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レポート

2009/10/13

全国がんサロン交流会開催(下)

サロン22カ所、募金6億超を実現した島根の秘密

 がんの患者・家族が集まって療養体験などを語り合う「がんサロン」が22カ所もあり、9月末には「がん撲滅宣言」を全国に先駆けて採択した島根県。なぜ島根で、がん対策に取り組む機運が高まっているのか。9月21日に開催された「第1回全国がんサロン交流会in島根」のパネルディスカッションでは、患者や家族、医療関係者、企業、メディア、行政、県議会議員、教育関係者が、「七位一体」となってがん対策に取り組んできた成果を紹介した。



きっかけは患者の声から
 「患者や家族が集まるがんサロンの一番のメリットは、仮に治らないとしても、気持ちが非常に前向きになることです。島根県では、サロンのメンバー同士が情報交換して連携し、患者の声を集約して行政や医療関係者に働きかけ、がん対策を大きく変えるきっかけをつくりました」――。山陰放送TV総局統括担当部長の谷田人司さんは「変えるのは当事者の勇気」と題し、がんサロンに集まった患者・家族の声が島根県のがん医療・がん対策を変えてきた経緯を紹介した。

パネルディスカッションでは、がん患者・家族、医療関係者、報道関係者、行政担当者、県議会議員、看護短大教授、地元企業など、がん対策に関わる当事者が登壇

パネルディスカッションでは、がん患者・家族、医療関係者、報道関係者、行政担当者、県議会議員、看護短大教授、地元企業など、がん対策に関わる当事者が登壇

 医療報道などを担当する谷田さんは、がん医療の地域格差是正、未承認薬の早期承認を国や県に訴え続けた、報道カメラマンの故・佐藤均さんの同僚だった。佐藤さんは、「患者が声を上げ、考え、行動していけば、がん医療は絶対に変わる」と言い続けていたという。

 9月29日のレポートでも紹介したように、島根県には、がん患者・家族が療養体験を話し合ったり、勉強会を行ったりするがんサロンが現在22カ所ある。そのうち、病院内の一室を利用したサロンは12カ所で、医療関係者も積極的にサロンの運営に協力している。

 しかし、最初からすべての医療関係者が、サロン開設に前向きだったわけではない。「患者さんが、病院の中にがんサロンを開設したいと言ってきたとき、最初は、無理難題を押しつけられるのではないかと不安でした。でも、患者さんの生の声を聞くいいチャンスだし、医師・看護師不足や勤務医の厳しい状況など、現代の医療の難しさを知ってもらうことにもつながるのではないかと考えました」。がん診療連携拠点病院で、院内にがんサロン「ほっとサロン益田」を開設する益田赤十字病院(島根県益田市)副院長の岸本弘之さんは、そんな本音を吐露した。

 同院では、サロンに参加した患者の要望を受け、患者向けの勉強会、患者向けの図書コーナー、相談を受け付けるSOS箱の設置、ストーマ外来、緩和ケア研修会などをスタートさせる波及効果もあったという。

サロン設立を後押しした「がん対策推進条例」
 がんサロンが県内全域に広がったのは、2006年9月に成立した「島根県がん対策推進条例」(以下、がん条例)の力も大きい。島根県健康福祉部医療統括監の牧野由美子さんも、「条例ができ、第6条に『患者会等の活動に支援』が明記されたことで、県民からの要望がたくさんある中、がん対策に優先的に取り組めるようになりました」と話す。県内のサロン関係者の定期的な意見交換会、サロンのリーダー研修会も県の事業として行う。

 がん条例は、県議会議員でがん対策推進議員連盟会長の佐々木雄三さんらが議員提案として提出し、全会一致で成立。その後、出雲市でも「がん撲滅対策推進条例」ができ、高知県、新潟県、神奈川県、奈良県など6県2市でがん対策関連条例を制定する契機となった。

