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レポート

2009/3/24

St.Gallen国際会議レポート1

腫瘍切除の安全域はより狭く、乳房温存後の放射線療法は一部の患者で省略も選択肢に

早期乳がんの治療法を話し合うSt.Gallen国際会議(正式名称:Primary Therapy Breast Cancer 11th International Conference)が、3月11日〜14日にスイスSt.Gallenで開催された。同会議の結果は世界の乳がん診療の標準を決めるとまで言われるもの。日本の乳がん診療に対しても最も大きな影響力を持つ。まずは、手術と放射線療法に関する議論と結論についてレポートする。



壇上に並んだパネリストによる投票で標準治療が決められる

壇上に上がった41人のパネリストによる投票で標準治療が決められる

 今回で11回目を迎えたSt.Gallen国際会議には、全世界から5000人弱の参加者が集結した。同会議への日本からの参加者も多く、同会議の結果は、日本の診療に大きな影響を持つ。がんナビのサブサイトである乳がん百科が昨年行った調査でも、日本乳癌学会のガイドライン以上に、同会議の結果を術後薬物療法の決定の際に参照しているという結果が得られている(関連記事)。

 このようにSt.Gallen国際会議は薬物療法のガイドラインとして有名だが、手術や放射線治療に関しても最新のデータを基に合意形成が行われる。今回の会議で焦点となったのは、まず、手術ではセンチネルリンパ節生検や腫瘍切除時の安全域の取り方など。放射線療法では放射線療法が省略可能な場合があるか否かなどだ。

センチネルリンパ節生検は早期浸潤性乳がんの標準治療
 まず、センチネルリンパ節生検が早期浸潤性乳がんにおいて標準治療といえるという点は議論の余地なく合意された。このことは、昨年改訂された日本乳癌学会の「科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン(2)外科療法」においても推奨されている。ただし日本では、センチネルリンパ節生検が保険診療として認められていないという問題がある。現在、日本乳癌学会がセンチネルリンパ節生検の保険適応を目指し、臨床試験を進めている。

 会議では、センチネルリンパ節生検の結果、がん細胞や微小ながん組織(微小転移)がセンチネルリンパ節に発見された場合の対応についても投票の対象となった。投票の結果、センチネルリンパ節に微小ながん組織が発見された場合でも、特定の低リスク患者においてはわきの下のリンパ節郭清は省略できるということで合意された。すなわち、センチネルリンパ節にがん組織があっても、場合によって追加のリンパ節切除は不要とされた。

 この結果について座長から解説を求められた米国Memorial Sloan-Kettering Cancer CenterのMonica Morrow氏は、センチネルリンパ節のがん組織が微小であっても、他のリンパ節への転移がないことを示す訳ではないことをまず覚えておく必要がある。ただし、微小な転移の場合、郭清を行わなくても、放射線療法などで再発を抑えることもできるとしたうえで、「投票の結果、一部の患者では郭清を省略できるという結果になったのは、原発乳がんの腫瘍径の大きさなども勘案して決める必要があると多くが考えているためだろう」と語った。

 一方、日本のガイドラインは、センチネルリンパ節への微小転移の臨床的意義が確立していないため、同様なケースにおいては、リンパ節郭清を推奨している(推奨グレードB)。ただし、追記で「患者ごとに省略の可能性も検討されるべき」と記載されている。今回のSt.Gallenの結果は、日本のガイドラインよりも郭清の省略を若干積極的に捉えているようであった。

腫瘍切除の安全域はより狭く
 手術で腫瘍を切除した際の切除面である断端部に関する議論では、浸潤がんにおいて断端陽性の場合には、全員一致で再切除すべきという結論になった。また、非浸潤がん(DCIS)においては、再切除すべきが8割となっていた。「DCISは治る病気。そのため、断端を陰性にすることが重要と」Morrow氏はコメントした。一方、非浸潤性小葉がん(LCIS)においては、再切除は必ずしも必須ではないと合意された。

 腫瘍の辺縁から切除断端までの距離については、コンセンサス会議に先立って行われた発表で、2mm以上が理想的とされていた。そのため、コンセンサス会議では、断端1mm以下の場合に再切除が必要か否かについて意見が問われた。その結果、再切除すべき(43%)、必ずしも必要ではない(48%)に意見が大きく分かれ、今後の課題となった。

 Morrow氏は、「マージンをどれほど取るべきかは、元の腫瘍がどれほど大きかったか、また、閉経前か後かなど患者の状況にもよって変わってくる」とした。

 日本では、腫瘍辺縁から切除断端までの理想的な距離は、欧米よりも長い5mmとなっている。すなわち、安全域をより広く取った腫瘍切除をしている。日本では、欧米に比べてより慎重な腫瘍切除を行っているといえる一方で、必要以上の乳房組織を切除している可能性も否めない。

