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レポート

2009/12/15

再評価が始まる縮小手術

体への負担が少ない手術法で早期肺がんの治癒は目指せるか

 肺がんに対する縮小手術はこれまで、標準的な手術である肺葉切除術とリンパ節郭清が行えない患者を対象とした、消極的な位置づけのものだった。近年、小さな肺がんが発見される機会が増加し、縮小手術の一つである区域切除術が見直されつつある。区域切除術を胸腔鏡下で行えばより理想的だが、難易度が高く、まだ確立された方法ではない。肺がんに対する胸腔鏡手術の開発に積極的に取り組んできた北海道大学第二外科(呼吸器外科)診療准教授の加賀基知三氏に、現状と課題を聞いた。

北海道大学の加賀基知三氏

 右肺は3つ、左肺は2つの肺葉に分かれており、さらに肺葉は右が10、左が8の区域から成る。肺の区域を単位として切除する肺区域切除術は、肺葉切除術よりも呼吸機能を温存する手術として、結核などの良性疾患に対する外科治療として1960年代ごろに盛んに行われた。しかし、その後は化学療法の発達により行われることが少なくなった。

 縮小手術が肺がんに対する治療として成り立つかという検証が、かつて行われた。しかし、術後の再発率が高いことがわかり、現在では肺がんの標準的な手術は肺葉切除術とリンパ節郭清となっている。そのため、縮小手術の一つである肺区域切除術は、標準的な手術を行うことができない肺がん患者に対する「消極的縮小手術」として行われている。「消極的縮小手術」の対象となるのは、多発性の肺がんで呼吸機能を保つことを目的とする場合や、手術前の呼吸機能が不良であったり合併症が安定していなかったりするなど、標準的な肺葉切除術では身体への負担が大きすぎる場合などである。

 最近になって、早期の肺がんに対し肺区域切除術で治癒を目指す「積極的縮小手術」が見直されるようになり、肺区域切除術の臨床試験が開始された。

 その背景には、「CTなど近年の診断技術が進歩し、がんが早期の小さな段階で発見される機会が増えたことがある」と加賀氏は話す。ただし、試験は開始されたばかりで、まだ検証の段階である。「この手術の効果を判断するには少なくとも5年後の成績を待つ必要があり、日常臨床での実現の可否については慎重にみていかなくてはならない」と加賀氏は話している。

 現在、呼吸器外科領域で広く行われている胸腔鏡手術は、開胸手術と比べて手術後の傷の痛みや呼吸機能の損失が小さく、術後の回復が早い。そのため高齢者や合併症がある症例にも手術の適応を広げる可能性がある。肺区域切除術は肺葉切除術よりも技術的に難しく、しかも胸腔鏡手術で肺区域切除術が確実に行える施設と医師はさらに限られるという。

写真1:肺のCT画像。右肺上葉のすりガラス状陰影(矢印)。黒い肺野に白く淡い影を認める

3DCTで切除する区域を同定
 その肺がん患者が、積極的縮小手術としての区域切除術の適応となるかどうかについては、基準はまだ確立されておらず、各施設で検討中だ。加賀氏らは、腫瘍径、陽電子放射断層撮影法(PET)standardized uptake value(SUV)max、すりガラス陰影(GGO)率の3つを組み合わせ、適応を決定している。

 PET検査とは、がん細胞が正常細胞よりもエネルギー源であるブドウ糖を多く取り込むことを利用した検査のこと。放射性同位元素をブドウ糖と合わせたフルオロデオキシグルコース(FDG)と呼ばれる物質を注射し、がんに集積した放射性同位元素の濃さを表した時の最も高い数値がPET SUVmax値だ。

 加賀氏らの肺がん210例の検討で、PET SUVmaxの値が5年生存率をよく反映していることから、PET SUVmax値は肺がんの優れた予後予測因子となることがわかった。この結果からは、2cm以下の小型末梢非小細胞肺がんで、PET SUVmaxが1以下の場合を縮小手術の対象としている。

 GGO(写真:1)とは初期の肺がんのレントゲンやCTにみられる淡いすりガラス陰影で、GGO率とはこのすりガラス陰影が腫瘍の大きさに占める割合を指す。同氏らは、GGO率が75%以上(すなわち、より早期のもの)には部分切除術、75%未満の場合は区域切除術とリンパ節郭清を行うこととしている。

 肺葉は胸膜で被覆されて分かれているため肉眼で識別できるが、肺の区域は実際には分かれていない。そのため、肺区域切除術では、区域をどのように同定するかが大きな課題である。加賀氏らは、術前の3DCT(写真:2)の画像から区域の血管を同定している。利点として、(1)切断すべき血管と残すべき血管を明らかにできる、(2)術前のシミュレーションと術中のナビゲーションを行うことができる、(3)学生や研修医への指導に用いることができる――といったことがあるという。

写真2:肺の3D-CT画像。肺区域に分布する血管、気管支がわかる。肺動脈が赤、静脈が青、気管支が緑

積極的縮小手術例の長期的な経過観察が必要
 加賀氏らは、2000〜2009年に同科で手術を行った肺がん患者538人中、24人に完全胸腔鏡下で肺区域切除術を行った。

 このうち積極的縮小手術は8人(年齢中央値62歳)、消極的縮小手術(同70歳)は16人だった。いずれの手術でも術後30日以内の死亡はなかった。術後最も多かった合併症は肺からの空気漏れだった。生存期間は観察中であるが、現時点では積極的縮小手術の8人に再発や死亡は認められていない。

 加賀氏は「今後、長期的に慎重に経過を観察し、さらに症例を積み重ねて評価していきたい」と話している。(森下 紀代美=医学ライター)

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