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2009/8/25

副作用対策

抗がん剤後の吐き気・嘔吐に克つ!(上)

 抗がん剤治療のあとは、吐くのが当たり前――。がん患者や医師の中には、そんな認識を持つ人も少なくないが、悪心(吐き気)・嘔吐を抑える薬をうまく使えば、“当たり前”だったこの副作用は、軽減できる。


悪心・嘔吐の3タイプ
 抗がん剤による悪心・嘔吐は、(1)投与後24時間以内に出る急性、(2)24時間後から4日目ぐらいまで続く遅延性、(3)抗がん剤のことを考えただけで吐き気・嘔吐が出る予測性の3タイプに分けられる。「日本では、急性の嘔吐については対策が取られるようになっていますが、遅延性の嘔吐を抑えるための治療が遅れているのが現状です」と話すのは、国際がんサポーティブケア学会(MASCC:Multinational Association for Supportive Care in Cancer)・制吐療法ガイドライン作成委員でもある、順天堂大学医学部乳腺内分泌外科先任准教授の齊藤光江氏。

順天堂大学医学部乳腺内分泌外科先任准教授の齊藤光江氏
順天堂大学医学部乳腺内分泌外科先任准教授の
齊藤光江氏

 世界の標準治療では、急性、遅延性の双方をかなり抑えられるようになっているという。これらをコントロールすることで「今日は抗がん剤の日だと考えただけで気持ちが悪くなり、病院の前で吐いてしまうような、予測性の嘔吐も予防できます」と齊藤氏は指摘する。

 そもそも、抗がん剤によって悪心・嘔吐が起きるのは、なぜだろうか。がんの化学療法に用いる抗がん剤はがん細胞をたたく薬剤だが、正常細胞にとっては毒物である。そのため、消化管や血中に抗がん剤が入ってくると、自己防衛反応が働き、脳から「毒を吐いて外に出せ」という司令が出るのだ。 だから、「抗がん剤治療を受けたら必ず気持ちが悪くなる、吐いてしまうのは仕方がない、我慢しなくては――」という認識が、患者の中にも「抗がん剤を投与する医師の中にも少なからずある」と齊藤氏は言う。

遅延性の嘔吐対策が不十分
 患者側も「抗がん剤治療後の悪心・嘔吐は一時的なものだし、つらいのは仕方がない」と我慢してしまい、医師に遠慮して、そのつらさを伝えない場合も多いようだ。しかし、悪心・嘔吐は経験しないで済むならそれに越したことはない。

 いったん「抗がん剤治療=つらい副作用を伴うもの」という悪いイメージを持ってしまうと、次に抗がん剤治療が必要になったとき、病気と闘う気力そのものが萎えてしまうかもしれない。医師側から見ても、「ほかの患者さんに抗がん剤治療のつらさを強調して伝えられてしまうことがある」(齊藤氏)というデメリットがある。 悪心・嘔吐のリスクは、使用する薬剤によって異なる。国際的な制吐療法ガイドラインでは、抗がん剤やその組み合わせによって、リスクを高度、中等度、低度、最小の4段階に分類している。たとえば、乳がん治療などに使われるAC療法(アドリアマイシンとシクロホスファミドの併用投与)、シスプラチン、シクロホスファミドは、90%以上の人に吐き気や嘔吐が起こる高リスクの抗がん剤だ。

(Oncology,1996,53,Suppl1,26-31)
(Oncology,1996,53,Suppl1,26-31)

 また、悪心・嘔吐の出方は、薬剤によっても若干差がある。シスプラチンの投与後は、24時間以内に起こる急性の悪心・嘔吐がかなりひどく、いったん治まった後、24時間を過ぎてから、再び緩やかな波が来る傾向にある。これに対し、アドリアマイシンのようなアントラサイクリン系の薬剤やシクロホスファミド、カルボプラチンなどは、3〜4日間悪心・嘔吐が続き、急性と遅延性の境目がはっきりしていない(右図)。 なぜ、シスプラチンには急性と遅延性の波があるのか。そのメカニズムはまだ解明されていないという。「ただ患者さんにとっては、急性、遅延性のどちらもつらい副作用です。世界的な流れとしては、急性、遅延性の境目をなくし、両方抑えて行こうという方向になってきています。残念なことに、日本の医師の中には、遅延性の嘔吐を抑えるのに無関心な人がいるのも事実。悪心・嘔吐のリスクが高度または中等度の抗がん剤で治療を行う場合は、制吐療法もしっかり行うことが大切です」と齊藤氏は強調する。

デキサメタゾンの使用を考えて
 急性期の悪心・嘔吐を抑えるには、セロトニン受容体拮抗薬(5-HT3受容体拮抗薬)「グラニセトロン」(あるいはラモセトロン、またはオンダンセトロン)とステロイド薬「デキサメタゾン」の併用が有効だ。悪心・嘔吐のリスクが高い抗がん剤を用いた場合も、セロトニン受容体拮抗薬を使えば急性の悪心・嘔吐は約75%抑えられる。 一方、遅延性の悪心・嘔吐を抑えるには、2日目から4日目ぐらいまでデキサメタゾンを1日2回、計8mg服用するのがよいという。齊藤氏らの研究によれば、デキサメタゾンの服用で、44.5%の人で遅延性の悪心・嘔吐を抑えられた。

医師の意識とドラッグ・ラグ
 ただ日本では、がんの専門医の間でも、抗がん剤治療後の悪心・嘔吐をコントロールする方法が浸透しているとは言い難いのが現状だ。遅延性の悪心・嘔吐にはほとんど効果がないグラニセトロンを5日間服用させたり、ステロイドの副作用を恐れてデキサメタゾンを減量する医師もいるという。 「重度の糖尿病の人などは、デキサメタゾンを使わないほうがよいのですが、それ以外の人は、4〜5日間服用しても、いわゆるステロイド特有の副作用はほとんど起こりません。デキサメタゾンを勝手に減らしたりすると、本来抑えられる悪心・嘔吐がコントロールできなくなってしまいます。患者さん側も、悪心・嘔吐が高リスクの抗がん剤治療の後に処方せんや薬の説明書をもらったときに、デキサメタゾンが入っているかチェックするとよいかもしれません。入っていなければ医師に一言相談してみては?」と齊藤氏はアドバイスする。 医師の意識の問題だけではなく、他国で認められている有用な薬剤が日本で未承認という問題(ドラッグ・ラグ)もある。使用する薬剤によっては、悪心・嘔吐の9割が抑えられるという結果も出ている。これらについては、次週レポートする。

(福島 安紀=医療ライター)

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