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レポート

2009/12/8

医師の技術力アップのために

「献体」を活かす体制作りを

 十分な経験のない医師が難しい手術を行った結果、患者が死亡した――。こうしたニュースが時に報道されるが、では医師はどのようにして十分な経験を積むのだろうか。まずはコンピューターによるシミュレーションや、模型・動物を用いたトレーニングが挙げられる。しかし、一人ひとり異なる神経や血管の複雑な走行や周辺臓器との立体関係を把握するには、こうしたトレーニングだけでは不十分だ。12月3日から5日にかけて東京で開催された第22回日本内視鏡外科学会総会では、腹腔鏡手術の修練をテーマに、献体をめぐる議論が交わされた。

 日本で手術手技の習得に中心的な役割を果たしている動物を用いたトレーニングは、海外では動物愛護の観点から反対意見が根強く、シミュレーションや献体(Cadaver)を用いたトレーニングが主体となっている。海外では、献体を臓器別にまたは胴体や脚といった部位別に分けて、さまざまな診療科の医師が使用することも広く行われているのだ。

 以前から日本人は、死因究明の解剖や移植臓器の摘出であっても、遺体に傷がつくことを嫌がる、とされてきた。しかし、札幌医科大学解剖学第一講座の辰巳治之氏によれば、同大学の献体登録者は年々増加しており、保存が難しいとの理由で登録者を70歳以上に制限しているという。同じ理由で献体を断っている施設もあるそうだ。辰巳氏は「安心して安全な医療を受けたいという患者側のニーズが高まっているためではないか」とみる。

日本では医学生以外の使用は違法!?
 1997年、死体頭部を輸入して開催された、歯科インプラント手技習得のワークショップに対し、当時の厚生省は「死体解剖保存法で解剖として許されているのは、教育・研究のための内部組織の観察を目的とした行為のみであり、技術の習得を目的として行われる場合には刑法の規定する死体損壊罪に当たる恐れがある」という見解を示した。医学生の解剖実習以外に献体を使用すべきではないとの立場だと言える。

 ところが、2007年に献体の現況について全国医科・歯科大学109校に調査した結果をみると、臨床研究に用いている大学が46校、研修医教育が30校、他医療系教育機関のための解剖学教育が13校、臨床解剖が12校などとなっている。臨床医教育との回答が2校、手術手技研究との回答も1校あった。実際には、目的外と思われる使用が少なくないことがわかる。

 医師のトレーニングに関する実態と問題点を調査するため、2008年度厚生労働科学研究費補助金研究として「外科系医療技術修練の在り方に関する研究班」が発足した。研究班への参加学会は、外科系関連学会協議会の13学会と日本医学会分科会の11学会。調査では、臓器別、難度別に代表的な術式をそのトレーニング方法ごとに検討、それぞれのトレーニング方法の長所・短所、他の方法による代替が可能かといった点を調べた。

 研究班のメンバーである北海道大学腫瘍外科の七戸俊明氏は結果について、「シミュレーションは広く普及していない。動物を用いる方法は実験施設が限られており、費用も高く、今後の充実が望まれる。いわゆるOJT(On the Job Training)は、施設間の差をなくし標準的な指標を定める必要がある」と指摘。献体を用いる方法については、「高度で複雑な手技を要する腹腔鏡手術などの領域ではニーズが高く、海外でトレーニングコースを受講している実態が明らかになった。国内での実施に向けた環境整備が必要」とした。

施設の立ち上げにはまだ課題山積
 そこで、2009年度には同補助金研究として「サージカルトレーニングに関する研究班」が立ち上げられた。研究班が各大学の解剖学教室に対し、医学生に対する解剖実習以外に、献体を使用したことがあるか尋ねたところ、99施設中42施設が「医師の手術手技実習にも使用している」と回答した。

 また、篤志解剖団体に対し、解剖実習と同様に医師が手術手技の実習を行うことについて意見を尋ねたところ、35団体中21団体が「医学の進歩に役立つのであれば、解剖実習も手術手技実習も受け入れられる」と回答。「献体は解剖実習が目的であり、手術手技実習は拒否したい」との回答は6団体だった。

 七戸氏は、「運営主体をどこにするか、費用負担をどうするか、献体の輸入は可能なのかなど、解決すべき課題は多いが、日本でも献体を用いたトレーニング施設の運営を検討していきたい」と結んだ。

 既に札幌医科大学では、多施設と協力しながら、献体を用いた手術解剖・実技セミナーを行っている。辰巳氏は「医師の手術手技研修にご遺体を使用してもよいという承諾書を別にいただき、法的な問題をクリアしている。ただ、一施設で行えることには限りがあるので、早期に独立したトレーニングセンターの設立が望まれる」と期待を込めた。(小又 理恵子)

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