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レポート

2009/6/16

ASCO 2009より

卵巣がんの初発治療後は腫瘍マーカーに翻弄されないことが重要

 2009年5月29日から6月2日まで米国フロリダ州Orlandoで米国臨床腫瘍学会(ASCO)が開催された。今年のASCOでは、卵巣がんの腫瘍マーカーCA-125に関する研究が、特に注目度の高い研究成果(プレナリーセッション)のひとつに選ばれた。この結果は、日本の日常診療にも影響しそうだ。



 現在、日本婦人科腫瘍学会による「卵巣がん治療ガイドライン2007年版」では、卵巣がんの初発治療後のフォローアップとして、毎回、腫瘍マーカー(CA-125)の測定を行うことが推奨されている。そして毎回検査される腫瘍マーカーの変動は、患者にとって大きな気がかりだ。

 ところが、毎回CA-125検査を行うことについての科学的なエビデンスは乏しい。ガイドラインにも、「初回治療後のフォローアップ時の最適な診察項目や検査項目を提示するための確固とした科学的根拠を見つけることは困難」と記載されており、エビデンスに則ってというよりも、慣習的に検査が行われているのが現状なのだ。

 今回のASCOでは、CA-125を用いたフォローアップに関して、ほぼ初めてとなるエビデンスが提示された。

プレナリーセッションで発表したRustin氏

プレナリーセッションで成果を発表したGordon Rustin氏(写真提供:ASCO/Todd Buchanan 2009)

 英国Mount Vernon Cencer CentreのGordon Rustin氏とMaria van der Burg氏によるMRC OV05試験とEORTC55955試験の結果だ。これらの試験では、CA-125の上昇(正常値上限の2倍以上)を再発と見なして早期に治療を開始した場合(早期治療群)と、腫瘍マーカーの上昇に加え画像診断などによる腫瘍の確認を待ってから治療を開始した場合(治療遅延群)とを比べて、生存率の改善などが見られるかが前向きに検討された。CA-125の測定は3カ月ごとに行われている。

 対象となったのは、ファーストラインの抗がん剤治療を完了した進行卵巣がん患者1442人。そのうち条件に合致しランダム化されたのは、早期治療群265人と治療遅延群264人だった。早期治療群では254人(96%)が、治療遅延群では233人(88%)がセカンドラインの抗がん剤治療に移行した。

 試験に参加した患者の進行度はステージIIIが一番多く(早期治療群68%、治療遅延群69%)、ステージIV(早期治療群12%、治療遅延群13%)、ステージII(早期治療群11%、治療遅延群10%)、ステージI(早期治療群9%、治療遅延群8%)と続いていた。

 解析の結果、早期治療群は、治療遅延群に比べて4.8カ月早くセカンドラインの抗がん剤治療を開始し、サードラインの抗がん剤治療も4.6カ月早く開始していることが確認された。

 しかし、早期治療群と治療遅延群には、全生存率に差はみられなかった(下図参照/HR=1.00、95%信頼区間 0.82−1.22、p=0.98)

早期治療群と治療遅延群の全生存期間の比較

 加えて、QOLの指標として調査されたGlobal Health Scoreは、早期治療群が治療遅延群に比べて低い(悪い)傾向がみられた。また、同スコアで良好(Good)との回答が得られた期間も、早期治療群は7.1カ月(中央値)と、治療遅延群の9.2カ月(中央値)と比べて短い傾向が観察された。早期に治療を開始した場合にQOLが低下する傾向が示されたのは、早期開始で治療期間が長期化し、治療に伴う副作用や精神的なダメージが増加したことを意味する。

 すなわち、今回の研究から、CA-125の上昇を指標に抗がん剤治療を早期に開始しても、生存率の改善は見られず、QOLは逆に低下する傾向が確認された。

 国立がんセンター中央病院内科・化学療法医長の勝俣範之氏は今回の結果を受けて、「CA-125を用いて再発を早期に診断することによるメリットはなく、CA-125が上昇した場合でも、治療の開始は画像検査などによる診断が得られるまで待つことが望ましいことが示された」と解説する。

 とはいえ、腫瘍マーカーの上昇は患者にとって大きな不安だ。また勝俣氏は「腫瘍マーカーの上昇は、患者だけでなく医師にとっても不安なもの。そのため、治療を早期に開始してしまいがち」と話す。

 そして「日本国内においても、CA-125の再発の定義である“70 U/mL以上を2回”に満たないような、40〜50といった段階で抗がん剤治療を開始している医師がいる。そして、CA-125が低下すれば抗がん剤を中止し、再度、CA-125が上昇すると治療を再開するという“抗がん剤漬け”的な治療すら行われている」と勝俣氏は嘆く。

 勝俣氏は、「画像診断で腫瘍を見つけてから治療を開始することで、より適切な治療が可能になる。再発卵巣がんの治療では、抗がん剤だけが選択肢ではなく、手術や放射線治療の可能性もある。腫瘍マーカーの上昇だけで焦って治療を開始するのではなく、敵を見極めてから適切な治療を行うべき」と強調する。

 ASCOでこの発表を考察するディスカッサントとして登壇した米国UCLAのBeth Karlan氏は、「症状のない患者においては、CA-125の検査の頻度を減らすことが必要だろう」と語った。勝俣氏も今回の結果を受けて、「フォローアップのあり方に関するガイドラインの記載も見直しが行われるべき」と語っている。

 今後、日本においても、CA-125検査のあり方、治療開始の判断に腫瘍マーカーの結果をどのように利用するかの新たなコンセンサス作りが必要だろう。また、患者もCA-125の数値に翻弄されないことが重要といえる。

 最後に勝俣氏は、「卵巣がんの治療では、なによりも初期治療をしっかり行うことが大切。初期治療がしっかり行われている場合は、再発についてあまり心配することなく過ごして欲しい」と語った。

(小板橋 律子)

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