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レポート

2009/6/9

ASCO 2009より

米国がん診療の現実―コストが治療法選択に大きな影

 2009年5月29日から6月2日まで米国フロリダ州Orlandoで米国臨床腫瘍学会(ASCO)が開催された。ASCOでは世界の標準治療を変えるような研究成果が発表されるため、全世界からがん診療関係者が集結する。世界のがん診療をリードするASCOだが、その米国では、がん関連の医療費急騰への対処が焦眉の課題だ。ASCOで発表された研究成果を日本に持ち帰ることは、高騰する医療費という課題も同時に持ち帰ることになる。医療コストに対するASCOの対応の現状をレポートする。



 「現在、米国では、がんに適応のある薬剤が約170種類、承認されている。しかし、国民の全てがこれらの治療薬を利用できているとは言えないのが現状だ。医療保険を持たない国民だけでなく、保険を有していても、高額な値段のために一部の薬を利用できない患者が存在する。医療コストを減らし、ケアの質を上げることが必要だ」。ASCOの会長を務めるRichard Schilsky氏は、会長講演のなかでこう語った。

ASCOの現会長を務めているRichard Schilsky氏(写真提供:ASCO/Todd Buchanan 2009)

ASCOの現会長を務めているRichard Schilsky氏(写真提供:ASCO/Todd Buchanan 2009)

 現在、米国は、医療保険に加入している個人(2500万人)よりも、加入していない個人(4600万人)の方が圧倒的に多いという現実を抱えている。さらに、保険を有していても、自己負担分の医療費を支払えないために、標準治療とされる治療薬を利用できない患者が存在し、その割合は決して少なくない。加えて、米国民の自己破産の理由の半分は医療費の支払い不能によるものであり、その内訳ではがん関連が最も高いことも示されてる。

 Schilsky氏は、「がん診療に関連するコストの増加率(15%)は、ヘルスケアに関連するコストの増加率(6%)の2倍の勢いであり、我々も、コストの問題にチャレンジしなければならない」と語る。

 Schilsky氏は、今回の総会のテーマでもある個別化医療を推進することが、効果が高い診療の提供とともに、無駄な治療費の削減につながると強調した。コスト問題を解決するためにも、さらなる研究が必要だという考えだ。

 ただし、その一方で、治療費を払えるかどうかは、治療方針を決めるうえで重要であるとの考えも示した。特に転移後の治療においては、「治療のゴールを決めること。そして、最も効果が高く、副作用が少なく、そして、支払い可能な治療法を選択すべき」とした。

 米国のがん診療において医療コストは、効果、副作用に並んで、治療法を決めるうえで重要な要素となっていることを、会長自らが会長講演のなかで認めたわけである。しかも、この考えは会長の個人的な意見ではなく、ASCOそのものの方針なのだ。

2009年のASCOは米国フロリダ州Orlandoで開催された

2009年のASCOは米国フロリダ州Orlandoで開催された

 ASCOは、2007年8月から、コスト問題に対峙するためのタスクフォース(Cost of Cancer Care Task Force)を立ち上げ、活動を行っている。

 このタスクフォースの成果の一つとして、患者・家族向けの冊子「Managing the Cost of Cancer Care」が、今回のASCOに先立ち公表された。この冊子は、費用負担の軽減に役立つ情報源の提供を行うとともに、治療を開始する前に、診療に必要となる費用に関して医療者と話し合うことを推奨している。

 また2009年7月には、医療者向けの医療コストに関するガイダンスを、ASCOの声明として学術誌Journal of Clinical Oncology誌に掲載予定であることも、Schilsky氏は明らかにした。この声明では、医療コストの問題は診療を行ううえで重要な要素の一つであるとされ、治療法選択にコストの問題を組み入れる際に、医療者が参照できる理論的解釈が提供される予定となっている。

 すなわち、これまでの議論に基づき、医療コストは治療法を選択するうえで重要な要素であることをASCOは既に正式に表明し、その普及を開始したのだ。

医療費に関する教育セッションが連日開催される
 医療費の話題は、会長講演で取り上げられただけではない。今回のASCOでは、医療費に関する教育セッションが連日開催された。そのうちの一つ「がん診療に伴うコスト、患者に何を話し何を目標とすべきか」では、会長講演で紹介された医療コストに関するタスクフォースの活動が報告された。

 このタスクフォースの座長を務めるBeth Israel Deaconess Medical CenterのLowell Schnipper氏は、「非常に高価な薬剤が、高額な医療費いう問題に慣れていないがん患者や腫瘍医に、新たな問題を突きつけている」とまず語った。そして既に、「米国ではがん患者の5人に1人が、コストを理由に、治療開始の遅れや治療を受けられないという現状がある」とした。

 Schnipper氏は「来月発表する声明はこのタスクフォースの活動の第一段階であり、第二段階の活動として、コスト問題を解決するため、医療政策的な提言も行っていく予定」と語る。

 幸い米国とは大きく異なる医療制度を持つ日本では、米国ほど極端に医療コストが治療法選択に影響することはないだろう。また、ASCOの推奨がそのまま日本にも受け入れられるとは考えにくい。しかし日本でも、がん診療に関わる医療費の負担は増加を続け、治療費が払えないために治療の中断を選択する患者は現実に存在する。医療コストに対する日本独自の対策や、新たなコンセンサスの模索をはじめるべきときが来ているのではないだろうか。

(小板橋 律子)

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