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レポート

2009/6/30

米国でアドボカシー・トレーニングを体験(No.1)

老舗の患者団体TWCを訪問「がんなのに、コングラッチュレーション!?」

 2009年5月2日から5日までの4日間、ワシントンDCで開かれた米国乳がん連合基金(National Breast Cancer Coalition:NBCCF)の「アドボカシー・トレーニング・カンファレンス」を取材した。
 このカンファレンスは、NBCCFが毎年この時期に開催する4日間の患者教育セミナー。最終日には参加者全員でロビー活動(議員への陳情)を行うビッグイベントだ。
 サバイバー(がん経験者)歴4年。さびついて鞘から抜けなくなった英会話をぶらさげた乳がん患者の私、桜井なおみ(42歳)は、日本イーライリリーの患者支援事業の一環として今回取材の機会を得た。これがもう、とても刺激的で!
 熱が冷めないうちに、この体験をレポートします。

懐かしいワシントンDCの空

体が持つかな?不安を抱えての渡米
 最初の手術から4年。二度目の手術から2年。ハードな日程に仕事との兼ね合い、通院とのタイミングをどうするのか。日本イーライリリーからの取材依頼を受けて最初に思ったのは「体が持つかな?」という、大きな、大きな不安だった。

 ワシントンDCを訪れるのは35年ぶり。私は、生後3カ月で渡米し、ワシントンDCで4年間、その後2年間をバージニア州で過ごした帰国子“児”だ。当時は日本語より英語で話すことが多かったが、帰国後、英語はすっかり放置状態!

 でも30歳を過ぎたころから「一度でいいから、自分が生まれ育った町を見たい」そう強く思うようになり、2004年の秋、父、母、姉、私の家族全員での渡米を計画していた。ところが、運悪く(いや、運よく)その年の夏にがんが見つかり、計画は延期。そうこうしているうち、今年1月に母が他界し、家族そろっての渡米は、一生果たすことができない夢となった。

The Wellness CommunitワシントンDC支部

 母の命日から2週間が経ったころ、突然舞い込んできた取材依頼に「これは母が“行け”と言っているんだ」と思わずにはいられなかった。

 いろんな不安はあったけれど、私は米国行きを決意した。カバンには1枚の家族写真を放り込んで――。

米国患者会The Wellness Communityへ!
 到着したのは4月30日の夜で、5月1日は唯一のフリーデー。そこで、ジャパン・ウェルネス(がん患者支援団体の一つ)の会員でもある私は、せっかくワシントンDCへ行くんだから、その母体であるThe Wellness Community(TWC)の活動に参加してみたいと思い、この日の訪問を計画していた。

 TWCは、がん患者と家族に対する精神的なサポートを行うことを目的に、1982年に創設された老舗の患者会。全米約20カ所でがん患者と家族への支援活動を行っている。その目指すところは「アクティブ(能動的・主体的に活動する)な患者であること」。私が主宰しているHOPEプロジェクトも、ジャパン・ウェルネスで出会った仲間と「アクティヴ・ペイシェント(能動的な患者)」であり続けるために立ち上げた団体だ。

椅子から本棚、電気スタンドまで全部寄付。ここは図書室

 渡米の2日前に電話をすると「いつでもいらっしゃい!大歓迎よ!」という、うれしい言葉が返ってきた。TWCの仲間に会える!

 こんなにもすんなりと受け入れてもらえるなんて、予想外だった。

 最寄り駅までは地下鉄で行き、そこからはタクシーで。タクシーはゆっくりと小高い丘へ続く道を上がっていく。着いた先は、緑に囲まれたすばらしいロケーション!「ここって別荘地?!」と思うほど。ここの空気を吸っているだけで、心も体も癒やされていくような気がした。

 中へ入って名前を告げると、一昨日電話で話をした受付の女性が出迎えてくれた。「ようこそナオミ、待ってたわよ!」奥からプレジデントのポーラ・ローゼンバーグさんが登場。事務所の中をすべて案内してくれた。「広い!きれい!」事務室、受付、図書室、そして会員向けのスペースが3つ。これになんと台所までついている。

者さん主催の編み物教室に参加。でも私は苦手(笑)

 「全部、寄付なのよ。だから、豪華なものばかり揃っちゃうのよ」とポーラの説明。「え?全部寄付なの?」「そう。ぜ〜んぶ。」これにはびっくり。「会費は?」「無料よ」「無料!?」これだけの空間、施設で会費が無料だなんて!

