このページの本文へ

がんナビ

がんナビについて

がん患者さんとその家族のために、がんの治療や患者さんの日々の生活をナビゲートします。

がん種から情報を探す

  • 乳がん
  • 肝がん
  • 大腸がん
  • 腎がん
  • 胃がん
  • 肺がん
  • 食道がん
  • 前立腺がん
  • 子宮頸がん
  • 膵がん
  • 卵巣がん
  • その他のがん

Report レポート

レポート一覧へ

新着一覧へ

レポート

2009/4/28

専門医と患者が語るがん医療の本音-その1

医師とのコミュニケーション、病院選びのコツとは

 昔に比べれば医師と患者の意思の疎通などがん医療の現場はかなり良くはなったものの、まだまだ改善すべき問題点も多い。がん患者として様々な活動を続ける樋口強氏と肺がん専門医を代表する一人である里内美弥子氏に、我が国のがん医療を取り巻く現状と問題点について忌憚なく語り合ってもらった。




里内美弥子氏樋口強氏
里内美弥子氏:兵庫県立がんセンター呼吸器内科部長(科長)。日本肺癌学会、日本呼吸器学会、日本臨床腫瘍学会、日本癌治療学会、国際肺癌学会、米国臨床腫瘍学会(ASCO)をはじめ海外の学会にも所属樋口強氏:企業に勤めていた1996年2月に肺小細胞がんと診断された。現在は全国のがん患者会などとのネットワークづくりや「いのちの落語講演」をして全国をまわっている


樋口 私が肺がんと診断されたのはもう13年前になるのですが、肺がんの患者さんは増えていますね。

里内 罹患率からいうと胃がんが最も高いのですが、胃がんの罹患率は徐々に減少しています。ところが肺がんは増加しており、いずれは肺がんがトップになるでしょうね。高齢化が進んでいることもあって、高齢の肺がん患者さんは特に増えています。

告知を受けたときの気持ち−「早く治療したい」

樋口 そうすると、「どうして私が肺がんになったの」と言うよりも、なっても不思議ではないというぐらいに思っておかなくてはいけないですね。私が企業に勤めていた頃には毎年、検診や人間ドックを受けていました。私の経験から言って、検診に行くのだったら同じところに行かないと意味がないと思っています。それは1年前のデータがあって、去年と比較してどうだろうと判断してくれるからです。私の場合も、去年は何もなかったのに、右肺の上が拳大ぐらいに真っ白になっているのが、明らかにわかった。そして、「樋口さん、このレントゲンの写真をお貸ししますので、すぐに大学病院に行ってください」と。もうここで、これは尋常ではないなと思いました。

里内 そこから検査入院となったわけですね。

樋口 検査入院中には、もう肺がんだろうなと思っていました。いろいろな本を読んで、肺がんの全貌は大体わかっていましたので、告知をされたときに私はそれほどショックではなかった。「ああ、そうか、やっぱりな。早く治療しましょうよ」という気持ちでした。そういう意味では非常にうまく私の心の中にがんというものが座り込んでくれた。

里内 いちばんショックだったのは、検診のときですか。

樋口 いいえ。「肺がんです。組織診では小細胞がんです」と言われたときです。たばこを吸っていましたから、扁平上皮がんだと思っていました。まさか小細胞がんではないだろうと思っていただけに、大きなショックでしたね。

里内 告知されると、「頭が真っ白だ」、「どうやって家に帰ったかもわからない」とおっしゃる方がすごく多いですよね。

樋口 そうなのです。先生から「がんだよ」と言われた後に、「何か質問はありますか」と尋ねられても、何を聞いていいかがわからない。先生は告知にどのようなことを気をつけていらっしゃいますか。

里内 私の施設はがんセンターに名称が変わりましたので、紹介された時点でかなり動揺している人が多いのです。中にはがんではなさそうなことで来る方もいて、まずは「疑いは強くない」と話して、安心させてあげる。しかし疑いのある方には、診断がつく前に「疑いがありますよ」と伝えておきます。そうすれば次に来院されて告知のときには、ある程度、準備ができているものではないでしょうか。

