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レポート

2010/4/19

子宮頸がん国際会議レポート(3)

子宮頸がん検診の受診率を高めるために日本は何をすべきか

 「子宮頸がん発症の予防はワクチンと検診の両輪で」とWHO(世界保健機関)は勧告する。しかし日本の検診受診率は、先進国の中で最も低い。どうして、欧米各国では高いのか。日本とはどんなところが違うのか。この課題を解くヒントを、今年2月にモナコ公国で開催された国際会議WACCの発表から得た。



※「WACC」とは
WACC (Women Against Cervical Cancer=子宮頸がんから女性を守る)は、ヒトパピローマウイルス(以下、HPV)と子宮頸部の疾患について、一般国民の知識と意識を高めることを促進し、さらに、「子宮頸がん予防」を女性の健康政策の最優先事項とすることを目的とした国際会議。世界各国からの参加者が啓発教育やアドボカシー活動について発表し合う。(http://www.wacc-network.org/aboutus/welcome.php)

欧米では健康教育にかかりつけの産婦人科医や母親が重要な役割
 世界最大の子宮頸がんの学会「EUROGIN」(2010.4.6「子宮頸がんは世界全体で取り組むべき問題」)と同時開催されたWACCでは、各国における世代別、職業別の子宮頸がんとHPV感染に関する知識レベルの調査、教育の必要性とその方法、各国の子宮頸がん普及啓発グループの活動内容などが発表された。

 日本の子宮頸がん予防で、今、最も問題視されているのは、「子宮頸がん検診受診率の低さ」だ。OECD のデータ(*1)によると、世界で子宮頸がん検診受診率が一番高いのは米国で82.6%。ヨーロッパ各国も軒並み70%を越える。一方、先進国22カ国の中で、日本の受診率は23.7%と最低だ。(図1参照)。

 どうして、欧米各国の子宮頸がん検診受診率は高いのか―。その答えを探していたところ、スペインの婦人腫瘍学の医師で、政府の医学・医療分野の顧問も務めるハビエル・コルテス・ボルドイ氏(Javier Cortes Bordoy,MD)の発表で大変興味深い話を聞いた。ヨーロッパの女性の半数以上には、10代のころからかかりつけの産婦人科医がいて、その医師や母親が女性の健康教育に重要な役割を果たしているというのだ。

欧州では性経験の有無に関わらず、産婦人科医に行く習慣がある
 ボルドイ氏は、ドイツ、ベルギー、スペインの3カ国において、18〜50歳の一般女性合計6180人を対象に、産婦人科医との関係や、子宮頸がんに対する知識についてのインターネット調査を実施した。

 質問項目には、例えば、「産婦人科医の診察を受けているか。何歳から受診しているか」「かかりつけの産婦人科医と性生活や子宮頸がんの予防について話しているか」などのほか、子宮頸がんとHPVについての正しい知識を持っているかどうかも含めて、合計9項目が盛り込まれた。意識や考え方の調査ということから、3カ国の対象者は、街の大きさや地域性、教育レベルがほぼ同じになるよう調整されていた。

 この中で、特に注目したいのは「何歳から、産婦人科医の診察を受けているか」という項目だ。調査の結果、回答者の約6割の女性は産婦人科医の診察を18歳までに受けていたことが明らかになった。特に、全体の約2割は15歳以前に受診していたという。日本人の感覚から考えると、少し早いように思える。だが、これは決して、対象者の最初の性体験が早いからではない。この調査では、スペインの女性の初体験の年齢も聞いている。18〜25歳のグループでは平均18.2歳、46〜55歳までは平均21.4歳だった。

 つまり、性体験のないころから、かかりつけの産婦人科医がいて、診察や検査を受けるのが当たり前のように考えられていることがうかがえる。


キャロル・スカール氏
 隣国のフランスの例になるが、事例を1つ紹介する。WACCの事務局を担当する、フランス人のキャロル・スカール氏(Carole Schaal、42歳)は、自身がティーンエージャーだったころをこう振り返る。

