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レポート

2010/3/2

ワクチン全額助成で子宮頸がんゼロを目指す

志木市・長沼明市長インタビュー

 ワクチンで予防できる唯一のがんが、子宮の入口部分にできる子宮頸がんだ。この予防ワクチンは、2009年10月に厚生労働省から承認され、同年12月22日から接種可能となった。だが、5万〜6万円ほどかかる接種費用が普及の壁となることが懸念されている。そんな中、公費負担による接種の方針を打ち出す自治体が出始めた。こうした自治体の1つである、埼玉県志木市の長沼明市長に、がん対策にかける意気込みを聞いた。



市長は、がん予防を健康面における政策の最優先課題に掲げていらっしゃいますが、その理由をお聞かせください。

長沼 明 氏(ながぬま あきら)
1954年生まれ。25歳で志木市議会議員に初当選。市議を6期、埼玉県議を3期務めた後、2005年志木市長選挙に初当選。現在2期目。
 2008年における志木市の市民の死因のトップは悪性新生物、つまり、がんでした。亡くなった458人のうち144人、およそ3人に1人が、がんが原因で死亡しているのです。

 行政の役割の1つは、市民の健康と市民の生命・財産を守ることだと思います。例えば、交通事故による死者が発生しないように、PTAや地域の協力を得て、交通安全運動を実施したり、実際に死亡事故が起きれば、警察や道路管理者(県)などと協議をして、信号機を設置したり、歩道を整備したりして、死亡事故が起きないよう対策を講じます。火災予防運動であれば、消防団や地域に協力をお願いしたりして、啓発活動に取り組んだり、住宅用火災警報器の設置を義務付ける条例を制定したりして、市民が、より安心・安全に地域生活を送れるよう、施策を展開します。

 その結果、志木市では、平成21年においては、市内における市民の交通事故による死者はゼロでしたし、住宅火災による死者もゼロでした。

 一方で、市内にはがんによる死者が144名もいるというのに、交通事故や住宅火災による死者ゼロを目指すのと同じ取り組みが、がん対策に対しても取り組めていたのだろうかと深く反省しています。

 がんの予防は、検診によって早期に発見し、早期に治療することにで、死亡率を下げることができる疾病と理解しています。データの取り方に差異はありますが、志木市の場合、乳がん検診の受診率は9.7%、子宮がん検診の受診率については7.5%と、国の20%程度と比べて、低くなっていました(図1)。


※国及び県の受診率は「平成19年の国民生活基礎調査」による。志木市の受診率は平成20年度の健康増進法に基く実績値。
 そこで、昨年の市長選のマニフェストでは、「肺がん・胃がん・大腸がん・子宮がん・乳がんの、がん検診受診率50%」という目標を掲げ、この目標に到達するための様々な施策の推進を公約しました。例えば、一定の年齢層の女性に対しては、子宮がん検診および乳がん検診の無料化、がん検診手帳の発行などを行うほか、子宮頸がん予防ワクチンの全額助成を検討することなどを掲げました。

これらのがん対策の中でも、子宮頸がんワクチンの全額助成が目を引きます。なぜ、このワクチンに助成金を付けようとお考えになったのですか。
 専門家によれば、子宮頸がんは、近年、20歳代・30歳代のがんのなかで、罹患率・死亡率とも第1位になってきているということです。あわせて、20歳代・30歳代は、子どもを産み育てる大切な時期であり、この時期に子宮頸がんで死亡したり、治療で、子宮摘出となれば、生まれるはずの命も失うということになり、社会的損失は実に大きいと認識しています。

 子宮頸がんは、がんのなかで、唯一、ワクチンと検診で防ぐことができるがんといわれています。子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染が原因で発症しますが、HPVワクチンは罹患率そのものを低減させ、検診は早期発見・早期治療による死亡率の低減をもたらします。

 志木市では、小学生または中学生の時期に子宮頸がん予防ワクチンを接種し、そして20歳からの子宮がん検診を受診していただくことで、将来の妊娠・出産など女性の健康面を支え、すべての市民が健康で安心な生活が送れるよう健康支援策を実施したいと考えました。

具体的には、どのように接種を進めていく予定ですか。
 HPVは主に性交渉で感染するため、性交渉を経験する前にワクチン接種をすることが最も効果的だと言われています。そこで、小学6年生から中学3年生までの女子を対象に、子宮頸がん予防ワクチンの接種を無料で受けられるように、全額公費負担で実施します。

 十分な予防効果を得るには、ワクチンの接種は3回(初回・1カ月後・3カ月後)必要で、1人当たり5万〜6万円の費用がかかります。対象者は約1200人で、その10%が接種すると見込んだ予算、約840万円を、事業費として平成22年度予算に計上しています。もちろん、これ以上の接種希望者あれば、当然、補正予算を講じます。3月下旬に市議会で新年度予算が可決されれば、平成22年度から実施する予定です。

