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レポート

2009/11/17

日本癌治療学会で初の試み

学会と患者の協働で、がん医療を変える!

 「がん医療向上のためには、医療者とがん患者・支援者の連携や協働は必要」と思う医師が8割以上――。そんな調査結果をもとに、「患者ができること」「学会ができること」について患者と医師がともに考える機会を持ったところ、患者も医療者も同じ目線で、同じような施策を求めていることが分かった。




 10月22日から24日に横浜市で開催された第47回日本癌治療学会学術集会の特別企画シンポジウム「がん医療改革に向け、学会と患者が共にできること」では、がん医療の現状と、今必要な施策について、医療者、患者・家族・支援者、行政担当者が登壇し、熱い議論が交わされた(写真1)。

写真1:第47回日本癌治療学会学術集会の特別企画シンポジウム「がん医療改革に向け、学会と患者が共にできること」の登壇者

写真1:第47回日本癌治療学会学術集会の特別企画シンポジウム「がん医療改革に向け、学会と患者が共にできること」

 シンポジウムは、同学会が学会会員を対象にしたアンケート調査結果を発表しながら進められた(有効回答数は665人)。この調査は悪性リンパ腫の患者・家族連絡会ネクサスの理事長で、厚生労働省がん対策推進協議会会長代理などを務める天野慎介氏が企画・立案し、学会長の岩手医科大学医学部産婦人科教授の杉山徹氏らと話し合いながら作成されたという。

 調査では主に、(1)臨床現場の医師の労働環境、(2)がん対策全般、(3)がん対策予算や医療費について、現況や意識を問うと同時に、厚生労働省がん対策推進協議会が策定した「平成22年度がん対策予算に向けた提案書」に盛り込まれている推奨施策について回答や意見を得た。

 会場では、医療者のほか、学会参加費、交通費、宿泊費を助成する「スカラーシッププログラム」で選考されたがん患者・支援者、国・都道府県がん対策推進協議会委員も来場し、その結果発表を見守った。おもな結果は次の通り。

(1)臨床現場の医師の労働環境
・週の平均労働時間は60時間以上が6割超、「90時間以上」も8.1%
   慢性的に忙しい現場の状況が浮き彫りに。
・現在の労働時間について。「かなり過重である」25.4%、「やや過重である」49.9%
   全体の4分の3から悲鳴が聞こえてきた。
・医師の負担を減らすために必要なことは「医師以外の職員への業務移行」36.8%
   チーム医療による業務分担が、いまこそ求められている。

(2)がん対策全般
・2007年のがん対策基本法施行後、がん医療の現場はよくなったか。「そう思わない」24.4%、「あまりそう思わない」47.7%
   全体の7割が「よくなっていない」と感じている。
・がんの臨床試験や研究に関わる環境にはよくなったか。「そう思わない」23.6%、「あまりそう思わない」54.0%
   こちらも、全体の7割以上が「環境は変わっていない」と感じている。
・がん医療向上のために、医療者とがん患者・支援者の連携や協働は必要か。「強くそう思う」34.4%、「ややそう思う」50.4%
   医療現場では、おおむね連携や協働の必要性を感じているようだ。  

(3)がん対策予算や医療費に関して
・がん対策予算は十分か。「そう思わない」38%、「あまりそう思わない」44%
   全体の8割が「予算は足りない」としている。

臨床現場はどのような施策を重要と考えるか
 厚生労働省がん対策推進協議会が策定した「平成22年度がん対策予算に向けた提案書」には、70本の推奨施策が盛り込まれている。これは、都道府県がん対策推進協議会委員や都道府県庁がん対策担当者を対象としたアンケート調査、さらには、東京や仙台で開催したタウンミーティングにおいて、全国の患者、医療従事者、地方行政の担当者からの意見を集約したもの。

今回の学会会員を対象としたアンケートでは、それらを「がん、および、がん対策の現況の“見える化”(可視化)」「がん診療に関する医療従事者の確保と育成」「がん難民対策(切れ目のない医療の実現)」の三つのテーマに大別し、それぞれ重要と思われる施策はどれかについても回答してもらった。

 主な結果は次の通り。

・がん、および、がん対策の現況の“見える化”(可視化)
  <重要と考える施策>
1位=がんに関わる医療従事者の計画的育成
   必要とされる医療者数を算定し、年度別の育成計画や予算を策定。
2位=質の評価ができる評価体制の構築
   がん医療の質や患者満足度などを評価できる指標と体制作り。
3位=切れ目のない終末期医療のためのアクションプラン
   在宅・緩和に関わる医療資源を算定・公開し、行動計画を策定。

