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レポート

2009/7/7

再発治療最前線

骨転移の痛みを和らげるストロンチウム89

 数分間の注射で、耐えがたい痛みから解放される――。多発性骨転移の治療薬として2007年秋に登場した塩化ストロンチウム89の実力は? 癌研有明病院副院長で、放射線治療科部長の山下孝氏に聞いた。

 骨転移は、乳がん、前立腺がん、肺がん、腎がん、肝がん、卵巣がんなど、多くのがん種で起こる。骨転移だけで死に至ることはないものの、痛みが強く出る人も多く、QOLを大きく落とすことになる。

 骨転移したがんには、抗がん剤や分子標的薬、ホルモン剤(乳がんや前立腺がんの場合)などの薬物療法は効きにくく、痛みを軽減するために、放射線の外照射や鎮痛薬、ビスホスホネート製剤の服用などが行われている。これらの治療だけでは、特に全身に広がった多発性骨転移の痛みのコントロールは難しい。そこで新たな治療薬として脚光を浴びているのが塩化ストロンチウム89(Sr89、商品名:メタストロン注)だ。

 「Sr89は、多発性骨転移の患者さんのQOLを大きく改善します。骨転移のある人が、すぐにSr89の投与を受けるべきかどうかは別にして、この薬を念頭に置いておくことが大切です」と山下氏は強調する。

 Sr89は発売から約1年半が経過し、2009年5月25日時点で、全国227の医療機関において959人の患者に投与された。

「痛みで車椅子生活」から歩けるまでに回復
 乳がんで多発性骨転移となった49歳の女性は、全身に激痛が走り、歩くこともままならなくなり車椅子で生活していた。2008年6月、Sr89の投与を受けたところ、10月にはほとんど痛みを感じなくなり、少し歩けるようになった。鎮痛薬のオキシコンチン錠40mgを1日2回飲んでいたが、それも、r89の投与から5カ月後の11月には半分ですむようになった。1年が経過し、また少し痛みが出始めているので、再投与を検討しているという。ちなみに再投与には3カ月以上間隔をあけなければならないが、その条件も満たしている。

癌研有明病院副院長・放射線治療科部長の山下孝氏

 74歳の男性は、2004年肝がんの手術を受けたが、その年に骨転移が見つかり、たびたび放射線の外照射を受けて痛みをコントロールしてきた。2007年には下咽頭がんも見つかり放射線治療も受けている。Sr89の投与を受けたのは2008年4月。多発性骨転移はあるものの、痛みはかなり少なくなり、仕事も続けているという。

 Sr89の投与は、副作用として骨髄抑制が知られるが「今のところ、私たちがSr89を投与した患者さんに骨髄抑制の副作用はほとんど起こっていません。腕の静脈に、数分間で済む注射を1回受けるだけで痛みが和らぎます。この治療を受けていなければ鎮痛薬や麻薬の量を徐々に増やさなければならなかった人が、実際に、薬の量を減らしたり薬を止めたりできています。効果は通常6カ月以上続き、そのお陰で仕事を続けたり、趣味を楽しんだりできるようになるわけだから、多発性骨転移の患者さんにとってメリットは大きい」と山下氏は話す。

病巣を選んでたたき、がん細胞を死滅
 Sr89は、カルシウムと似たような性質を持つ。カルシウムの代謝が激しいところに集まって、半減期50.5日の放射線物質(β線)を放出する。骨転移を起こしている所は通常の骨よりカルシウムの代謝が激しいので、そこへSr89が集積し、放射線でがん細胞をたたいて死滅させる。がん細胞が減ると神経の圧迫も少なくなるので痛みが和らぐ、というわけだ。

 しかも、骨転移病巣を選んで照射していく性質を持つので、正常骨髄への影響はほとんどない(グラフ参照)。さらにはβ線の飛程距離(放射線の飛散距離)が短いので、周囲の人には害がないのも特徴だ。

