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レポート

2009/6/30

日本列島がん対策・現地レポート〔沖縄県〕実践編

院内がん登録を県で統一着々、専門家が緩和ケア研修を指揮

 沖縄県では、がん対策が遅れる県の現状に危機感を抱いた医療提供者たちが、「沖縄県がん診療連携協議会」の発足を契機に改革に乗り出した。今回は、沖縄のがん対策のうち、成功している、あるいは成功しつつある好事例を中心にレポートする。



 沖縄県がん診療連携協議会(以下、連携協議会)が設置されて約9カ月――。この間、連携協議会が重点課題の一つとして取り組んできたのが院内がん登録(注1)の強化と普及だ。県内に四つあるがん診療連携拠点病院(以下、拠点病院)の院内がん登録は、国立がんセンターが推奨する登録様式で統一されているが、県内のがんの動向を正確に把握し、そのデータを対策に生かすためには、拠点病院以外の医療機関にも同じ様式で院内がん登録を行ってもらう必要がある。

県医師会長の病院が率先して院内がん登録に取り組む
 そこで、連携協議会の「がん登録部会」では委員の診療情報管理士が中心となり、「院内がん登録初期導入マニュアル」を作成。院内がん登録の導入を希望する医療機関に部会委員が出向き、現場で指導する活動を行っている。

 この方法を利用して院内がん登録を開始した第1号は、沖縄県医師会長の宮城信雄氏が経営する医療法人信和会沖縄第一病院だ。連携協議会の委員でもある宮城氏は、院内がん登録の強化と普及の重要性に理解を示し、自ら率先して協力したのだった。

 こうして現在、院内がん登録を実施する11医療機関のうち、9医療機関が同じ登録様式でデータを収集できるようになり、県内の約半数の患者のデータが集まり始めている。がん登録部会では、今年度は主要病院を中心に院内がん登録の導入を終え、来年度から県全体のデータ解析を本格的に行いたい考えだ。

がん登録部会委員の仲本奈々氏

がん登録部会委員の仲本奈々氏

 琉球大学医学部附属病院がんセンターの診療情報管理士で、初期指導を担当するがん登録部会委員の仲本奈々氏は、「現場での大きな戸惑いはみられません。部会が提案する方法の下、院内がん登録に取り組む施設は順調に増えていくのではないかと思います」と手応えを語る。同時にこれからは運用後のサポートに力を入れる必要があるとも。

 がん登録部会では、この取り組みを支える経済的な支援策として、県に「沖縄県がん診療連携病院準拠点病院制度(拠点病院と同等の要件を満たす医療機関に院内がん登録とがん相談支援を義務付ける代わりに補助金を交付する)」の創設を提案している。

限られた人材の中、県内の緩和ケア関係者が協力して研修会を実施
 全県を挙げた取り組みは、他の部会でも着実に進んでいる。その一つが「緩和ケア部会」だ。2009年3月末現在、沖縄県内で緩和ケア研修会を受講した医師は164人(すべてのカリキュラムを履修し、修了証を授与された医師は136人)。2日間のべ14時間の研修だが、多くの医師は「緩和ケアが必要なのは終末期だけではないこと」を理解し、なかには「研修時のロールプレイングを思い出し、実際の診療でも患者の話にしばらく耳を傾けてみた」と、日頃の診療行動に変化がみられた医師もいて、研修の効果は少しずつ現れている。

 国の整備指針では、「5年以内にすべてのがん診療に携わる医師に緩和ケアの研修を行うこと」を定めているが、多くの都道府県では緩和ケアを教育できる人材がいないという悩みを抱えている――。沖縄県も例外ではなく、県内の医療機関の中で緩和ケアチーム加算を取って活動している施設は1カ所もない。緩和ケアの専任者として働く医師はホスピスに勤める数人に限られ、一般病院はもちろん、拠点病院の医師たちも兼任というのが実情だ。

緩和ケア部会部会長の笹良剛史氏

緩和ケア部会部会長の笹良剛史氏

 このように人材が限られた状況の中で目標を達成するために、連携協議会は、拠点病院の医師がリーダーシップを取るのではなく、草の根的に活動してきた緩和ケアの専門家達に研修の指揮を委ねた。