 実は、県のがん条例が成立する7カ月前、全国初のがんサロンを開いた納賀良一さんや佐藤均さんの妻・愛子さんらは、県に直接、条例の制定を求める要望書を提出していた。しかし、県の執行部は、当時その申し出を断わった。その場にたまたま同席していたのが佐々木さんだった。佐々木さんは、前出の故・佐藤均さんが国に未承認薬の早期承認などを求めたときにも行動を共にし、「東京で受けられる治療がなぜ島根で受けられないのか」という訴えを再三聞いていたことから、条例の制定に向けて他の議院にも働きかける決意をしたという。

 患者にとって、行政や県議会を動かすのは容易ではない。全国がんサロン交流会に集まった他県の患者からも、「どうやって行政や県議会を動かしたらいいのか」といった質問が相次いだ。

 これに対し佐々木さんは、「われわれ県議会議員を動かしたのは、多くのがん患者さんの熱意です。患者の皆さんが各県の議員に切実な思いを訴えれば、議員は必ず動いてくれると思います。ぜひ、行動を起こしていただきたい。もっと都道府県の議員を使ってください」と訴えた。

がん対策募金で財政難を解消

図:バナナ募金の仕組み

 がん条例では、「がん医療水準の向上」も大きな柱となっている。しかし、人口も少ない島根県の財政は厳しい。そこで2007年7月、県議会の提案で、がんの検診・治療に必要な高度医療機器を購入するための資金を集めるがん対策募金を始めた。

 これにいち早く協力したのが松江連合青果・果実部次長の福田修久さんが発案した「バナナ募金」だった。バナナを選んだのは、島根県人に限らず日本人の消費量が年間を通じて最も多い果物だからという。バナナ募金は、協賛している小売店で、同募金の趣旨を説明したシールが貼られたバナナを1袋買うごとに、6円ががん対策募金として寄付される仕組み(図)だ。

 福田さんは、「バナナ募金を思いついたのは、県が、がん対策募金という仕組みを作ってくれたからです。募金をするうちに、がんで悲しむ人を少しでも減らしたいという思いで、がん検診の普及啓発にも関わるようになりました。私自身、がん対策募金に関わることで、がんサロンの方々と顔見知りになり、たくさん元気をいただいています」と話した。

 地元紙がバナナ募金を見開き2面を割いて取り上げたことで、宣伝になるとみた企業が、次々とがん募金に名乗りをあげた。がんサロンや募金が県全域に広がったのは、新聞、地元放送局などのメディアの役割も大きかったわけだ。バナナ募金のような商品募金は、泉製紙がトイレットペーパー12ロール1袋につき6円、地元企業のバリューエージェンシーが天然ミネラル水1本につき3円をそれぞれ寄付するなど、現在12品目ある。がん対策募金は、2010年3月末までに7億円を集めるのが目標だが、2009年9月末現在、約6億4000万円が集まっているという。

 さらに、教育機関も、がん対策に積極的に関わる。島根県立短期大学部看護学科では、1年生の授業の一環として、学生をがんサロンに行かせている。「学生たちは、教科書からは決して得られない、経験に基づいた患者さんたちの声を宝物のように持って帰ります。そして、つらく悲しい思いをしているだけではなく、前向きに取り組む患者さんが島根にもたくさんいらっしゃるということを知り、当事者の力を信じて、その力を生かすために私たち看護者は何ができるかを考えるようになっています」。同科教授の平野文子さんは、そう指摘する。

 最後に、パネルディスカッションのコーディネーターを務めた、読売新聞社東京本社・社会保障部記者の本田麻由美さんが、国の調査で、全国のがん診療連携拠点病院にある相談支援センターの中で、今年6〜7月の2カ月間で相談が0件だった病院が5施設もあったことを指摘。「相談支援センターをどう使ってもらうかを考える上で、がんサロンのように、患者さんたちが運営に関わる仕組みを取り入れたら、もう少し変わるのではないか」と強調した。

 がんサロンは少しずつ全国に広がりつつある。がん募金、がん対策条例なども、どこの都道府県でも、すぐに実行できそうな取り組みではないだろうか。


(福島 安紀=医療ライター)

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