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2009/6/2

お気に入りの木を探しに行こう!

治療や看病の不満や不安解消に森林浴のススメ

 闘病や看病で疲れたとき、自然に触れると安らぐという人は多い。特に四季のある日本において、森林は季節ごとに表情を変化させ、楽しみを与えてくれる。今回は森林浴の健康効果について、おもに企業、社会福祉施設でのワークショップやスクールカウンセリングに森林浴を取り入れ、その心理学的、生理学的作用を研究している東京農業大学造林学研究室准教授の上原巌氏に話を伺った。



東京農業大学造林学研究室准教授の上原巌氏
東京農業大学造林学研究室准教授の上原巌氏

 がんの診断・治療は、精神的なストレスを生じる。その結果、精神的な疾患の発症につながる場合もある。がん患者の約4〜7%がうつ病となり、適応障害は13〜35%に上るというデータもあるほどだ。ストレスをうまく発散させる方法を持つことは、がんを生きるうえで重要だろう。その一つとしてお勧めしたいのが、森林浴だ。

 「都市環境よりも森林環境の方が、ストレスホルモン(コルチゾール)の測定値は減少し、また、腫瘍細胞やウイルス感染細胞の拒絶に重要なナチュラルキラー細胞(NK細胞)の活性は、森林環境で有意にプラスに変化することがこれまでの複数の研究結果で示されてきている」と語るのは、東京農業大学造林学研究室准教授の上原巌氏。

 緑豊かな場所へ行くと心が休まるだけでなく、がん細胞やウイルス感染などに対峙する免疫の働きも高まる可能性があるようだ。

 例えば、上原氏らが行った、健康な男女20人を対象にしたこんな研究成果がある。都会と森林それぞれで、同じ3kmの散策を行い、その前後で血液検査を行ったところ、NK細胞の活性は森林の方が高く、コルチゾール量は森林の方が少なかったというもの。

 この研究では、POMS(気分プロフィール検査/文末の※注1)も行っている。POMSで、「緊張−不安」「抑うつ−落ち込み」「怒り−敵意」「疲労」「混乱」といった気分を都市環境と森林環境で比較すると、森林環境において有意に改善することがわかった。運動前の都市環境と森林環境との比較(濃青とオレンジ)では、6項目中、「活気」を除く5項目で有意に得点が減少、すなわち気分の向上が認められた。さらに森林環境における運動前と後の比較では(濃オレンジと薄オレンジ)、すべての項目で有意に向上することが認められた(林野庁『森林の健康と癒し効果に関する科学的実証調査報告書(要旨)』H15年度より)。

 「怒りや緊張時には自律神経の交感神経の方が優位に働いていますが、木々に囲まれて自然の色やにおい、音を感じると副交感神経が優位になり、心身の安らぎにつながるのではないかと考えられます」と上原氏は語る。

“お気に入りの木”に寄り添って

森林ウォーキングを住民の健康づくりに取り入れている自治体も(写真:中頓別町鍾乳洞自然ふれあい公園
森林ウォーキングを住民の健康づくりに取り入れている自治体も(写真:中頓別町鍾乳洞自然ふれあい公園=北海道枝幸郡中頓別町

 日本では、病気の予防や改善、健康増進といった目的をもって、計画的に行われる森林浴を「森林療法」と呼んでいる。ただし、医学的な効果はまだ検証途中ということもあり、今のところそのやり方は医療機関や福祉施設によってさまざまなのが現状だ。

 上原氏は「ストレス解消を目的とするなら、方法論にこだわる必要はありません。森林の中で、自分の気持ちのおもむくままに過ごすだけでも休養効果が期待できます」という。

 「ただ、がんの治療や看病の日々の中で、不満や不安を自分の中にためこんでいる人も多いと思います。そのような人は、森林の中でお気に入りの木を探して、思いをぶつけてみてはいかがでしょうか」(上原氏)

 幹の太さや枝ぶりは一本一本違い、うっそうとした場所と日がよく差し込む場所とでも印象が変わる。「この木の下にいるとゆったり過ごせそう」と思える木は人それぞれだ。その木の下で自然の音に耳を傾けたり、風を感じたりしてゆったり過ごしていると、木に親しみが沸いてくる。そうしたらその木に話しかけてみよう。「木は相手を選びません。どんな相手でも無言で受容してくれます。木に自分の思いを話していると、気分も軽くなりますし、冷静にこれからを考えられるようにもなれるのではないかと考えます」(上原氏)

癒しポイントは「天然林」と「水」
 一方、森林浴に適した森林の条件というのはあるのだろうか?

 木がある、といっても海岸などを埋め立てて人工的に造られた公園では、どこか落ち着かない。それはなぜか。「そうした場所には多くの場合、決まった種類の樹木しか植えられていません。手入れが楽などの理由で、ヤマモモやマテバシイが多いです。また、見た目の美観を考慮して、整然と植えられているのも、中には息苦しく感じる方もいるでしょう。かっちりと“整備されている”環境は、緊張感を与えてしまうこともあります」(上原氏)。

 いろいろな木や植物が雑多に生えている天然林の方が、非日常感を味わいやすく、リフレッシュさせてくれるというわけだ。「“クマに注意”と看板が出ているような森林は、大きな動物が住めるほど生態系が保たれているということ。自然の豊かさを示す一つの指標になるといえるでしょう」(上原氏)。

 もう一つのポイントは水。「川や滝、池のほとりは空気がひんやりする、自然のせせらぎが生で聞こえるなどの、普段の生活ではなかなかできない体験が、五感への刺激となります。それが脳や心身のリフレッシュにつながると考えられます」(上原氏)。

お手軽森林浴のススメ−「寺の大木」「鎮守の森」で

水のある場所はリフレッシュ効果が高い(写真:奥入瀬渓流/青森県十和田市)
水のある場所はリフレッシュ効果が高い(写真:奥入瀬渓流/青森県十和田市))

 一般的には、森林浴は街から離れた環境で行うほど良いと思われがちだ。しかしなかなか野山に出かける時間がとれない、移動だけで疲れてしまう、という人もいるだろう。森林浴は遠出しなければできない、というものでもない、と上原氏。

 「街の中でも、樹木が自然な形で茂っている場所はあります。例えば鎮守の森やお寺の大木は、神社や寺院を守るように茂っており、音も静かで、森林浴に適した環境といえます」(上原氏)。

 通院の途中で立ち寄る“お手軽なミニ森林浴”だけでも、いい気分転換になりそうだ。

(医学ライター 渡邉 真由美)

※注1:POMS(Profile of Mood States)
米国で開発された気分を評価する手法。質問紙法(調査票にしたがって自己評価する方法)のひとつ。

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