 「緩和ケア部会」では、4拠点病院が合同で緩和ケア研修会を実施することを決め、研修には緩和ケア医だけでなく、疼痛ケアに従事する認定看護師や臨床心理士も毎回ボランティアとして参加し運営を支える。緩和ケア部会の部会長を務める笹良剛史氏(友愛会南部病院緩和医療科麻酔科医長)は「今後5年間で1200人の医師を対象に研修会を実施する予定ですが、専門家が力を合わせて着実に進めていけば、この地に緩和ケアが根付いてくれる可能性は高い」と期待する。

 今年(2009年)は八重山医療圏内(石垣市)で、来年(2010年)は宮古医療圏内(宮古島市)で研修会を行う計画もほぼ決まっており、離島への緩和ケアの普及もめざす。

「セカンドオピニオン」の経済的負担を軽減する対策も検討
 一方、「相談支援部会」では、今年度の検討項目の一つとして「セカンドオピニオン受診サポートプログラム」の新設を提案している。これは、交通事情(離島圏)あるいは経済的事情に関係なく、すべての患者がセカンドオピニオンを受けられるよう経済的な支援を行うことを目的とした制度だ。

 具体的には、セカンドオピニオンを受診する際にかかる交通費の補助(患者または家族1件あたり1回のみ5万円を限度に給付)とセカンドオピニオン受診料の減額または免除(図1参照)で、いずれも住民税非課税世帯者を対象としている。

セカンドオピニオン受診サポートプログラム 受信料減免・免許手続きの仕組み(案)

 さらに、この制度を提案した連携協議会の場では、一般傍聴者から「航空会社が実施するチャリティープログラムの無料航空券の提供が受けられないか」との意見も出た。相談支援部会では、こうした意見も参考に、企業の助成も視野に入れながら運用実現に向けての具体的な検討を進めている。

 また、沖縄県は子宮頸がんの死亡率が全国で最も高いため、「普及啓発部会」では今年度、子宮頸がんにテーマを絞り、継続的な啓発活動を行っている。その対象の一つとなるのが教育現場だが、子宮頸がんの予防教育は性教育とも関連するため、学校関係者の抵抗感は強く、その門戸を開いてもらうのはたやすいことではない。

 しかし、「これまでとは違う発想で対策を講じなければ何も変わらない」と、普及啓発部会では沖縄県教育庁に働きかけるとともに、この問題に関心のある小・中・高の養護教員の有志を募り、講習会を開いて沖縄の現状を語り、検診とワクチン接種の重要性を説明することから動き始めている。

 同時に県内の全大学と全専修学校での講演会(講義の一環として実施)を企画し、沖縄キリスト教学院大学や沖縄看護専門学校との交渉も開始。今後も粘り強く取り組んでいく考えだ。

意欲的な活動を続けるための今後の課題は資金調達
 このように、沖縄県では連携協議会が発足したことを契機に、医療提供者たちが職種や医療機関の枠組みを超えて協働作業を開始し、さまざまな成果も出始めている。

 しかし、現場の医療提供者たちが患者のニーズを反映させながら意欲的に部会活動を継続するためには、解決しなければならない課題もある。なかでも予算の問題は大きい。現在、国から支給される連携協議会運営費は部会活動に使えないため、さまざまな活動にかかる経費はもちろん、計画を立案・実行する委員たちの報酬もなく、全員ボランティアでの参加だ。

 この問題は、連携協議会の場でも取り上げられ、患者委員からも「具体的な提案をする部会活動に予算がつかないのはおかしい」という指摘が挙がった。連携協議会議長の須加原一博氏(琉球大学医学部附属病院長)も「資金がなければ次の段階に進むのは難しい面がある。六位一体モデル(注2)で数億円単位の資金調達に成功した島根県の先進事例も参考にしながら基金の創設も視野に入れ、今後は資金確保に取り組んでいきたい」と決意を新たにする。

 6月3日に開催された連携協議会の協議の場では、県民に寄付を求める「うちなーがん基金」の創設が提案され、全会一致で承認された。沖縄県では今、現場の医療提供者たちに灯った改革の火を消さないよう活動を支える仕組みづくりも始まっている――。

(医療ライター 渡辺 千鶴)

注1:がんの罹患者数や治療成績をデータベース化したもの。
注2:島根県では、患者、医療従事者、行政に加え、メディア、企業、議会などをあわせた「六位一体」でがん対策に取り組んでいる。地域力を上げる仕組みとして、注目を集めている。

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