Sr89の部位別取り込み率。骨転移部位にはSr89が留まり、正常骨では日ごとに取り込み率が下がる。

 適応となるのは、多発性骨髄腫以外の固形がんで、骨シンチグラフィーで多発性骨転移が認められ、骨シンチの集積部位が痛みを感じている部分と一致する場合。血液学的機能としては、白血球数3000/?3以上、好中球数1500/?3以上、血小板75000/?3以上、ヘモグロビン9.0g/dL以上が目安だ。

 国内で行われた発売前の臨床試験では、69例中32例に疼痛緩和、鎮痛薬の減量効果がみられた。主な副作用としては、数日で解消するものの一時的な痛みの増加、血小板や好中球の減少といった骨髄抑制が報告されている。また、取り込まれなかった放射線物質は尿から排出されるので、十分な水分補給を行い、排尿時や、尿や血液のついた洗濯物などの取り扱いに多少の注意が必要になる。

 効果の出方は比較的ゆっくりで、投与後1〜2週間してから徐々に表れる。強い痛みがある場合は、即効性のある外照射をまず行い、それからSr89を投与する方法もあるという。ただし、外照射は正常な骨髄細胞までたたいてしまうので、全身には照射できない。その点Sr89は、痛みの減り方はゆっくりだが、全身の骨転移巣だけをたたくことができる。それぞれのメリットをうまく使い分けながら、骨転移の痛みをコントロールすることが可能になってきたわけだ。

抗がん剤治療との同時進行は不可
 ところで、骨転移のある人には、抗がん剤による治療を受けている人も多いわけだが、併用は可能だろうか。「Sr89は骨髄抑制を起こす恐れがあるので、この治療を受けるためには、同じように骨髄抑制を起こす抗がん剤治療を1カ月間は休み、白血球や好中球、血小板の数値が回復するのを待つ必要があります。白血球や血小板の数値にもよりますが、一般的には、Sr89の投与から2カ月経てば抗がん剤治療が再開できます。どちらを優先するか迷う場合には、腫瘍内科医や放射線治療医にセカンドオピニオンを取るとよいでしょう。外科医だけではなく、化学療法専門の腫瘍内科医と放射線治療医がチームを組んで治療を行う病院を選んだほうがいいと思います」と山下部長はアドバイスする。

 抗がん剤が効いている人にとって、最低3カ月間も抗がん剤治療を休むかどうかは悩ましい問題だ。多発性骨転移による耐え難い痛みがあり、抗がん剤治療どこではないという場合には、Sr89で痛みを取って少し回復したところで抗がん剤治療を再開するという手もある。

 Sr89には、骨折の予防効果もある。骨折予防のために投与する骨吸収抑制剤(ビスホスホネート)との併用も可能だが、Sr89単独でも十分な効果が期待できるので、二つを併用する意味は少ないとか。現在、販売後全例調査が行われており、この問題については、今後はっきりとした結果が出てくるだろう。

普及のハードルは安い技術料
 Sr89にかかる費用は、患者の体重にもよるが1回約30万円。保険適用の対象になっているので、3割負担の人の場合なら約10万円で受けられる。高額療養費制度で、ある程度お金が戻っては来るものの、決して安くはない金額だ。とはいえ、この治療費の大部分は薬剤費で、実は病院に入る技術料はわずか。

 「Sr89を使うためには、排水設備を完備するといった準備も必要ですが、その費用も病院の持ち出しです。技術料を評価してもらわないと、患者さんのメリットが大きいこの薬剤が、どこの病院でも使えるようにはなっていきません。今は、他の疼痛治療ではコントロールできなくなった患者さんが主な対象です。がん細胞そのものをたたく効果もあるので、今後は、まだ痛みの出ていない骨転移の患者さんの、QOLが落ちないようにするために使うようになる可能性もあります」と山下氏。

 この治療を受けられる病院は、メタストロン注の治療実施医療機関で検索できる。(福島 安紀=医療ライター)

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