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レポート

2009/5/12

専門医と患者が語るがん医療の本音-その2

治療法を決めるときに大切なこと−自分がどう生きたいか

 昔に比べれば医師と患者の意思の疎通などがん医療の現場はかなり良くはなったものの、まだまだ改善すべき問題点も多い。がん患者として様々な活動を続ける樋口強氏と肺がん専門医を代表する一人である里内美弥子氏に、我が国のがん医療を取り巻く現状と問題点について忌憚なく語り合ってもらった。



里内美弥子氏
里内美弥子氏:兵庫県立がんセンター呼吸器内科部長(科長)。日本肺癌学会、日本呼吸器学会、日本臨床腫瘍学会、日本癌治療学会、国際肺癌学会、米国臨床腫瘍学会(ASCO)をはじめ海外の学会にも所属
樋口強氏
樋口強氏:企業に勤めていた1996年2月に肺小細胞がんと診断された。現在は全国のがん患者会などとのネットワークづくりや「いのちの落語講演」をして全国をまわっている


樋口 治療法を決めるときについてですが、私はがんだとわかったときに、いちばん大事なことは、自分がどう生きたいのかということなのだと思っています。治療は手段でしかない。ですから先生にお任せしますということはないわけです。例えば、家族と一緒に普通の生活がしたいから、私は何を言われても治癒を目指すとか、仕事を1週間も休むことはできないとか、100人いたら100人とも生き方が違うので、それを伝えたほうがいい。その人の価値観がわかってくると、内科や外科など、それぞれのプロの人たちがプロの仕事をしてくれます。つまりメニューを出してくれる。「伝えないと標準治療しか出てきませんよ」と患者さんたちにアドバイスしています。先生方には、そういう価値観を聞いてあげる時間を重視していただけると、信頼感が強くなってくると思うのですが、いかがでしょうか。

里内 それは大切なことだと思います。ただ、私たち医者はそういう話を聞いたときに、その人の完治の可能性を考えます。仕事が休めないと言われても、完治する率が高い方など、いまならもっと長い予後が期待できるかもしれないということになると、ゆっくりお話しをする形になるでしょうね。最終的に決めるのはご本人ですが、話を聞きながらこちらの思っていることと調整を取っていくことになると思うのです。

「いのちの落語講演」−患者の気持ちを伝える小噺

樋口 私は「いのちの落語講演」といって、落語と講演をセットにしてお話をしていますが、落語といっても古典落語ではなく、がんを題材に生き様を伝える創作落語です。その一つに、「病院日記」という話があり、その中に「一診一笑」というタイトルの落語があります。1回の診察で患者さんを1回笑わせてくださいというものです。笑うことによって免疫力が上がることは医学的にもいわれていますから、外来診療でお医者さんも1回笑わせてやってくれませんか。そういう笑いの中から最適な治療または生き方を見いだしていきましょうよという思いですね。

里内 「一診一笑」ですか。私も明るい外来をしているつもりですよ。病気とは違う話もしますしね。ただ、そんなにゆっくりした外来ではないので、全員には難しいのですが。

樋口 「一診一笑」の続きで、お医者さんも医師免許の更新制度というものを導入しましょうという話があります。更新制度の中では小噺の実技が必須科目で、お医者さんも小噺ができるようにならないといけない。その小噺を教える塾が全国にあって、樋口塾というのが非常に評判を呼んでいる。そこでは、がん患者さんの気持ちがどれぐらいわかっているかという理解度テストを最初に受けていただく。そんなストーリーになっています。

里内 どんな内容のテストですか。

樋口 設問の一つに、「がんの患者さんが医療者の言葉の中で、いちばん嫌な言葉は次のうちのどれでしょう」というのがあります。まずAが「頑張ってね」。Bが「あなたも少しは勉強しなきゃ」。Cが「次の患者さんが待っていますから」。ではどれでしょうか。

里内 Cではないでしょうか。

樋口 実はすべて正しいのです。全国の患者さんのネットワークの中で、皆さんが思っていることの代表を集めてきた3つの選択肢なのです。中でも私がいちばん伝えたいのは「頑張ってね」です。入院している患者さんのほとんどは「頑張ってね」と言って、発破をかけてあげると、むしろ元気になります。ところが文字通り必死で頑張っている人に、「頑張ってね」と言ったら、心を閉ざしてしまいます。そこで、「る」をつけてくれませんか。「頑張ってるね」と言ってくれませんか。こう言うと、心の扉を開くのです。先生や看護師さんは私を遠くから見てくれているという思いがそこに入ってくるわけですね。そうすると「頑張っているね」と言ってくれたときに、「ありがとう」という気持ちになる。そうしたらひとつやってみるかというふうにつながっていくのです。

里内 ご家族の方も同じですね。

樋口 はい。家族はサポーターではなくて当事者です。生活が一体なわけですから逃げられない。その家族の方に廊下で会ったときに、「頑張っていらっしゃいますね」と言ってくれると、ああ、わかってくれているという思いになって、ほっとして、すごく元気が出る。ここをわかってほしいなと思います。

