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レポート

2009/11/2

香りで不安を癒やし、トリートメントでむくみや冷えを緩和

 手術で女性としての自信を喪失、抗がん剤治療の副作用による脱毛やホルモン療法などの副作用で、気分が滅入る、再発への不安から日々の生活が十分に楽しめない、術後の痛みやむくみも悩みの種――。そうした心の不安や、体の不調を癒やしてくれる「乳がん患者のためのアロマテラピー」があるという。薬剤師でアロマテラピストの長谷川記子さんに教わった。




 5年前に乳がんを発症したAさん(34歳)は語る。「長谷川さんが講師をしていた病院のセルフケア講座で、アロマテラピーを教えてもらいました。8クールの抗がん剤治療と1カ月半の放射線治療を受け、今もホルモン剤治療を続けていますが、つい気が滅入り、体が締め付けられるように感じることもあります。そんなときに、心を軽くしてくれるアロマテラピーが欠かせません。腕が重いときや疲れたときにも、自分でアロママッサージをして上手に心と身体をリフレッシュしています」――。

 乳がん温存手術の翌日、入院していた病院で手にアロママッサージを受けたことがきっかけで、その後も自分でアロマテラピーを実践している田中和恵さん(49歳)は、「術後は冷えによるひどい脚のだるさに悩まされました。しかし、アロママッサージでそれが改善して驚きました。今も冷えがつらいときには、足の指にアロマオイルを塗ってマッサージします。セルフケアももちろんのこと、他人にマッサージしてもらうと“一人ではない”という安心感も得られます」――。

古くから“医療”として用いられたアロマテラピー
 アロマテラピーとは、植物から芳香成分を抽出したエッセンシャルオイル(精油)を用いて行う「芳香療法」のこと。古代エジプト時代には、この精油が“医療”に用いられていたとされ、その歴史は古い。現在もイギリスやドイツなどでは、西洋医学と代替医療を組み合わせた統合医療の一つとして、医療現場にも普及している。

 日本では1998年に日本アロマテラピー学会が発足。日本緩和医療学会が2008年に出した「がん補完代替医療ガイドライン」でも、アロマテラピー介入後の患者の諸症状を評価した研究報告に基づき、「行うように勧められる」という推奨グレードBの評価を得るなど、様々なエビデンスが集積されつつある。

 アロマテラピー=芳香療法といっても、香りをかぐだけではない。前述のAさんや田中さんが行っているような「アロママッサージ」、入浴時に用いる「アロマバス」、そして精油の種類によっては、医師の指導のもと、内服に用いられる場合もある。

 では、がん患者にアロマテラピーは、どう役立つのだろうか。「特に効果を発揮するのが、心理的な症状の改善です。アロマテラピーには、がん患者さんの多くが抱いている、将来への不安や恐怖を軽減する作用があります。さらに乳がんのような女性特有のがんの場合、手術などにより女性としての自信を喪失するケースもしばしば。抗がん剤の副作用による脱毛では絶望感を感じる人も少なくありません。アロマテラピーにはそれらを取り除き、心を癒やす作用があります」と長谷川さん。

 精油に含まれる芳香成分が脳の視床下部に働きかけ、自律神経系や免疫系、内分泌系のバランスを整えると考えられている。自律神経系のバランスが取れることで「心に対する作用ばかりでなく、痛みから来る不快感といった身体症状の軽減にもつながるのです」と長谷川さん。

 実際、3年前に乳がんを発症し、温存手術を受け、乳がん患者のための市民団代イデアフォーで活動をしている向井伸子さん(60歳)も「入院していた病院で術後4日目に、背中のアロママッサージを受けました。そのおかげか背中の痛みが和らいだだけでなく、入院中に大きな緊張や不安を感じることなく過ごせました。眠るときにも睡眠薬が必要なかったほどです」とアロマ体験を語る。

むくみ対策にアロマトリートメント
 リンパ節郭清術を受けた後に生じるむくみの軽減にも、アロママッサージが役立つ。ただしここで注意したいのは、“強くもみ過ぎない”こと。「リンパを押したりせず、やさしくなでるようにマッサージします。その際には、深呼吸して香りを十分に吸い込むのがコツです。」(長谷川さん)。