 「日本の基準は、今回の議論と比べてかなり厳しい。今後、(基準の見直しは)日本でも検討すべき話題だろう」聖路加国際病院ブレストセンター長の中村清吾氏はこう感想を語った。

放射線療法は省略できるか?
 放射線療法に関しては、まず、非浸潤がん(DCIS)切除後、リンパ節転移陽性の乳房切除術後、乳房温存術後において、放射線療法が標準治療であることが確認された。これらの結果は、日本のガイドライン(日本乳癌学会による「乳癌診療ガイドライン(3)放射線療法」)と違いはない。

 今回の会議では上記の放射線療法を標準治療と位置づけたうえで、放射線療法が省略可能な場合についても検討された。

 例えば、DCIS切除後の高齢者では放射線治療を行わないこともあり得る(賛成61%、反対39%)。加えて、低グレードのDCISでは放射線治療を行わないこともあり得る(賛成59%、反対32%、10%)となった。

 米国Emory University School of MedicineのWilliam C. Wood氏は、「低グレードで腫瘍径が小さければ、放射線治療を行わないことも可能だろう。しかし、高齢者の定義が問題。何歳以上が高齢なのか。また、年齢ではなく、その後の余命で考える必要がある。少なくとも70才以下の若い患者に対しては、放射線療法の省略は行うべきではないだろう。」とコメントした。

タモキシフェンは放射線療法の代替となるか?
 日本のガイドラインに記載のない新しいポイントとして、乳房温存術後の放射線療法の代わりに、タモキシフェンによるホルモン療法がなり得るかが議論された。

 まず、リンパ節転移のないホルモン感受性(ER+)、閉経後のステージ1の乳がんにおいて、タモキシフェンは放射線療法の代わりになり得るかという質問が出された。その質問に対する意見は否定的であった(賛成24%、反対73%)。また、高齢だが長い余命が期待できる場合には、乳房温存術後に放射線療法を受けるべきとされた(賛成80%、反対15%)。

 ただし、閉経後かつ高齢の患者に限った場合には、放射線療法の代わりにタモキシフェンによるホルモン療法を利用できるとする回答(51%)と、できないとする回答(46%)に意見が分かれた。

 その後、投票者からは、「放射線療法を行わない場合、局所再発リスクは高いが、生存率は変わらないというデータが出ている。放射線療法の代わりにタモキシフェンを使うかどうかは、患者自身が決めること」などのコメントが出された。

 これらの意見を踏まえて、この質問に対しては再度の投票が行われた。その結果、最初の投票よりも、放射線療法に代わる選択肢の一つに、タモキシフェン投与がなるという回答が増えた(賛成65%、反対33%)。すなわち、閉経後の高齢、リンパ節転移のないホルモン感受性(ER+)のステージ1の乳がんでは、患者が、再発リスクを理解したうえで強く希望する場合には放射線療法を省略できるとことになった。

 日本においても、乳房温存術後の放射線療法の省略に関する検討が行われている(関連記事)。

治療期間の短い加速照射は選択肢の一つに
 乳房温存術後の再発抑制を目的とした放射線療法については、新たな放射線照射法の有効性についても検討された。

 まず、加速全乳房照射(Accelerated whole breast RT)は選択肢の一つといえる(賛成83%、反対10%)となった。加速全乳房照射とは1回あたりの線量を増やし治療期間を2週間程度に短縮した放射線療法。通常の放射線治療は4〜5週間の治療期間が必要なため、治療期間を短縮できる加速照射への期待が高まっているようだ。

 京都大学放射線腫瘍学・画像応用治療学の光森通英氏は「加速照射に関しては、国内でもいくつかの臨床試験が進行中」という。ただし、「治療期間は短くなるが、1日に2回照射が必要となる場合もある。そのような場合、患者さんは入院しなければならないか、丸1日拘束されることになる。患者さんにとって本当に利便性の高いものとなるかはまだ分からない」と語る。

 新たな放射線照射法として、もう一つ、イタリアで研究が進められている乳房手術中に腫瘍切除部分に放射線を照射する方法(術中照射)が議論された。投票の結果、術中照射は実験的なものとされた(賛成84%、反対16%)。

 術中照射は、手術後の放射線治療の代替となるものとして研究されている。ただし、「術中照射を行うには、しこりの上の皮膚を切り開いて照射装置を差し込む必要がある、乳房のキズを極力減らすため、わきの下や乳輪を小さく切開する手術が普及してきている日本の状況に合うかどうか」と光森氏は懐疑的だ。

(小板橋 律子)

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