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レポート

2010/4/6

子宮頸がん国際会議レポート(1)

子宮頸がんは世界全体で取り組むべき問題

 初の子宮頸がんワクチンの承認を受け、日本も“子宮頸がん征圧”に向けてようやく動き出した。しかし、どうやってワクチンを普及させるか、どうしたらがん検診受診率が向上していくか、専門家や行政担当者が頭を悩ませているのが現状だ。これらの問題を解決するためのヒントを得るべく、先に活動をスタートさせた世界の国々に眼を向けてみよう。各国の試行錯誤から、今、日本が学ぶべきことは多いはずだ。



 2月17〜20日、F1グランプリが開催されることで有名なモナコ公国の首都モンテカルロに、世界から子宮頸がんに関わる婦人科医、研究者、市民団体ら約1700人が集まった。世界最大の子宮頸がんの学会「EUROGIN」(囲み参照)と、子宮頸がん啓発を推進する国際会議「WACC」が同時開催されたためだ。外では雨が降り続いていたが、会議場の中は発言者と参加者の熱気があふれた。

子宮頸がんワクチン導入は国家的プログラム
※「EUROGIN」とは
EUROGIN(European Research Organization on Genital Infection and Neoplasia=性感染症と腫瘍形成についての欧州研究機構)ではヒトパピローマウイルス(以下、HPV)、HPV関連疾患、子宮頸がんの検診と予防ワクチンについての研究成果の発表やディスカッションが行われる。1994年から始まり、今年で9回目。世界から婦人科、皮膚科の臨床医や腫瘍学・病理学などの研究者が参加している。(http://www.eurogin.com/
 EUROGINでは、HPV感染症の中でも、特に子宮頸がんに関する世界の潮流や各国の最新研究の成果を知ることができる。今回の学会では、初日にWHO(World Health Organization=世界保健機関)が「子宮頸がんとその他のHPV感染症は世界全体の健康問題」と位置付け、各国に対して、今後の進むべき方向を明確に示した。

 WHOの発表によると、世界では、毎年約50万人が子宮頸がんにかかり、そのうちの約26万人が亡くなっている。そのほとんどが発展途上国の国民で、特に、がん検診の体制が整っておらず、早期がんのうちに治療を受けていなかった人だという。

 HPVは100種類以上あり、その一部が子宮頸がんと、生殖器や肛門に良性のイボ(尖形コンジローマ)やがんを発症させる。特に子宮頸がんの約7割はHPVの16・18型によって、生殖器にできる尖形コンジローマの約9割はHPV6・11型の感染によって発症していることが分かり、これらのHPVの感染防止に有効なワクチンが開発された。WHOは昨年4月、複数の科学的な研究のエビデンスに基づいて、この2種類のワクチン接種を勧めると声明を発表した。

 昨年、WHOがこのような方針を発表して以来、先進国のみならず、発展途上国でもワクチン政策に大きな影響を及ぼしている。特に、「GAVIアライアンス」(ワクチンと予防接種の普及・援助をはかる国際組織、ホームページ(英語)はこちら)やビル&メリンダ・ゲイツ財団(ホームページ(英語)はこちら)などは発展途上国に多額な寄付をしたという。


写真1 リンダ・エカート氏
 今回の講演で、米国・ワシントン大学准教授(婦人科)でWHO顧問のリンダ・エカート氏(Linda O.Eckert,MD)は「HPVワクチンを普及させるためには、国家の予防接種プログラムに含めるべきである」と述べ、次の3点を強調した。

(1)公衆衛生の観点から優先的に対応しなければならない
(2)ワクチン導入のためには、実行可能なプログラムと持続的な財政力を確保しなければならない
(3)ワクチン導入についての費用対効果と戦略は、国や地域によって異なる

 実際、世界の欧米など先進国では、2007年から国家的プロジェクトとしてHPVワクチンが導入されている。一方、日本では昨年12月にワクチン接種が始まったが、国民の認知度も普及も遅れており、国の公費助成制度も整っていない。

 また、エカート氏は各国に次のような助言をした。

▽ワクチン接種の優先対象者は、セクシャルデビュー前の9・10歳〜13歳。接種を広く普及させるためには、学校、医療機関(病院、クリニック、保健所など)、人が多く集まる会や組織などを利用する
▽ワクチン導入のプログラムには「子宮頸がんを発生させるようなハイリスク型のHPV感染のリスクを下げるための教育」と「前がん病変やがんの検診」も必要。これらを思春期の子供たちの健康プログラムに組み込む
▽プログラムと財政基盤の策定は、国が計画し実行しなければならない

