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レポート

2009/9/8

副作用対策

「ひどい口内炎で食べられない」は口腔ケアで防ぐ

 「がんの患者さんには、治療を受けると決まった時点で、まずは口腔ケアを受けてもらいます」。そう話すのは、市立池田病院(大阪府池田市)歯科口腔外科部長の大西徹郎氏。がんなのに口腔ケア? 実はそれが、とても大切だ。


 同院では、がんの治療のために手術を受ける人、抗がん剤や放射線による治療を受ける人を対象とした、歯科医師や歯科衛生士による口腔ケアに力を入れている。そのきっかけは、手術後の感染リスクを減らすためだった。「2001年ごろ、手術後の発熱や肺炎がどうやったら減らせるか、院内で話し合いました。当時、老人保健施設で口腔ケアを行ったら高齢者の誤嚥性肺炎が減ったという報告があり、こうした研究を参考に、手術による感染症を減らすために、口腔ケアをやってみたらどうかという話になったのです」と大西氏。

口腔ケアで在院日数が短縮
 大西氏らはまず、外科、泌尿器科で全身麻酔下の手術を受ける患者を無作為に抽出し、口腔ケアを行ったグループと行わないグループの差を比較した。その結果、両群とも約75%の人が38度以上の発熱を起こしたものの、口腔ケアを行ったグループでは、行わないグループに比べて回復が早かった。さらには、胃がん、大腸がん、前立腺がんの手術を受けた患者を、口腔ケアを行う群と行わない群に分けて比較すると、口腔ケアを受けた患者は感染症の合併症が少なく、術後在院日数が有意に短いという結果が出た(グラフ)。

胃がん、大腸がん、前立腺がんそれぞれの患者14〜21人の在院日数を比較。口腔ケアを実施した場合、有意に在院日数が減った(データ提供:大西氏)
胃がん、大腸がん、前立腺がんそれぞれの患者14〜21人の在院日数を比較。口腔ケアを実施した場合、有意に在院日数が減った

(データ提供:大西氏)

 これらの結果を受け同院では、2004年に口腔ケアセンターを開設し、がんに限らず手術を受ける全患者に、手術前後に口腔ケアを受けてもらうことにした。まずは歯科医や歯科衛生士が、歯周病や虫歯の治療や歯石の除去、歯磨き指導といった一連の治療とケアを行う。そして、手術当日など患者本人では歯磨きができない間は、看護師がガーゼやうがい薬を使って口の中を清拭する。患者自身が自分でできるようになったら、歯磨きとうがいによる、こまめなセルフケアを行うよう指導される。

 そして口腔ケアの対象者は、「手術を受ける人全員」から「抗がん剤や放射線治療を受けるがん患者」にまで広がった。これらの治療中に起こりやすい口腔粘膜炎と、引き続いて起こる感染症の予防・軽減が目的だ。

抗がん剤や放射線治療で口腔粘膜炎に
 口腔粘膜炎とは、抗がん剤や放射線治療の影響で、舌や歯ぐき、頬の内側、唇などの粘膜に起きる炎症のこと。健康な人でもたまに経験するような軽い口内炎も口腔粘膜炎の仲間だが、がん患者ではそれよりもずっと症状が重い。口全体に炎症が広がって腫れ上がったり、出血することもある。痛みがひどくて、食事はおろか、飲み物をとるのもつらかったり、話すこともできない状態になることも少なくない。

 口腔粘膜炎が起こるのは、抗がん剤や放射線が、がん細胞だけではなく増殖の激しい正常な細胞までたたいてしまうためだ。口腔内の粘膜の細胞は増殖が活発で、抗がん剤や放射線によるダメージを受けやすい。また、抗がん剤や放射線の作用で活性酸素が発生したり、粘膜の上皮細胞や粘膜下細胞で、TNF-α、IL-1(インターロイキン1)といった炎症を誘発する生理活性物質が発生することも分かってきている。

 粘膜の細胞がダメージを受けると、普段は湿っている口の中は乾きやすく、傷つきやすく、細菌感染しやすい状態になる。さらに、頭頸部に放射線を照射した場合、唾液線が直接ダメージを受けることも多い。唾液の分泌量が減り、口の中は一層乾燥しやすく、ちょっとしたことで傷ついてしまうわけだ。

 そこへきて口腔ケアが不十分だと、口の中の細菌数はどんどん増えて、さらにひどい口腔粘膜炎を起こしてしまう。さらには抗がん剤や放射線治療照射によって免疫力が低下し、真菌が繁殖する「口腔咽頭カンジタ症」にもなりやすい。こうしたトラブルを軽減するには、十分な口腔ケアを行い、口の中を清潔に保つことがとても大切なのだ。