 長谷川さんが勧めるのは、精油をマッサージ用のオイル(キャリアオイル)で1%未満に薄めたアロマオイルを用いて身体をやさしくなでる「アロマトリートメント」という手法だ。1%未満というのは、キャリアオイル10mLに対し、精油2滴ほどと、一般的なアロママッサージで用いられる濃度の2%に比べて薄め。というのは、がん患者の場合、抗がん剤や放射線治療などの影響で皮膚が敏感になっているからだ。

 また、敏感肌であったりアレルギーがある場合には、精油でトラブルが起きることもある。精油が直接肌に触れるアロマトリートメントを行う場合には、事前に使用する精油をオイルで薄めたものをガーゼやコットンにつけ、腕の内側に貼付けて1日ほど様子をみる「パッチテスト」を行うようにしたい。また、自分でアロマテラピーを行うのが不安であれば、アロマテラピーを取り入れている医療機関も増えている。ホームページなどで活動を紹介している施設もあるので相談するといいだろう。

 抗がん剤治療中は、冷えに悩まされることも少なくない。「そんなとき効果的なのは、両手を腰に当て、体側に沿って手をゆっくり上に押し上げるアロマトリートメントです。術後に肩の凝りや張りを感じるようなら、首筋にも。足のだるさなどがある場合には、足の指先からお尻までにも行いましょう」と長谷川さん(文末のイラスト参照)。

お勧めの精油、避けたい精油

お勧めの精油と避けたい精油

 さて、乳がん患者の場合、どの精油を選べばいいのだろうか。長谷川さんは、「症状ごとにお勧めの精油はありますが、基本的には自分が心地よいと思う香りがその人を癒やす香りです。その日の体調によっても、好きな香りは変わります。『この精油にはこの効果があるから』と、頭で考えて選ぶのではなく、そのときの自分の体の声に身を委ねましょう」と話す。また、精油を選ぶ際には、100%天然のオイルであること、精油名や学名、原産地などが記載されているもの、輸入元や製造元が書いてあることを確認する。初めてであれば、アロマテラピー専門店で購入するといい。

 その上で、特に乳がんの患者におすすめの香りは「真正ラベンダー」「ローズマリー」「ペパーミント」「ユーカリ」の4種類だという。「真正ラベンダーに含まれるリナロールという成分には、副交感神経の働きをよくして末梢血管を広げる作用があります。鎮静作用や誘眠作用、免疫力アップの効果が期待でき、イライラしているときに向きます。ただし、血管拡張作用により血圧を下げることがあるので、血圧が低い人は避けた方がいいでしょう。一方ローズマリーには、抗うつ作用、健胃作用、集中力アップなどの作用があるので、無気力、うつ気味で、元気になりたいときにおすすめです」(長谷川さん)。

 ユーカリやペパーミントも集中力や活力アップに効果的。「ユーカリには利尿作用があるので、むくみがあるときに使うとスッキリします。また、ペパーミントには吐き気を抑える作用があるので、抗がん剤による吐き気には、ペパーミントの香りをかいだり、ミントティーを飲むといい」(長谷川さん)という。

 一方で、乳がん患者が使ってはいけない精油もある。「ホルモン療法を受けている人は、アネトールやシトラールといったエストロゲン様成分を含む精油は控えましょう。例えばフェンネルやクラリセージ、アニスなどがそれに当たります」と長谷川さんは注意を促す。

(武田 京子=医療ライター)

アロマトリートメントの方法

イラスト/川崎のりこ(PLUMGRAFIX)

長谷川記子さん
薬剤師でアロマテラピスト。現在、免疫細胞療法などがんの代替医療を行う九段クリニック(東京都千代田区)で精油を用いたマッサージなどのアロマトリートメントを行うほか、「生と死を考える会」のアロマトリートメント講習会などの講師としても活動。著書に『ガンを癒すアロマテラピー』(リヨン社)がある

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