 調査結果を発表した天野氏は、患者のできることとして「がん対策策定プロセス」「医療の質」「より良い医療のための議論」の“見える化”を提案。とくに、「患者や市民、医療者、メディア、企業、行政、立法を巻き込んだアンケートやタウンミーティングを開催し、現場の視点からの“見える化”の場を設定する」と提案した。コメンテーターとして登壇した、がんとともに生きる会副会長の海辺陽子氏からは「日本にはデータがないので、PDCA(Plan,Do,Check,Act)サイクルができず、いつも印象や感想ばかり。とはいえ、今回の調査結果から分かるように、医療現場は疲弊している。データ収集のための予算を確保してほしい」という意見が出された。

 学会ができることとして、岡山大学第二内科の谷本光音氏からは「がん診療従事者育成のための教育プログラム作成」「5大がんのがん治療成績として5年生存率の公開」「早期からの緩和医療へのアクセス」など、七つの提言を行った。

 また、東京都立駒込病院の佐々木常雄氏は「マスコミでは手術数など表面的なことばかり報道される。でも、データの中には、早期がんばかり、合併症のない人ばかりの例も多く見られる。今後は質の評価が大切」と発言。真の“見える化”のためには、データを出す側と情報を受け取る側の医療リテラシーを高めることも重要といえる。

・がん診療に関する医療従事者の確保と育成
  <重要と考える施策>
1位=専門・認定看護師への特別報酬
   専門を持つ医療専門職のスキルを評価。
2位=専門資格を取得する医療従事者への奨学金制度の創設
   資格取得にともなう減収や無収入期間が生じる医療者をサポート。
3位=がん薬物療法専門家のためのe-ラーニングシステム
   講習会出席による現場負担を軽減するとともに、医療者の質の担保を。

 海辺氏は、「医療の全体像や動向、資源について、患者や一般市民が知り、守り育てる。限りある資源の中で何を求め、何を我慢するかコンセンサスを得るべき」と発言、佐々木氏も「医療従事者の確保と育成に関して、(患者や一般市民と)一緒に検討する場が必要なのではないか」と提言した。広島県福祉健康部の迫井正深氏は「医療従事者の確保や育成には予算が必要。そのためには病気でない一般健常者の理解を得ることも大切」とコメントした。

・がん難民対策(切れ目のない医療の実現)
  <重要と考える施策>
1位=在宅緩和医療をサポートする緊急入院病床の確保
   在宅療養患者の病状悪化時に、緊急かつ短期に入院できる病床の確保。
2位=地域統括相談支援センターの設置
   拠点病院の既存の相談支援センターを補完し、地域連携を促進。
3位=がん患者のQOL(生活の質)向上に向けた研究の促進
   副作用対策やQOL向上につながる研究に資金を提供。

 乳がんの患者会・あけぼの会副会長の富樫美佐子氏は、がん難民対策として患者や一般市民ができることとして「患者になる前に国民の義務として、がんを知ること。罹患時には自分・家族のがんを受容し、理解すること。疑問を解決する努力をして、不安をなるべく少なくすること。これらが大切」と発言。帝京大学医学部腫瘍内科教授の江口研二氏は学会、および医療関係者が努力すべきこととして、「医療機関内の緩和ケアの充実。地域における緩和ケアの役割分担と連携」「多職種チーム医療の研修・教育」を提言した。


写真2:Patient Advocate Loungにて。スカラーシッププログラムによって招待されたがん患者や支援者らと学会長の杉山氏(前列右から3人目)

写真2:Patient Advocate Loungにて。スカラーシッププログラムによって招待されたがん患者や支援者らと学会長の杉山氏(前列右から3人目)

 シンポジウムを終えて、天野氏は「患者と医療者が同じ立場で、同じ目線で協働する機会を、学会から提案されたときは、非常に感銘を受けた」。さらに「今回のような趣旨のシンポジウムが開かれただけでも大変な進歩。次のステップとして、学会がこれらの提言を受け止めて患者を交えて共に何ができるか。具体的なアクションプランに進んでいくことを期待しています」と話している。

 スカラーシッププログラムで招待された患者や支援者らは、専用のラウンジ「Patient Advocate Lounge」において、次年度以降も同様のプログラムが継続されるよう、杉山徹会長に感謝の言葉と署名入りの要望書を手渡した(写真2)。

(福原 麻希=医療ジャーナリスト)

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