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レポート

2009/3/10

自宅でがんを生きる

在宅緩和ケアを当たり前に受けられる仕組みを作りたい

 病院で「もうこれ以上は治療ができない」と言われ、残された時間を「自宅で家族と一緒に過ごしたい」と望んだら、どうすればいいのか。現在、がん対策基本法に基づくがん対策推進基本計画によって、都道府県ごとに在宅緩和ケアの体制作りが進められている。しかし、がん対策基本法ができるずっと以前、2001年という早い時期から、自宅で過ごすことを希望したがん患者が、在宅緩和ケアを円滑に受けられるように働き掛けてきた団体がある。NPO法人千葉・在宅ケア市民ネットワークピュア(千葉市)だ。



 NPO法人千葉・在宅ケア市民ネットワークピュアは、1)患者や家族への情報提供、2)行政からの委託事業による医療機関や看護・訪問サービスなど社会資源調査、3)ガイドブックの作成、4)一般への講演、5)専門職種の研修やボランティアの育成――などの活動を行い、がん患者の在宅緩和ケアをサポートしてきた。

 同会代表の藤田敦子氏は、「どこで最期のときを過ごすかを自由に決められるのは、人間としての当然の権利。家に帰りたいと思ったがん患者が、当たり前のように帰れる社会にしたい」と話す。原点は、自身の辛い経験にある。

亡き夫の最期の願いをかなえるためにNPOを設立

ピュア代表の藤田敦子氏

ピュア代表の藤田敦子氏

 ピュアの設立のきっかけは、藤田氏の夫のがんだ。残された時間がそう長くないと知ったとき、「自宅に戻り、夫婦二人で充実したときを過ごしたい」と思ったが、その願いはかなえられなかった。

 当時、藤田氏はなんとか在宅医療に関する情報を集めようと、市役所などに問い合わせたが、どこも「担当が違う」と言うだけ。満足した答えは得られなかった。「痛みが強かったので、痛みのケアをしてくれる医師の訪問診療が不可欠だった。でも、がん性疼痛の適切な除痛ができて、在宅での看取りの経験がある医師がどこにいるのかわからなかった。どうやって見付ければいいかもわからなかった」(藤田氏)。

 そのときの歯がゆさと、「最期の願いが叶えられなかった」という思いが、藤田氏を行動に移させた。その後、千葉市で在宅医療に取り組む服部義博医師(故人)と出会い、2001年に二人でピュアを設立。コンセプトに1)患者本位の医療間連携作りを働き掛け、継続したケアを地域で提供していくこと、2)患者家族に自助努力を強いないこと、3)相談・コーディネイト体制をつくること――を掲げた。

 「がん患者が家に帰りたいと思ったときに、家族が頑張らなくても実現できる社会を作ること。必要な手続きが行われ、スタッフが自動的に集められてスッと在宅に移行できるような社会の仕組みを作るのが、ピュアの夢」と藤田氏は語る。

経験者のアドバイスに勇気づけられる利用者
 最初に取り組んだのは電話相談。今も続いているが、患者家族から「食事がほとんど摂れない状態だが、家に連れて帰ることができるか」「痛みが強いがどうすれば家に連れて帰れるか」などの相談が寄せられる。

 ピュアは、そうした相談に「適切な在宅チームがあれば大丈夫」と励ましの言葉を送り続けている。本人の病状や家族の状況にもよるが、「ほとんどのケースは、本人と家族の『家に帰りたい』という強い気持ちと、適切なサポート体制さえあれば、在宅医療が可能だと思う」と藤田氏は家族に話すという。

 「医師が『延命治療はどうしますか』と聞いてきたが、どう答えていいかわからなかった」という質問もある。そんなときは、「最期のときにはどういう状態になるのか、その先生の言う『延命治療』はどういうものかをきちんと聞くことが大切」と藤田氏。「『私は素人だから、紙に書いて詳しく説明してほしい』と伝えると、丁寧に説明してもらえる」と、医師への質問の仕方のノウハウも伝える。

 ピュアの電話相談は、単なるアドバイスに留まらないのも特徴だ。必要に応じて在宅緩和ケアが可能な医師や訪問看護ステーションの紹介を行う。心の支えになることも大切だが、患者を自宅へ連れて帰るためには、より具体的な情報提供が必要だからだ。

