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レポート

2010/3/16

英国「マギーズ・センター」のがん相談支援活動に学ぶ

「生きる喜びを感じられる安息所がほしい」

 英国各地には「マギーズ・キャンサー・ケアリング・センター」と呼ばれるがん相談支援センターがある。1人の乳がん患者の願いから始まったこのセンターの活動に、がん患者が自分の力を取り戻すための支援のあり方を学ぼうと、東京のNPO団体「30年後の医療の姿を考える会」がマギーズ・センターの関係者を招き、2月21日に聖路加看護大学アリス・S・ジョンメモリアルホールで市民公開シンポジウムを開催した。



がん患者が自分本来の力を取り戻すためのサポートを

写真1 ローラ・リー氏(右)とサラ・ビアード氏
「マギーズ・センターの活動を国際的にも広げたいと考えている」と、日本での設立にも期待を寄せた。
 シンポジウムの基調講演では、マギーズ・キャンサー・ケアリング・センター(以下、マギーズ・センター)の最高経営責任者であるローラ・リー氏と事業開発ディレクターのサラ・ビアード氏(写真1)が登壇し、設立の背景や目的、活動の概要について語った。

 マギーズ・センターは再発乳がん患者であったマギー・ケズウィック・ジェンクス氏の遺志を引き継いだ人々によって1996年にエンジンバラに設立され、現在は同じ方式のセンターを全英9カ所、香港1カ所で展開している。がん専門看護師としてマギー氏の看護を担当していたリー氏によると、マギー氏は生前「病人ではなく1人の人間に戻れる、そして死の恐怖の中にあっても生きる喜びを感じられる小さな家庭的な安息所がほしい」と望んでいたそうだ。

 マギー氏は再発がんと闘いながら、リー氏や担当医と一緒にマギーズ・センターの原型となるがん相談支援センターの青写真を描いていった。リー氏は「私たちの出発点を忘れないために、彼女の名前を冠したセンター名にした」と由来を語り、この相談支援活動が患者の視点から始まったものであることを強調した。

 英国各地のマギーズ・センターは、がん専門看護師や臨床心理士、福祉士をはじめ4〜6人の専門家によって運営されている。年間25万〜35万ポンド(1ポンド約135円)かかる運営費は、チャリティーイベントや寄付など地域社会からの支援によってすべて賄われている。ここではがん患者とその家族、友人、介護者を対象としたさまざまなプログラム(カウンセリング、栄養指導、ヨガ、太極拳、子どもへのケアなど)を無料で提供し、専門スタッフが常時、治療法の選択から心のつらさや不安、経済的な問題まであらゆる相談に乗る。

 リー氏は「私たちは、がん患者さんやその関係者が抱く喪失感や絶望感、無力感に対応するためのさまざまなプログラムを用意しています。がん種を問わず、どの段階からでも、その人が必要とする限りサポートを続け、がんになっても患者さんが自分本来の力を取り戻し、生きられるように支援することを目的としています」と説明した。

有名な建築家が無償で設計、家庭的な雰囲気を重視

写真2 エンジンバラ・マギーズ・センターの外観
マギーズ・センターの第1号で、ウエスタン総合病院の敷地内にある。マギー氏自身が病床から友人の建築家に設計を依頼した。(photo:koji fujii/Nacasa&Partners Inc.)。


写真3 エンジンバラ・マギーズ・センターの居間
家庭的な雰囲気の中で、心理サポートをはじめ、さまざまなプログラムが提供されている。(photo:koji fujii/Nacasa&Partners Inc.)
 マギーズ・センターのもう1つの大きな特徴は、環境の力を重視している点だ。造園家で中国庭園の研究家だったマギー氏は「建築と環境が人間の心に深い影響を与える」と考え、精神面を刺激し回復させるような建物を造ることもセンターの目的の1つにした。そんなマギー氏の思いに賛同した著名な建築家たちが、各地のマギーズ・センターを無償で設計(写真2)。ちなみにサウス・ウエスト・ウェールズにあるマギーズ・センターは、黒川紀章氏が設計した建物だそうだ。

 外観は建築家の自由な発想に委ねられているが、利用する患者や家族が安心して訪れることができるよう内装は家庭的な雰囲気を大事にしている(写真3)。建物の広さは約280m2と小規模で、自然で明るい採光、薪ストーブのある居間やオープン・キッチンを配し、利用者は自分の家にいるような感覚で相談をしたり、プログラムを受けられたりする。

 また、マギーズ・センターは独立した組織だが、がん拠点病院の敷地に立地していることも特徴の1つだ。患者や家族が通院や見舞いのついでに気軽に立ち寄れるだけでなく、マギーズ・センターのスタッフと病院の医療スタッフが連携しながら支援を行えるなどのメリットがある。ビアード氏は「将来は、全英すべてのがん拠点病院にマギーズ・センターを配置していきたい」と抱負を語った。

患者と医療者の協業があってこそ支援プログラムが成功する

写真4 パネルディスカッションの様子
相談支援の実際や資金調達のポイントなど、運営に関する具体的な質問も相次いだ。
 後半のパネルディスカッションでは、日本の行政関係者、患者家族、看護師のパネリストを交え、日英におけるがん相談支援のあり方を比較しつつ、がん患者が自分の力を取り戻すためには、どのような支援が必要なのかについて話し合われた(写真4)。

 コーディネーターの秋山正子氏(30年後の医療を考える会会長・白十字訪問看護ステーション統括部長)は、相談支援のあり方として、日本ではがん診療拠点病院の中に相談支援センターが設置され、その病院のスタッフが運営しているのに対し、マギーズ・センターは病院の外にあり、独立した組織として運営されていることが大きな違いであると指摘した。

 リー氏は「患者や家族が、医師や看護師に気兼ねすることなく相談するためには、独立した組織であることが非常に重要です。また、家庭的な雰囲気を提供することにより、患者や家族はマギーズ・センターを“医療者の場”ではなく“自分たちの場”だと感じ、気持ちを率直に語れる点においても環境の持つ力は大きい」と話した。

 日本の患者や家族の間でも、以前から「相談支援センターに相談すると、その内容が担当医に伝わり、治療にマイナスに働くのではないか」といった不安がある。こうした状況も踏まえ、パネリストの1人として参加していた厚生労働省がん対策室室長の鈴木健彦氏には「がん相談支援センターを院外に設置することを認めてほしい」との要望が秋山氏から寄せられた。これに対し、鈴木氏は「がん相談支援センターの設置について院内・院外の規定はなく、がん診療拠点病院が“相談支援”という機能を持つことを重視している」と説明した。

 また、フロアの患者団体関係者から「日本でも患者や家族が立ち上げた患者サロンが広がっている。患者サロンやマギーズ・センターのような場所が増えることで、患者も自分の闘病体験を生かせる」との発言があった。リー氏は、患者や家族が始めた患者サロンのイニシアチブに期待しつつ、「患者と医療者がサークルを作ることが大事。専門スタッフやサポーターがいてこそ、マギーズ・センターのプログラムも成功すると考えている」と、両者の協業の大切さを示唆した。

 マギーズ・センターの活動は、「患者の本来の力を取り戻す」という視点から、日本における相談支援のあり方に重要なヒントを与えてくれたようだ。30年後の医療を考える会では、今後、医療関係者や建築家、がん患者や家族、ジャーナリストらと協力しながら、日本版マギーズ・センターの実現に向け、準備を進めていきたいとしている。

(渡辺千鶴=医療ライター)

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