 「私の場合は、初めて産婦人科に行ったのは14歳のときでした。母は『がんの予防』『子宮頸がん検診』などの言葉は使わず、『身体をチェックしてもらいましょう』と言って診察の予約を入れました。当日も一緒にクリニックへ。まだ性体験はなかったのですが、家庭教育の一つ、という感じでした。それ以来、クリニックで検査を受けることは習慣になっています。友人にも同じような経験を持っている人が多いですよ」

 日本では、たとえ母親と一緒であっても14歳で産婦人科を受診するのは、あまり普通のことではないだろう。今の時代でも、「望まない妊娠をしたのではないか」と、眉をひそめる人がいるかもしれない。もしかしたら、ヨーロッパでは中高生でも産婦人科に行きやすい雰囲気があるのか知りたく、「産科と婦人科は別のクリニックですか」と聞いたところ、スカール氏の答えは「いいえ。たいてい、同じ医師が診ています」だった。

 また、日本では自分の身体に異常を感じてから病院に行く人が多く、「予防医療」に対する意識は低い。まして、10代で検診に行く習慣を持っている人は、ごくわずかといえる。だが、女性は誰でも月経が始まったら、身体のチェックは必要だ。スカール氏の経験談はそれを示している。この点はぜひ日本でも取り入れるべきだろう。

 昨年から、日本でもHPVワクチン接種が始まり、推奨年齢は11〜14歳となっている。小児科だけでなく、産婦人科でも受けられる。そんな時代の変化から、今後は10代前半でも、産婦人科に行く光景は珍しくなくなるだろう。

 さらに、欧米では、医師、看護師、助産師、学校の保健師がいろいろな場面で、子宮頸がん検診のことを話題に出すという。フランスの様子について、スカール氏がこう続ける。

 「初めて産婦人科医の診察や検診を受けた後も、避妊を目的としたピルを処方してもらったり、妊娠の相談に行ったりと、かかりつけの産婦人科医に会う機会は多いです。そのたびに、『前回は、いつ、子宮頸部細胞診を受けましたか』と聞かれ、検査を受けています。患者が若い女性の場合は、医師が子宮頸がんやHPVワクチンの説明もしてくれます」

 WACCの閉会後、フランス以外の国の状況も知るべく、イギリス、アメリカ、カナダ在住の日本人女性にも聞いた。すると、やはり医療機関を受診した際に、頻繁に「子宮頸がんの細胞診を受けたか」と聞かれるという話だった。

 アメリカでは、医師のみならず、医療保険会社も検診を勧奨するという。プライマリケアを専門にする日本人女性医師は、米国で子宮頸がんの検診受診率が高い理由をこう話す。「子宮頸がん検診のような予防医療が行き届いているのは、医療保険会社が主導し、全額無料となっているからでしょう。また、検診を受けることで保険料を割引するなどの特典も付けています。受診者側も、年に1度、婦人科検診を受けることはほぼ常識としています」

 このほか、欧州では、助産師も子宮頸がん検診を行うことを認める国が増えてきた。子宮がん検診では、内診や視診を伴う細胞診があるため、できれば女性が行う方が受診しやすいという配慮からだ。日本でも、子宮がん検診を普及させるために、女性の医師を増やしたり、助産師も子宮がん検診ができるようになったりするとよいという意見も出ている。

世界で子宮頸がんを知るキャンペーンが盛り上がる
 日本は子宮頸がんとHPVに関する知識がないから、検診受診率が低いのだろうか。

 前出のボルドイ氏の調査によると、ヨーロッパの女性で「子宮頸がんはHPVというウイルスの感染によって発症する」と答えられた人は1〜3割程度だった。つまり、欧米では子宮頸がん検診受診率は高いものの、子宮頸がんとHPVに関する知識のある人は少ないといえる。

