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レポート

2009/9/1

副作用対策

抗がん剤後の吐き気・嘔吐に克つ!(下)

 抗がん剤治療後の悪心(吐き気)・嘔吐を防ぐための、世界の標準治療である「3剤併用」が、日本では認められていない。3剤併用が実現すれば、抗がん剤の投与直後に生じる急性の悪心・嘔吐も、投与後24時間を過ぎてからの遅延性のそれも、コントロール可能だ。


 前回レポートしたように、抗がん剤治療後の悪心・嘔吐は、旧世代のセロトニン受容体拮抗薬(5-HT3受容体拮抗薬)の「グラニセトロン」(あるいはラモセトロン、またはオンダンセトロン)とステロイド薬の「デキサメタゾン」を併用すれば、ある程度抑えられる。しかし、これらの薬剤では、抗がん剤投与後24時間から4日間程度続く「遅延性の悪心・嘔吐」が抑えられるのは4割程度だ。

世界標準の制吐療法ができない
 抗がん剤治療後の悪心・嘔吐対策における世界の標準治療は、前回詳しく紹介したステロイド薬の「デキサメタゾン」、新世代のセロトニン受容体拮抗薬の「パロノセトロン」、そしてニューロキン(NK-1)受容体拮抗薬の「アプレピタント」の3剤併用投与である。パロノセトロンは、グラニセトロンに比べて半減期(薬の血中濃度が最高値になってから半分になるまでの期間)が約40時間と長いなど、特に遅延性の悪心・嘔吐を抑える効果が高い制吐剤だ。アプレピタントは、セロトニン受容体拮抗薬やステロイド薬といった従来の制吐薬とは効き方のメカニズムが異なる。急性および遅延性双方の悪心・嘔吐を抑える作用が確認されている。

 「国際がんサポーティブケア学会」(MASCC)が5年前に作成した制吐療法ガイドラインでも、悪心・嘔吐リスクが高度(90%以上の患者に悪心・嘔吐が起こる)の抗がん剤に対しては、三つの制吐剤を1回だけ併用投与し、その後2〜4日間、デキサメタゾンとアプレピタントを服用することが推奨されている。なおMASCCは、がん治療の合併症や副作用対策について検討する国際的に最も権威の高い学会で、この学会の決定を受けて、米国がんセンターネットワーク(NCCN)や米国がん腫瘍学会(ASCO)などの制吐療法ガイドラインも作成されている。

 「この3剤を併用すれば、急性および遅延性の悪心・嘔吐を9割程度抑えられるという報告もあります。ところが、先進国といわれる国の中で、いまだに3剤併用投与が出来ないのは日本だけ。がん治療においては、世界標準の抗がん剤が未承認であるために使えないドラッグ・ラグがよく問題になりますが、日本では、副作用対策の薬の承認も遅れているのが実情です」と順天堂大学医学部乳腺内分泌外科先任准教授の齊藤光江氏は指摘する。

 日本では、パロノセトロンが8月現在承認申請中、「アプレピタント」は、厚生労働省・薬事食品衛生審議会で、7月末に承認が了承された。全く新しいタイプの薬であることから、9月に薬事分科会で再審査されることになっている。その後、薬価が決まり、保険診療で使えるようになるはずだ。3剤投与が可能になれば、抗がん剤治療後の悪心・嘔吐に苦しむ人は大幅に減る。抗がん剤治療を受ける患者にとって、朗報になるだろう。

嘔吐完全抑制率とは、嘔吐、空嘔吐がなく、追加の制吐剤も飲まなかった人の割合
(Lancet Oncology,2009,10,115-24)

パロノセトロンの有用性を国内多施設試験で確認
 パロノセトロンの承認申請に向けての臨床試験は、斉藤氏らが中心となり全国の75施設で行った。悪心・嘔吐を起こすリスクの高いシスプラチン、AC療法(アドリアマイシンとシクロホスファミドの併用投与)、EC療法(エピルビシンとシクロホスファミドの併用投与)といった抗がん剤治療を受けた患者1140人を、「パロノセトロン+デキサメタゾン」を使う群(パロノセトロン群)と「グラニセトロン+デキサメタゾン」を使う群(グラニセトロン群)の二つに無作為に分け、悪心・嘔吐の副作用の有無を比較した。

試験に参加した患者をがん種別にみると、非小細胞肺がん497人、小細胞肺がん99人、乳がん475人、その他43人で、92.9%は初めて抗がん剤治療を受ける人だった。その結果、24時間以内の急性の悪心・嘔吐が出なかった人の割合は、パロノセトロン群で75.3%、グラニセトロン群で73.3%、24時間から4日間程度続く遅延性の悪心・嘔吐は同56.8%、44.5%だった。 パロノセトロンとグラニセトロンの効果を、ステロイド薬を併用した状態で比較した臨床試験は、世界でも初めてという。「急性の悪心・嘔吐に対する効果はほとんど変わりませんが、遅延性の悪心・嘔吐に対しては、グラニセトロンよりパロノセトロンのほうが、明らかに効果が高いことがわかりました」(齊藤氏)。

 なお、どちらの薬剤も主な副作用は便秘や頭痛で、命に関わるような大きな副作用は報告されなかった。便秘を予防するため、制吐剤を使う際には、下剤の併用が必要となる。

制吐療法の新ガイドライン、公開へ
 MASCCでは、5年に1度、世界を代表する専門家を集めた会議「ペルージャ・コンセンサスミーティング」を行い、制吐療法ガイドラインを作成している。直近では今年の6月に開催され、大幅な改訂はなかったものの、女性がAC療法を受ける場合の悪心・嘔吐リスクが、中等度から高度に位置づけられた。また、悪心・嘔吐のリスクが中等度の抗がん剤については、パロノセトロンとデキサメタゾンの併用投与が推奨されるなどの変化があった。さらに、齊藤氏らが行った臨床試験の結果によって、「アプレピタントが使えない国では、悪心・嘔吐リスクが高度あるいは中等度の抗がん剤治療を行うときには、パロノセトロンとデキサメタゾンの併用投与が望ましい」といった内容が、補足事項として付け加えられることでコンセンサスを得た。 MASCCの新しい制吐療法ガイドラインは、近々同学会のホームページにて公開される予定だ。2004年版のガイドラインは、同ホームページに日本語訳も掲載されている。医療関係者はもちろん、患者や家族も、抗がん剤治療による悪心・嘔吐を最小限に抑えるために、このガイドラインをチェックしてみるとよいだろう。

悪心・嘔吐は若い女性に多い
 ところで、同じように悪心・嘔吐リスクの高い抗がん剤治療を受けても、何度も嘔吐を繰り返す人もいれば、ほとんど症状が出ない人もいる。どういった人に悪心・嘔吐の副作用が起きやすいかについては以下のことがいわれてきたが、今回、齊藤氏らが行った臨床試験でも、改めて同じ傾向が確認された。

 まず、女性は男性の2倍の確率で、悪心・嘔吐の副作用が出やすい。しかも、妊娠可能な年齢、つまり20代〜40代ぐらいまでの女性に多くみられる。このほか、飲酒の習慣がない人や、妊娠中につわりがひどかった人や乗り物酔いしやすい人など、何かにつけて吐きそうになる人に出やすい。こうしたハイリスクの人たちは、特にしっかりと制吐剤を服用する必要があるようだ。(福島 安紀=医療ライター)

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