助成はどういう形で実施するのですか。
 詳細については、議会での議論を踏まえながら詰めていきたいと考えています。ただ、先程申し上げたように、このワクチンは、半年間の間に3回の接種が必要になります。志木市と地元医師会で契約して、3回のワクチンを接種した後に医療機関が市に請求するのか、あるいは、接種した子どもの保護者にいったん自費で立て替えておいていただき、すべての接種が終わった段階で、市に申請していただく、償還払い方式(払い戻す)とするのかは、まだ検討中です。

予防ワクチンの接種は、性教育とも併せて啓発していかなくてはならない問題です。小学校や中学校の授業カリキュラムに組み込むといったことは検討されていますか。
 学校教育の内容については、教育委員会の権限となります。いずれにしても、教育委員会と連携を図りながら、健康教育として、子宮頸がんがワクチン接種や検診で予防できることを、学校現場の保健教育の中に盛り込んでいただければと考えております。そのためには、市教育委員会を通じ、校長会のご理解とご協力をいただきながら、あわせて、養護教諭への必要な情報の提供について、施策をすすめていきたいと考えています。

 まず、2月24日には、子宮頸がん研究の第一人者である、自治医科大学附属さいたま医療センター産科婦人科教授の今野良先生をお招きして、教育委員会の幹部職員をはじめ、小中学校の校長、養護教諭など、関係者が一堂に会して、研修会を開催しました。

 また、接種において最も不安を抱かれるのが保護者です。そういった不安を取り除くためにも、保護者の方々にも今野先生や専門家のお話を聞ける機会を設けたいと考えています。ワクチンの重要性や正しい知識を、行政から積極的に発信することで、学校と家庭の理解を得て、新年度から公費助成による接種を実施する体制を整えることができればと思います。

ワクチンで子宮頸がんはどの程度予防できるのでしょうか。ワクチン以外にはどういう対策が必要となってきますか。
 専門家によれば、現在日本で接種可能な子宮頸がん予防ワクチンは、子宮頸がんの原因となる約15種類のHPVのうち、特に頻度の高い16型と18型に対する抗体を作らせるワクチン、ということです。このワクチンを3回接種することで、最低でも20年以上、効果が期待できるとされています。今野先生によると、仮に12歳の女児全員にHPVワクチンを接種すれば、将来子宮頸がんにかかる人を約70%減らせるそうです。さらに、がん検診を定期的に実施し、前がん病変を見つけていくことで、子宮頸がんはほぼ100%予防できると期待されています。

 そのためには、がん検診の受診率も高めていく必要があります。そこで志木市では昨年5月、市民病院の隣にあった保健センターをリニューアルして、総合健診センターとしてスタートさせました。今では人間ドックも含めた検診の専門機関ということで、市民から一定の評価を得ています。

 特に、乳がん検診における総合健診センター設置の効果は大きく、市民病院時代と比べると、5倍を超える人数の方が既に受診していただいています。また、志木市内で、特定保健指導で積極的支援までを実施している医療機関はこの総合健診センターだけであり、まさに市民の健康をサポートする拠点となっています。

 ただし、女性特有のがん検診のための無料クーポンの利用状況をみると、20歳では対象者の2%にも満たない受診状況であり、予想したほど利用されていません。受診率の向上のために、ひと工夫が必要だと考えています。

がん検診の受診率を上げるためには、どうすればいいのでしょう。
 著名人をお招きして、お話をしていただくのが一番効果的かもしれません。昨年の5月に、乳がんを経験したタレントの山田邦子さんをお招きしたことがあるのですが、実際に病気を経験された方の言葉には重みと説得力があります。山田さんの講演があった当日に、会場で検診の受付も実施しましたが、その場で20数件の予約がありました。これからもさまざまな形で啓発活動を実施して、受診率を高めていきたいと思っています。

 子宮頸がんの予防ワクチンの公費負担という取り組みについては、兵庫県明石市や新潟県魚沼市、東京都杉並区など、一部の自治体がスタートさせたばかりです。どこかの自治体にモデルとなるお手本があるわけではありません。前例がない分、マニュアルもありません。その分やりがいがあります。これからも、工夫をしながら、一歩一歩進めていきたいと思います。地道に取り組んでいけば、あるとき突然、世の中全体が動き出すこともあると思います。

自分が住む街でも、子宮頸がんワクチンの公費負担を望む場合、どうしたらいいでしょう。
 市長というものは、市民のためになると思ったことは、できるかぎり実現したいと思っています。市民のみなさんは、なかなか市長と直接話す機会はないと思っていらっしゃるかもしれませんが、PTAの総会や町内会の会合で市長を見つけたときに、気軽に話しかけていただくのが、私はいいと思います。また、市役所にメールを送信したり、手紙を書くのもひとつの有効な方法だと思います。まず、どの市長も目を通していると思います。たくさんの人が同じ内容の文面で送ってきたものより、たった一人の市民の何気ない立ち話に、心を動かされることもあります。私は、市民の何気ない声を大切にしたいと考えています。

(取材・構成:高島三幸)

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