退院後のケア−医師とのつながりに安心感

樋口 退院してすぐの間は、いろいろな症状が起こります。例えば、朝起きたら背中が痛い、首が痛い、腰が痛い。普通の人は寝違えたと思うところを、私たちは骨に転移したのではないのかと思ったりする。血痰が出ることがあると、やはりびっくりする。定期検査の日は決めてあるけれども、先生に聞きたいけれども、電話では取り次いでくれないだろうと、悶々とするようなケースがすごくあると思うのです。こんなときはどのようにご指導されますか。

里内 患者さんには「何かあったら、まず電話してください」と言っていますから、ときどき電話がかかってきます。外来では気になる患者さんに看護師が声をかけていますし、新しい薬が始まったときには、数日後に看護師のほうから電話をかけていることもあります。

樋口 私はいまでもそうですが、主治医が「いつでも電話してください」と言ってくれます。実際、手術中でも、「1時間後に電話をください」と、ちゃんと返事が返ってくる。電話をする回数は実はそんなに多くないですが、大事なのは心の安堵ですね。自分がつらくなったときに、先生といつでもつながっていると思えるかどうかということです。

里内 私も実際には検査中や外来中など、すぐに電話に出られないことがありますから、そのときは出られる時間を伝えてもらっています。看護師さんが聞いて解決していることもありますよ。

樋口 人にもよると思いますし、病状にもよるとは思いますが、いざというときに先生とつながっていると思えることが安心感になって、前を向いて歩いていけるのだと思うのです。

副作用への対応−対話を通して薬を選択

樋口 続いて、副作用についてですが、抗癌剤の副作用として、脱毛やしびれ、口内炎も出てきます。我々患者にとってはものすごくつらいのです。私もまだ体中がしびれたままです。

里内 冷たいのがわからないと、おっしゃっていましたね。

樋口 私からお願いをして、抗がん剤を大量に一気に使ったためなのですが、いまだに冷たい、暑い、重い、軽いがわかりませんし、足の先が地面に着いていることもわかりません。最初はいろいろ考えてもらったり、調べてもらったりもしたのですが、しびれは取れません。

里内 神経細胞の障害なので良い方法はあまりないですね。しびれに関しては、患者さん本人しかわかりませんから、しびれの状況を見て、抗がん剤を他のものに変えるのか、患者さん自身に決めていただくこともあります。医者は最初に出る吐き気や、命にかかわる骨髄抑制、腎機能のほうに注目してしまうのですが、患者さんにとっては非常に大きな副作用ですね。

樋口 私はいまでも毎日リハビリです。治ることはないですが、リハビリをすることによって、不都合が少しは楽になっていく。

里内 残念ながら、改善させる方法はそれしかないですね。

樋口 がんを乗り越えてきた、そのおつりなのだからと、自分を元気づけるようにしています。

里内 以前は、副作用ももっといろいろな症状が出ていたものですから、そのときはしびれなどはきっと気にならなかったのかもしれません。

樋口 そうなのです。「まだしびれは残っていますか?」と今でもよく言われます。副作用にしても、患者がこれからどう生きていきたいかということから、先生と一緒に最良の治療法を選択していくといったような関係が大事なのだと思います。

里内 そうですね。ずっとつき合っていく病気ですから、どの薬を使うかなど一緒に戦略を立てていくということになるでしょう。自分にいちばん困る副作用はどれか。私は抗がん剤の副作用を箇条書きにして、「このお薬はこういった症状が出やすいです」という話をして、それで「困る」となれば別の薬にする。しかし、今度は違う症状が強く出ることがある。全部が“おいしい”治療はありませんから、消去法でどれかを選んでもらうしかないのですが。

樋口 そういう話ができるということが大事だと思いますね。副作用というのは、実は後になってみないとわからない部分はある。それよりも、どうやって治していくのか、どんな治療があるのかということのほうが先にあります。しかし先生には、そのときに、この人にとってこの副作用が出たときには生活がつらくなる、仕事がつらくなることに気づいていただいて、副作用のことも最初に話してほしいのです。

里内 私たちは持っている情報すべてをお話ししているわけではなく取捨選択してお話ししています。様々な情報はいわばタンスの引き出しに分けて入れてある状態です。樋口さんがおっしゃったように、患者さんのほうから本人の状況を話してもらって、患者さんの「これが大事だ」ということを教えてもらったら、その引き出しを開けてその部分に焦点を当てることができるでしょうね。

樋口 スタートはやはり患者のほうですね。勇気を持って話す。そして先生には話す時間をつくっていただく。極端に言うと、その時間は保険点数に加えてもらってもいいぐらいのプライオリティの高さがあると思っています。

里内 そうなったら医師にとっても有り難いですし、じっくり患者さんと話をする時間がとれるようになると思います。

樋口 本日はどうもありがとうございました。



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