 さらに、「子宮頸がん予防のためには男性にも接種すべきかどうか」については、WHOの見解として「勧めない」として、その理由について「思春期の男女両方に接種するよりも、女子の7割に接種する方が費用対効果は大きい」と語った。

子宮頸がんは予防できる時代になった!
 会議2日目には、2008年にノーベル生理学・医学賞を受賞したドイツがん研究センター名誉教授のハラルド・ツア・ハウゼン氏(Harald zur Hausen,MD)が講演した。ハウゼン氏はウイルス学者で、1982〜84年に子宮頸がんからHPV16・18の2種類のDNAを検出し、ワクチン開発の端緒を開いた功績が高く評価されている。

 講演でハウゼン氏は、動物実験から始まった研究が、現在ではHPVのどの型がどんな疾患と関係があるか明らかになったことを時系列で振り返り、「今後、子宮頸がん征圧のためには、ワクチン接種と同時に、安全な性行動の教育とがん検診も必要である」と語った。


写真2 EUROGIN会場
 子宮頸がんを発生させるハイリスクHPVは13種類あることが分かっているが、ワクチンはそのうちのHPV16・18型にだけ効果を示す。このため、ワクチンを接種しても定期的ながん検診は欠かせないというのが世界的なコンセンサスだ。ハウゼン氏は、「近年の研究の結果、HPVには多くの型があることが明らかになった。その中でもがんを引き起こすハイリスク型の識別が可能になり、病原性や発がん性を証明できた。簡便な検査法や感染を予防するワクチンも登場し、臨床現場に『がんの予防』という概念をもたらした」と強調した。そして、締めの言葉として「私たちがすべきことは、まだ残っている!」と聴衆に呼び掛け、今後のさらなる研究の進展に期待を表した。

 講演後、壇上には世界の多くの人々が駆け上がり、ハウゼン氏に賞賛の言葉をかけた。

細胞診とHPV検査の併用で検診の精度を高める
 今年のEUROGINでは、検診における新たな検査方法「HPV−DNA検査」についても、多くの演者が発表したり、ディスカッションで議論になったりした。

 従来から行われてきた細胞診は、子宮頸部の細胞をブラシなどで擦り取り、細胞ががん化し異常な形に変化していることを顕微鏡で見て調べる方法。これに対し、HPV-DNA検査は、細胞診と同じように採取した細胞からDNAを抽出して、HPVに特異的なDNA配列を検出する方法だ。つまりHPV検査では、HPVに感染しているかどうかが判断できるというわけだ。

 日本では、これまで細胞診を中心に検査が行われてきた。日本の細胞診のレベルは世界でもトップクラスだが、それでも、どうしても判別しにくい細胞の変化が見られる。そこで、細胞診とHPV検査を組み合わせることで、検診の精度を高めることができるとして、その普及が期待されている。

 さらに、HPV−DNA検査でHPVがどの型か特定できるようになり、型ごとのウイルス感染から前がん病変までの期間が明らかになりつつある(*)。感染したウイルスの型によって、自分がどのぐらいの頻度でがん検診を受けるべきか、個別に予定を立てられる。このような無駄のない検診スケジュールは、医療費削減にもつながるだろう。

 EUROGINへの参加が5回目という自治医科大学附属さいたま医療センター産婦人科教授の今野良氏は、「今年のEUROGINでは、HPV検査についての発表が相次いだ。子宮頸がんの予防では、『HPVワクチンとがん検診が両輪になる』と言われているが、そのがん検診において、HPV検査がますます欠かせないものになってきた。今後は、HPV検査を細胞診とどのように組み合わせていくべきか、先進国と発展途上国それぞれにおいて最適な方法を構築するための取り組みがなされていくだろう」と話している。

 日本でも毎年約1万5千人の女性に子宮頸がんが発生し、そのうちの約2500人が亡くなっている。予防ワクチンの接種が可能になり、がんになる前の細胞の異形成(「前がん病変」)を検診で発見できる今、「子宮頸がんで死んではいけない時代がきた」――学会で数々の講演を聴きながら、筆者は実感した。

*北海道大学大学院医学研究科産婦人科准教授の渡利英道氏の研究。EUROGINで発表された内容については、がんナビニュースに掲載。

(福原麻希=医療ジャーナリスト)

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