 米国人のドネーション・マインドをしみじみと実感した。

サバイバーにコングラッチュレーション!?
 コミュニティ・ルームへ入ると、ちょうど編み物教室が始まるところ。「サバイバー4年生の桜井なおみです。日本支部からきました。」と自己紹介をすると、「コングラッチュレーション!」「ウェルカム!」という言葉とともに拍手で迎えられた。患者同士とはいえ、正直言って「コングラッチュレーション!」には驚いた。

 日本では入院中「何のご病気なの?」「がんです」と答えると、たいていの人から「まだお若いのに、かわいそう」と言われた。この言葉ほど心にこたえたものはない。

 ところが米国では、機内やタクシーの中で「私はがん患者4年生なんだ。」と言うと、「グレイト!」とか「あら、うちのいとこと一緒ね」という言葉がでてくる。日本のようにフリーズされたり、驚かれたりすることもなく、「あっさり」流される。「日本でもこんな反応が返ってくるようになるとよいな〜」としみじみ感じてしまった。

 ポーラと一緒にコーヒーを飲んでいると、プログラム・ディレクターのバーバラ・シェイファーさんが到着。彼女は、MSW(Medical Social Worker:医療ソーシャルワーカー)、LCSW-C(Licensed Clinical Social Worker-Certified:臨床ソーシャルワーカー)、OSW-C(Oncology Social Worker at life with Cancer:がん専門のソーシャルワーカー)など、たくさんのソーシャルワーカーの資格を持っている。場所を移動して、ワシントンDCでの患者支援プログラムの詳細について説明をしてくれた。

 がんの部位別のサポート会、ヨガや薬の勉強会など、内容は日本とほぼ同じ。「明日は緩和ケアの薬の勉強会があるわよ。メンバーもたくさん来るし、時間があったらいらっしゃいよ」ところがチラシをみると午後半日!

 NBCCFと思いっきり重なっている。こりゃだめだとあきらめた。残念!

就労支援は、米国でもハードルは高い
 日本では、「がん=死」というイメージがまだまだ強い。そのため、若いうちに罹患すると、肉体的・精神面な負担の問題だけではなく、就職や保険、結婚といった社会面でも大きな偏見や壁にぶつかる。私もまさか30代でがんになるなんて想像もできなかったし、切ってからがこんなに大変だとは思いもよらなかった。

 若い患者には、若いがゆえの問題がたくさんある。でも、患者会などの支援は、まだまだ少ないのが現状だ。この点について、老舗のTWCではどうしているのか知りたくて、私はバーバラに二つの質問を投げかけた。

 「働くがん患者さん向けのプログラムや、子育て中のがん患者さん向けのプログラムはないの?」「ええ、いつかやりたいと思っているのよ。コマは用意してあるんだけど、準備が必要でしょ。子供のおもちゃを買ったり、部屋も変えないとダメだし。それでまだ始めてはいないの」。でも、バーバラは何か企んでいそうな顔だ。

 「昨年、調査をしたんだけれど、日本では3人に1人ががんの罹患前後で転職をしているの。若い人にとって仕事は生きがい。それを奪われてしまっているの。米国では雇用継続に関する患者プログラムや公的支援制度はあるの?」「米国も景気が悪いからがん患者の就労はとても厳しいわ。でも、企業の中には色々な制度や働き方が用意されているから、それを利用しているわ。残念ながら公的な支援は米国でもないわ。でも若いサバイバーにとって、仕事の継続は大問題よね。保険の問題も関係してくるし。これからの重要な課題ね」。

 がん医療が進歩する中、がん患者の5年生存率は伸びている。医療も、外来・在宅化へと向かっている。ところが、医療が患者を「社会へ戻そう」としても「受け入れる社会」が無いのが現状だ。先進国である米国でも同じ問題を抱えているというバーバラの話を聞いて、がん患者の社会的な問題、社会的自立は「世界的な問題なのだ」ということがわかっただけでも大収穫だ。

 帰りはバーバラが駅まで車で送ってくれた。「どうもありがとう!」。TWCは、がん患者が集い、病気になったのは“一人じゃない”ことを実感させてくれる“コミュニティ”だった。その温かさ、包容力を体感できて良かった。

 さぁ、いよいよ明日からは本番!ジャグジーで疲れをほぐしてこようっと。

著者プロフィール
桜井 なおみ
NPO法人HOPEプロジェクト理事長。2004年夏、30代でがんの診断を受け、手術、化学療法。2007年再手術。2006年子育て世代の小児がん・若年性がん患者支援の会(ボタニカルキッズクラブ)を始動。設立1年を契機に法人化、現在に至る。人間力大賞2008会頭特別賞受賞など。

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