樋口 別の病院で検査されてから、がんセンターに来る方が多いのですか。

里内 ほとんどの方は少なくとも組織診はつかずに来院します。それこそ検診でそのまま来る方もいますし、患者さん自身が咳が出たとか、親や兄弟も肺がんだったので、「調べてほしい」ということで来られる方もいます。

樋口 がんの疑いがあって来られる方のほうが少ないわけですね。

里内 診断が遅れたら困るからと、わりと早めにうちに紹介される事が増えています。ただ、がんが大きくなるにはある程度の時間がかかります。ですから、2カ月前になかった影が出てきたとすれば、私たちはがんではなく、まずは肺炎を疑います。そういう方のほうが症状が出やすいものです。

樋口 かえってがんは症状が出ないですからね。

里内 がんの人のほうが症状は出ないということが、世間一般には浸透していないように思います。

樋口 本人への告知は100%ですか。

里内 治療をされる前提では100%です。初診で来られたときに用紙が渡されて、「説明は誰と聞きたいですか」、「たとえ治りにくい病気でも自分が聞きたいですか」などの質問に、「はい」「いいえ」「わからない」「お任せします」のどれかで答えてもらう。「お任せします」か「はい」だったら病名告知は100%しています。ただ、告知のときに、「前もお話ししていましたけれど」と言って、そのまま話を進めますが、間合いと言いますか、告知をする前には何か言ってからのほうがいいでしょうか。

樋口 そういう状況になっているときの患者の心理からいいますと、いろいろなことを考えてはいますが、「もしがんだったら、早く治療をしたい」という気持ちがすごくあります。たとえ1週間の間でも私の体の中のがん細胞がどんどん増殖していく、早く止めたい、という焦りがあるのです。

医師と患者のコミュニケーション−メモ書きを活用する

樋口 告知のときもそうですが、手術の前に術式を決めていくときなど、私たちがいちばん有り難いのは、書きながら説明していただいて、書いたものをくださるということです。その場でわかっていないことが実はとても多い。「わかりません」と言う勇気もないので、「はい、はい」とうなずくのですが、頭に入っていない。ですから、書いたものは、家に帰って冷静になったときに非常に大事です。それから私は患者さんに、「家族と一緒に聞きなさい」とアドバイスしています。

里内 それは絶対に必要ですね。

樋口 立場が違うと聞くポイントが違う。本人はその場ではわかったつもりでいても、聞き落としや、家に帰って「そんなことを言っていたかな」ということはすごくあります。

里内 初診には1人で来られている方も多いですが、「次の診察のときには大事な診断と治療方針をお話しますから、ご家族を連れてきてください」と言っています。ご高齢の方など、なかなか理解が難しいかなと思う場合は、たとえ息子さんが離れているとか、仕事で来られないと言われても、「必ず連れてきてください」と強く言っておきます。実際は看護師さんがフォローに行って、うまくやってくれます。

樋口 そのとき患者さんに、「次に来るときまでに何かご心配のことだとか、お困りのことがあったら、紙に書いて持ってきてください」ということもすごく大事だと思うのです。診察室に行くと、患者はどうしても舞い上がってしまう。「がんと言われたらどうしよう」という思いが強く、一緒にいる家族も同じようにつらい気持ちになっている。しかも診察室ではあまり長い時間は先生と話せないだろうという思いもある。患者もわりあい気を遣うものですから。そうすると、夜中も眠れずに心配していたことのほんの一部も言えなくて終わってしまう。

里内 その心配を紙に書いておくのですね。

樋口 箇条書きで、「先生、私がいま心配しているのは、こういうことなのです」と渡してしまう。そうすると、「わかりました。では、これに沿って言いましょうね」となって、この患者さんは何を心配しているのかがわかってもらえる。病気のことだけではなく、お金のことや仕事は休めないことなど、その患者さんがいま心配していることが見えてくるわけです。しかも時間の節約になる。

