。

宮坂 この本には、実際にがんの治療や療養をしながら仕事をしている人たちからのメッセージが掲載されています。だから、ストレートで100%ピュア。混じりっけなし。なんのフィルターもかかっていない、素直で真摯でリアルなメッセージです。働く人ががんになってしまったとき仕事とどう向き合っていくか、そのヒントが隠されていると思います。がんの人も、そうでない人も、仕事をしている人も、していない人も、ぜひ、多くの人に読んでいただき、がんと仕事のありさまを知っていただけたらと思います。


坂上みき さん
34歳(2000年)のとき、第2子を妊娠中に左胸の乳がんが見付かり、出産後に手術を受ける。現在は治療を終え、年1回の検診を受けている。発病前から勤務する出版社で、書籍を中心に編集の仕事を続ける。
近藤 がんになることでキャリアや人生がリセットされるわけではないと思うのですが、そこでいったん立ち止まらなければならない現実があります。そのときに仕事を失わずに自分らしく働き続けるためには「働く人の権利と義務」を知っておくことが必要ですし、会社の上司や同僚と上手にコミュニケーションを取る方法を身に付けておくことも大事です。そうした知識や知恵を、この本を通して得ていただけるとよいなと思います。

桜井 私は、この本を通して医療者に「パジャマを脱いだ患者たちが、どうやって社会で暮らしているのか」という視点を持ってほしいと考えています。今の医療現場では、この視点が欠けているため、患者の生活を支えるケアが全然行われていないのが実情です。医療と社会をつなぐ一冊になってくれることにも期待しています。

坂上 日本人の3人に1人が、がんに罹患する時代になり、がん患者のニーズも多様化しています。患者が求めているのは闘病記だけではなく、“がんとともに生きる”ためのさまざまな情報。この本は、その一つの受け皿になったと考えますし、「働くことにこだわるがん患者だって、いるんだぞ」というメッセージを社会に投げ掛けた一冊だとも思うのです。患者自身が声を上げたことで、ここから、また何かが始まるのではないかと予感しているところです。

構成・文=渡辺千鶴(医療ライター)

がんナビでは、『がんと一緒に働こう!』から一部の章を、連載としてお届けします。連載はこちらから。

〜読者プレゼントのお知らせ〜

 合同出版株式会社より『がんと一緒に働こう!』(定価:1300円+税)を30名様にプレゼントいたします。ご希望の方は、はがきまたはウェブにてご応募ください。応募の際は、氏名・住所・電話番号・年齢・応募の理由を明記してください。締め切りは2010年10月12日(当日消印有効)です。応募多数の場合は抽選とさせていただきます。抽選結果の発表は、発送をもって代えさせていただきます。

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