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レポート

2009/10/6

あなたのがんを、医療スタッフみんなで議論する

「キャンサーボード」って何だろう?

 昨年から、がん診療連携拠点病院の指定要件として、「がん患者の病態に応じたより適切ながん医療を提供できるよう、キャンサーボードを設置し定期的に開催すること」の一文が加わった。診療科の垣根を越え、医師や看護師、薬剤師、ソーシャルワーカーなどといった患者を取り巻く医療スタッフが、一同に介して患者の治療について話し合う「キャンサーボード」によって、がん医療はどう変わるのだろうか。



パネルディスカッションの様子

パネルディスカッションの様子。文中の宮川氏、野村氏、中村氏、高木氏のほか、霧島市立医師会医療センター内科・地域医療部長の三阪高春氏、大阪府立大学看護学部療養支援看護学講師の田中登美氏、日本医科大学付属病薬剤部部長の片山志郎氏が登壇

 さる9月19日、「キャンサーボードに期待するもの〜その理念と実際〜」(がん医療マネジメント研究会と大鵬薬品工業の共催)と題する、医療関係者向けのシンポジウムが都内で開催された。各病院の取り組みについての事例報告とパネルディスカッションに、北は北海道から南は沖縄まで、全国の医療関係者約300人が集まった(写真)。

病院によって定義はさまざま
 「キャンサーボード」とは、英語のcancer board(=がんの評議委員会)という意味から、広い意味でとらえれば「がん医療に関する問題に対応するための院内の組織」となる。たとえば、東京大学医学部附属病院のキャンサーボード室は病院長や執行部の直属の組織として位置付けられ、会議には各診療科の医師のほか、看護部、薬剤部、外来化学療法部、放射線部、病理部、検査部、緩和ケア診療部、がん相談支援センターの各担当者・・・と、実にさまざまな職種が集まる(図1)。

図1●東京大学医学部付属病院のキャンサーボード

 その活動内容は、診療科横断的な症例の検討、化学療法レジメン(抗がん剤の組み合わせ)の登録・審査、院内統一マニュアルの作成、院内がん登録の運営、がん相談支援センターの運営、外来化学療法部の運営、治験・臨床試験の審査協力――など、多岐にわたる。「もともとは、化学療法のレジメンを病院内で標準化するために設置された。キャンサーボードを置くことによって、がん医療に関する情報を一元化し院内で動向を共有することで、診療の質の向上を目指している」とキャンサーボード室長の宮川清氏は言う。

 だが、病院によっては、前述の「診療科横断的な症例検討会」だけを指して、キャンサーボードとしていることもある。トゥモール・ボード(=tumor board:腫瘍の検討会)と呼ぶ施設もある。厚生労働省が示すがん診療連携拠点病院の指定要件に書かれるキャンサーボードもこちらの意味で、「がん患者の症状・状態、および治療方針などを意見交換・共有・検討・確認等するためのカンファレンス」と書かれている。

 「カンファレンス」(「症例検討会」とも言う)は、これまでも診療科ごとに患者の治療方針を決める会議として開かれてきた。「キャンサーボード」は、さらに規模を大きくしたもので、診療科の垣根を越えた横断的なものというだけでなく、患者を取りまくいろいろな医療専門職や事務のスタッフも集まり、治療方針について話し合う。さらには、病院のホームページにキャンサーボードの日程表を掲載し、医療連携を目的に地域の医師にまで門戸を開いているところもある。

図1●東京大学医学部付属病院のキャンサーボード

 杏林大学医学部付属病院がんセンターのキャンサーボードには、いろいろな診療科の医師や看護師、薬剤師、ソーシャルワーカーなどが集まる(図2)。キャンサーボードができたことによって、最終的な治療方針の決定が効率的に行えるようになったという。「これまでは、がんが発生した臓器を専門にする医師が主治医となり、個別に治療方針を決めていました。この場合、他の診療科で診てもらう場合は紹介状を書いて、その先生の診察日に予約を入れてもらう。とくに、原発不明がんの場合は、あちこちの診療科でそれが繰り返されていました」と同センター薬剤部のがん専門薬剤師、野村久祥氏は振り返る。

キャンサーボードではどんなことを話し合う?
 キャンサーボードでは、一般的に、主に次の五つのケースについて検討することが多いようだ。
(1)原発不明がん
(2)胚細胞腫瘍(卵子や精子になる細胞から発生した腫瘍。乳児・小児で見つかることが多い)
(3)心臓疾患、高齢者の認知症など合併症がある、あるいは複雑な病態を持っている(妊婦も含む)
(4)重複がん(1人で複数の臓器からがんが発生する)
(5)病理医が診ても診断の確定が難しい

 聖路加国際病院ブレストセンター長で乳腺外科部長の中村清吾氏は、最近のキャンサーボードで話し合われた症例について、次のように紹介する。

 30代女性のAさんは、妊娠中、右の乳房にしこりがあることに気付いて精密検査を受けたところ、乳がんと診断された。がんの病期(ステージ)は?期で、センチネルリンパ節生検でリンパ節の転移はなしと診断されたため、中村氏は「乳房は温存できる」と診断し、がんができた右乳房を部分的に切除後、必要があれば術後の化学療法と産後の放射線療法を行うことにした。ただし、妊婦が手術し、化学療法や放射線治療を受ける場合、いろいろな問題が出てくる。そこで、中村氏はブレストセンター内のカンファレンスではなく、キャンサーボードでAさんの治療方針についての情報を共有し確認することにした。Aさんには、事前に中村氏から「病院内の会議で話し合って、治療方針を確認します」と伝えた。

 キャンサーボードでは、乳腺外科の中村氏をはじめ、腫瘍内科医、麻酔科医、産婦人科医、放射線診断・治療医、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカーなどが集まり、「切除時の麻酔はどのように注意しなければならないか」「いつから、どのように抗がん剤を投与するか」「抗がん剤の副作用が出たら、薬は投与できるか」「出産が近づいてきたら、いつ抗がん剤の投与をやめるか」「放射線治療はいつから始めるか」「胎児はどう管理するか」「出産後、母乳は飲ませてもよいか」「Aさんの精神的なケアはどうするか」などを話し合った。

 このように、治療方針の決定に大勢の医療専門職が関わったことを中村氏から聞いたAさんは「心配していましたが、安心して任せられます」と話していたという。

患者の声や希望が届きやすくなる
 宮川氏はキャンサーボードが設置されたことによって、「これまでは医師の視点だけからの治療をしてきたが、病院のすべての職種ががん医療をどのようにサポートできるか、話し合う機会を持てるようになった。患者さんの声や希望も、より反映できる」と言う。

 がん医療マネジメント研究会の代表幹事であり、慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科教授の高木安雄氏は、これからのキャンサーボードに望むこととして「専門家は自分の専門領域においては蛸壺の議論になりがち。キャンサーボードで、患者さんの治療の部分だけでなく、退院後の療養先や生活のことも話し合ってほしい」と話す。

 がんの治療法を決めるときは、自分の人生についても考えなければならない場面にぶつかることが多い。キャンサーボードによって医療者の視点が広がり、患者の声が、より届きやすくなることはありがたい。さらに、病院全体で情報を共有することで、複数の専門職によるチェックが可能となり、医療の安全性が高まる。

 忙しい日常の医療現場で、時間を割いて大勢が集まるのは関係者の負担も大きいと推察するが、全国どこの病院でもこのようなしくみが導入されることを期待したい。

(福原 麻希=医療ジャーナリスト)


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