里内 私たちのところでも患者さんに話しながら、簡単な肺の図が描いてある紙に腫瘍の場所や治療法を書き込んで、それをコピーして持って帰っていただいています。そこには、例えば4期の方では、抗がん剤だけでは完治しないので、がんを抑えていく治療でつき合っていくのですよといったことを初回のときに書き、抗がん剤には副作用があるということも書き入れています。家で読み直したり家人に相談することもしやすいかと考えています。

樋口 患者さんに治療の座標軸をわかってもらうことが大事ですよね。 

里内 そうです。完治を目指す治療なのか、そうではないのか。ただ、どんどん増えている自分の細胞を潰す治療なのだから、副作用がない、リスクがない治療はないのだという話をします。それをわかってくれた上でないと治療はできないので、ある程度納得いただいてから入院予約をしましょうという流れになっています。

病院選び−治療の継続と利便性を考慮する

樋口 実は、最初に私たちが困るのは病院選びです。「がんですよ」と告知された時点で、「どこで治療をされますか」と聞かれます。「うちの病院でやってもいいです。もしお望みの病院があるようでしたら、紹介状を書きますが、どうされますか」と聞かれますね。でも聞かれたほうはわからない。

里内 わからないですよね。

樋口 がんという世界に初めて踏み入れた人にとって、どうすればいいのか。こういうときに、あなたなりにこう考えてみてくださいというポイントはありますか。

里内 一つは、長丁場であることは絶対考えておかないといけません。例えば、外来化学療法をすることになれば、あまり遠いところは無理でしょう。本に載っているような遠くの専門病院に行かれる人はいるのですが、「本当に通えますか。こういう治療をしていくのですよ」ともう一度言います。そうすると戻られる方は多い。そういった利便性は考えるべきだと思いますね。治療は全国でほぼ均一化していますから、地域の基幹病院に行くのか、自分のホームドクターに近いところで、地元で治療するのかを選択したほうがいいと個人的には思っています。

樋口 がんのことは何も知らない人の素朴な望みとして、最新の治療機器、検査機器がある病院で、いちばん新しい治療をしてほしいと思うことは結構多いのです。

里内 そうですね。ただ病院の側でいえば、ソフトの問題、つまり誰が診るのかというところが大切です。それは患者さんにはわからない。手術件数だけで判断するのも難しいものです。ですから、まずは地元の病院に行かれて、地元医療機関のコミュニケーションの中で、ここがいいよというところに行くとか、セカンドオピニオンを利用して治療方針を聞いておいて、近いところで治療することもできるでしょう。

樋口 セカンドオピニオンが制度的にあるというのはわかるのですが、気分的な問題で、それは割り切っているものでしょうか。

里内 がんの世界ではよくあることなので、私たちは完全に割り切っていますね。

樋口 患者はすごくそこに気を遣うのですよ。

里内 そうかもしれないですね。手紙もフィルムも持たずにセカンドオピニオンを求めて来る方もいて、「フィルムを借りてきて」と言ったら、「そんなことしたら、もう戻れなくなるから」と言う。しかし、向こうの先生がどう診ていたのかわからないわけですし、無責任になってしまうので、そのまま帰ってもらうことがあります。ここ2〜3年でセカンドオピニオンの状況は変わってきていると思いますよ。

樋口 それは肌で感じますね。

里内 遠くから治療を希望されて来院された患者さんには、「あなたを拒否しているのではないのですよ」と言った上で、いまの医療を考えたとき、昔みたいに入院でずっと抗がん剤を続ける時代ではないこと、長い距離をかけて、しんどい抗がん剤治療をして、副作用が出たらまた来るといったことは考えられないでしょうという話しをします。そして、そのお話しした内容や方針を地元の病院に情報提供しています。



この記事を友達に伝える印刷用ページ