 「だから、私たちは新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、インターネットなどのメディアと連動して、子宮頸がんについて知ってもらうための啓発キャンペーンを張っています。検診受診率を高めるために、管轄の地方自治体が受診対象者にお知らせの手紙を送り、電話で確認するほか、NGO団体などが各家庭を訪問して情報を伝えるよう活動しています。1度も受診したことがない人は、待っていても来ませんから」とボルドイ氏は言う。つまり、一般国民の子宮頸がんについての知識を高めれば、さらに受診率が高くなり安定すると期待している。


フランコ・ボルート氏
 イタリアでも啓発キャンペーンや検診の受診勧奨は盛んに行われているという。ヴェローナ大学の産婦人科准教授のフランコ・ボルート氏(Franco Borruto,MD)は「イタリアでも、産婦人科医たちはマスメディアと連動しながら、がん予防の利点を知らせるためのキャンペーンをしています。また、高校でも子宮頸がん予防の教育をしています。『子宮がん検診は価値がある』というメッセージを伝えています」と言う。

 イギリスでは、2009年に人気のあった女優が子宮頸がんの告知を受けて、わずか7カ月後に27年の生涯を閉じたという出来事があり、その後、検診受診者が激増した。若い女性が集まるナイトクラブ、バー、スポーツジム、映画館などのトイレに、子宮頸がんに関するチラシを置いているという。

 日本でも、今年の子宮の日(4月9日)、全国的に子宮頸がんのキャンペーンが行われた。中でも子宮頸がんの細胞診を担当する細胞検査士らは、全国28カ所で約600人が街頭に立ち、子宮頸がん検診受診を勧めるチラシとハーブの種を配布した。乳がんのピンクリボンキャンペーンは、「早期発見の大切さ」を伝えるために2003年から始まり、今では全国規模のムーブメントとなった。子宮頸がんでも、「がんになる前から、子宮頸がんは予防できる」ことを、誰もが知っている日が来るよう期待したい。

日本人女性が検診を受けない理由

 現在、日本の子宮頸がん検診は、国の指針として「20歳以上の女性を対象に、2年に1回実施すること」とされている。

 だが、2008年3月に「女性を守るための研究会」が発表した「子宮頸がんの検診に関する調査報告書」(*2)によると、有効回答数967人のうち、「子宮頸がん検診を定期的に受けている」と回答した人は2割弱。「1度だけ」「複数回、受診したことがある」人を合わせると約1割で、残りの約7割弱を「子宮頸がん検診を1度も受けたことがない」という未受診者が占めたという。特に、20代の定期受診者は1割未満で、8割以上が未受診者だった。

 この調査報告書では、未受診者に、なぜ検診を受けないのかも聞いている。一番多かった回答は「時間がない」。続いて「面倒だから」「検診方法を知らない」「症状がないので、受診の必要がない」「自分の年齢では子宮頸がんにならないと思う」などが挙がり、日本人一般女性の子宮頸がんに対する知識不足も明らかになった(図2参照)。

 昨年4月から厚生労働省は、乳がんと子宮頸がんの検診には、20〜40歳を対象に5歳刻み(20歳、25歳、30歳、35歳、40歳)の節目検診として、「無料クーポン券」付きのがん検診手帳を配布している。「子宮頸がん征圧を目指す専門家会議」が、全国1778自治体を対象に行った「子宮頸がん検診クーポンの利用状況の調査」(有効回答数747自治体、有効回収率42%)(*3)では、2009年10月〜12月のがん検診受診者数は前年同時期比較で4.8万人、13.5%の増だった。だが、無料クーポンの利用率は、調査時点で既に検診期間が終了していた85自治体で、配布した全体のわずか2割にとどまっていた。つまり、残り8割の人は無料クーポンを受け取っても使わなかったことになる。それでも、無料クーポンの配布で検診受診率が微増したことから、今後も継続するとよいだろう。

*1)「Health Care Quality Indicators Projects 2006 Data Collection Update Report」(OECD Health Working Papers)
*2)「子宮頸がん検診に関する報告書」(女性を守るための研究会、2008年)
*3)「子宮頸がん検診無料クーポンの利用状況」(子宮頸がん征圧を目指す専門家会議、2010年)

(福原麻希=医療ジャーナリスト)

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