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レポート

2009/7/28

第11回St.Gallen国際会議を経て

早期乳がんの初期治療指針はどう変わる?

京都大学医学部乳腺外科教授の戸井雅和氏 早期乳がんの初期治療について「抜本的に異った治療アルゴリズムを提唱する――」。そんなイントロダクションで始まるのは、この6月にAnnals of Oncology誌に掲載された第11回St.Gallen(ザンクトガレン)国際会議の結果をまとめた論文だ。ここに書かれていることは、日本の乳がん治療指針に大きな影響を与える。そこで『がんナビ』のサブサイト『乳がん百科』監修の京都大学医学部乳腺外科教授の戸井雅和氏(写真)に、主な変更点や、患者やその家族が知っておきたいポイントを聞いた。


――2007年の第10回会議では、術後の乳がん患者をリスク因子で三つに分け、低リスクにはホルモン療法、中間リスクは化学療法も必要、高リスクはしっかりとした化学療法が必要という治療法を推奨していました。今回このリスク分類がなくなり、治療の閾(しきい)値を設定しました。これによって治療指針はどのように変わるのでしょうか。

St.Gallen国際会議とは
 2年に1回、スイスのSt.Gallenで開催。世界中の乳がん専門医が一同に会し、初期乳がんの治療について話し合う。ここで話し合われた結果は「治療の世界標準に影響を与える」と言われるほどのインパクトを持つ。この3月に11回目の会議が開催され、101カ国から4800人以上が参加した。
戸井:一番大きな変化は「内分泌療法単独でよい」と考えられる症例の選別が進歩したということでしょう。具体的には(表2の)「増殖の評価」と「遺伝子発現解析スコア」の二つが加わったのが大きい。

――以前のリスク分類にある、35歳を境にリスクが変わる、という年齢に関する項目はなくなりました。

戸井:これについては、かなりのディスカッションがありました。“若いからといって必ずしも化学療法が必要というわけではない”ということになったわけですが、年齢を全く考慮しなくていいということではないと思います。若年者のがんが、生物学的にやや違った特性を示すということに「ノーだ」という専門家はあまりいない。化学療法の効きがよい症例が、若年者に相対的に多いだろうと理解していますし。慎重に考えていく必要があります。

 ただ例えば、(表2の)内分泌療法単独でいいとする条件に全て当てはまっていれば、若年者でも化学療法は必要ないという風には考えられるでしょう。

――必ずしも全ての項目が、「内分泌療法単独」「化学療法併用」の条件に当てはまらないケースも出てきますよね。

戸井:もちろん大部分が当てはまるのがいいわけですが、遺伝子発現が低得点だけど組織学的にはグレード3というようなケースもまれにあります。St.Gallen国際会議の結果というのは大まかな考え方を示すもの。あとは個別に考えていくしかないでしょう。

――担当医に、この表を見せて「今の私はどこに当てはまりますか」などと相談してみるのは有用ですか?

戸井:医師と話をするときのツールとして、役に立つと思います。ただし、新たに加わった「増殖の評価」と「遺伝子発現解析のスコア」の調べられる施設が、日本にはまだ少ないというのが現状です。スタッフも設備も、これから急いで整備しなくてはならない。保険適応の問題もあります。遺伝子発現解析には1回数十万円かかりますから。現在は限られた状況でしか利用できません。 治療を受ける側にとって、化学療法を受けるかどうかというのは非常に重要な問題です。今回、それを決定するために二つの項目が加わったのは大切なことで、実際に検査できる体制作りについては、社会全体のコンセンサスを得て対応していく必要があります。

――内分泌療法の適応について、前回の会議ではエストロゲンの発現が10%未満の場合を陰性(内分泌療法の適応ではない)、10%以上を陽性(同適応である)としていましたが、今回は、1%でもエストロゲンの発現があれば陽性ということになりました。

戸井:エストロゲンがゼロでなければ、多かれ少なかれエストロゲン受容体が出ているのではないか。内分泌療法をやりましょう――ということになりました。これまでは10%未満ですと化学療法の適応になっていましたから。内分泌療法の適応が広がったと言えます。エストロゲン陽性の乳がんは7割程度とされていますが、増えることになります。ただし、エストロゲンの発現が、例えば1〜10%、10〜50%、50%以上で内分泌治療薬の効果にどのくらいの差があるのかについて、大規模な解析は行われていません。同様な効果があるとも、発現が低ければ効果が低いともまだ明快には言えません。

 また今回の会議で示されたことは、(年齢のことやリスク分類など)これまでの考え方を否定するわけではなく「こういう一つのものの考え方で全身療法を行いましょう」という指針が新たに加わったと考えるべき。そのために必要なことは、各国、各施設それぞれの環境下で整備していきましょう、ということなのです。

(聞き手:小山 千穂)

●お知らせ
『がんナビ』では、今回のSt.Gallen国際会議の結果などの最新情報を元に、『乳がん百科』の内容を随時更新する予定です。更新状況については、がんナビのインフォメーション欄などでお知らせします。

【訂正】
3/24に以下を訂正しました。
・表1内、「ER強陽性、HER2陽性で化学療法併用は、理屈は分かるが根拠はない」は「ER強陽性、HER2陽性で化学療法非併用は、理屈は分かるが根拠はない」でした。以上、お詫びして訂正します。

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