 同院では、がん患者に口腔ケアを行うようになってから、重症の口腔粘膜炎を起こすがん患者が減ったという。「口腔粘膜炎のために食事ができなくなる人は、ほとんどいなくなりました。大量の抗がん剤投与を受けた人でも、まったく口腔粘膜炎にならない人もいるくらいです」と市立池田病院歯科口腔外科の小川芙美氏。口の中が痛くて食べられなくなると、治療を継続するのも嫌になりがちだが、そうした理由で治療が中断するケースもほとんどなくなったという。

口腔ケア対策に温度差あり
 一般的に、口腔粘膜炎は、抗がん剤や放射線治療開始後7〜10日後に発生し、治療が終わって2〜4週間で治る。治療が終われば治っていくものだが、たとえ数週間でも、口の中が痛くて食事もままならないのは、患者にとってつらい副作用だ。食事や水分がとれなければ、体力や気力の低下にもつながる。

 ところが、がん治療前や治療中の口腔ケアに対する取り組み方は、医療機関によって、また診療科によっても温度差があり、まだそれほど積極的ではない病院や診療科もある。がん治療を行う病院に歯科医師や歯科衛生士がいない場合も多く、いても連携が取れていないケースもある。

 「治療を受ける病院で歯科の専門家による口腔ケアを実施していなければ、がん治療を受けると決まった時点で、近所の歯科医へ行って歯周病や虫歯を治し、歯磨きの指導を受けるとよいでしょう。地域によっては、がんセンターと開業の歯科医が連携して口腔ケアを行っているところもあります。がん治療中の口腔ケアに詳しい開業の歯科医も徐々に増えています」と大西氏は話す。口腔ケアの専門家たちは、がん患者対象の口腔ケアを積極的に行っている歯科医を登録して患者向けに公開することも検討してるという。

1日4回以上のケアを
 がんの治療中は、「毎食後、いつも以上に丁寧に歯磨きをするようにしてください」と小川氏。口の中が乾燥しやすくデリケートな状態になっているので、軟らかめのブラシと、発泡剤の入っていない歯磨き剤を使うと刺激が少ない。しみるようなら、歯磨き剤は使わなくてもよいし、毛束の小さいワンタフトブラシやスポンジブラシで口の中の汚れを落とすだけでもよい(写真)。すでに口の中が痛かったり、ブラシを口に入れるだけで吐き気がして歯磨きができないようなら、朝・昼・夕と寝る前の1日4回以上(できる人はもっと頻回)、うがいをするだけでも効果があるという。

がんの治療中に役立つ口腔ケアグッズ。右から5番目がワンタフトブラシ、上から4番目がスポンジブラシ。がん患者向けの口腔ケアグッズは、ティーアンドケーや、サンスターなどが販売している。
がんの治療中に役立つ口腔ケアグッズ。右から5番目がワンタフトブラシ、上から4番目がスポンジブラシ。がん患者向けの口腔ケアグッズは、ティーアンドケーや、サンスターなどが販売している。

 うがいに用いるのは、体液と同じ塩分濃度で刺激の少ない生理食塩水(水1Lに食塩9g)がお勧めだ。保湿成分を含む刺激の少ない市販のうがい薬を利用するのもいい。がん患者の利用を想定して開発された商品もある。アルコールを含んだものやポビドンヨードのうがい薬は、刺激が強くて余計に乾燥しやすくなるので、がんの治療中には使わないほうがいい。

 吐き気・嘔吐などの副作用もあって食事がとれない場合は、なおさら歯磨きやうがいなどの口腔ケアが必要だ。食事をしていないと、口の中を清浄に保つ役割を果たす唾液の分泌量が少なくなるので、余計に口の中の細菌が増え、口腔粘膜炎になりやすいからだ。うがいもできないような状態なら、やはり、朝・昼・夕、寝る前の1日4回以上、口腔粘膜用の保湿スプレーを口の中全体にスプレーするといい。

 また、義歯を使っている人は、毎食後ブラシで汚れを落とし、夜間は洗浄剤に浸けるといった手入れを。歯磨きやうがいのときに口の中の状態をチェックし、もしも口の中に痛みや違和感があるようなら、我慢せずに、担当医や看護師に相談しよう。

 実は抗がん剤や放射線は、口腔内のみならず、胃腸の粘膜にもダメージを与え、さまざまな副作用を引き起こしている。次回は、これらのトラブルを防ぐ薬物療法や、胃腸の粘膜のダメージによる食欲不振、胃炎、下痢、倦怠感などを防ぐ方法についてレポートする。

(福島 安紀=医療ライター)

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