 「目指したのは、在宅介護支援センターのがん版」と藤田氏。ケアマネージャーが在宅介護に必要なサービスをマネジメントするように、地域の医療・介護サービス機関を把握していて、家族に代わってコーディネイトすることで、家族には看護に専念してもらうのが理想だ。

 そうしたピュアの電話相談で励まされた人は多い。今年初めに自宅で父親を看取った女性は、「自宅で家族だけで看取ることができるのか、本当にこれでいいのか、という不安が常にあったが、ピュアの電話相談で勇気をもらって、最期まで頑張れた」と、ピュアの存在の大きさを話す。

仕組みを作るには行政との連携が不可欠
 電話相談を続けながら、ピュアでは一般市民向けに在宅緩和ケアを知ってもらうための情報誌の発行やフォーラムの開催、訪問看護師など専門職向けの在宅ケア公開講座など、在宅緩和ケアを広めるための活動を積極的に行ってきた。

 その中で、「常に行政との連携を意識していた」と言う。在宅緩和ケアを、誰もが受けられるようにするには、「社会的な仕組みにする必要があり、そのためには行政の力も必要」と考えていたからだ。

 行政との連携の最初は、2003年「千葉県在宅がん患者緩和ケア支援ネットワーク指針」の策定における意見提出だった。県とのつながりがほとんどない中で、半ば「直訴」のような形で意見を伝えた結果、県の指針に家族の負担の軽減など、患者や家族の視点を盛り込むことができた。

 その後、2004年に県からの委託で「千葉県在宅緩和ケアガイドブック」を作成。これは、県内の在宅サービスを記載したものだが、医療機関や訪問看護、居宅介護支援事業所、訪問介護、訪問入浴、短期入所施設など1400施設へのアンケートを行い、その情報を掲載した点に、県内外からの注目が集まった。

 例えば、医療機関や訪問看護ステーションなら、往診対応患者数、うちがん患者の数、在宅で看取った患者数、連携施設を記載。医療機関では、モルヒネ製剤の使用状況まで盛り込んだ。訪問診療を行う診療所の医師でも、がん緩和ケアに欠かせない医療用麻薬の使用経験が少ない医師や、在宅看取りの経験がない医師もいる。

 「きちんと在宅でがん患者を診てくれる医師や看護師はどこにいるのかという、患者や家族が本当に知りたい情報がほとんどない状況に一石を投じたかった」(藤田氏)。

 現在、その情報は千葉県看護協会の在宅緩和ケア情報Webサイトで見ることができる。

 その後もピュアは、これまでに培ったノウハウを提供する形で、行政との連携を深めている。委託として、一般住民を対象とした在宅緩和ケアに関するフォーラムや、医師や看護師など専門職種向けの在宅ケア公開講座を実施。行政からの依頼を受け、新たにボランティア養成講座も開始した。

家族の声が拾い上げ、社会を動かすきっかけに
 現在、がん対策基本法に基づく「がん対策推進基本計画」に則って、都道府県ごとにがん対策推進基本計画が策定されている。その中で、「在宅緩和ケア支援センター」の整備が挙げられている。これは、地域のサポート機関の情報を持ち、患者と家族の相談を受け、在宅緩和ケアをコーディネイトする機関だ。まさに藤田氏らが長年、電話相談を通じ実践し訴え続けてきたことが、公の機関で行われようとしている。

 「これまでピュアが行ってきたような相談業務が、在宅緩和ケア支援センターで行われるようになれば、より多くの人がサービスを受けられる。公の機関であれば、情報収集やコーディネイト業務もやりやすい。まさにピュアが長年描いてきた『全ての人が当然の権利として在宅緩和ケアが受けられる仕組み作り』という一つの夢がかなった」と、藤田氏は喜ぶ。

 しかし、これでピュアの役割が終わるわけではない。新しい試みとして、昨年ピュアでは在宅緩和ケアを経験した家族の声を聞く場を開催した。実際に経験者の声を届けることで、在宅緩和ケアを考えている人は参考になるし、現在経験している人は悩みを打ち明ける場にもなる。

 「患者や家族のニーズは一つではないし、行政にはできないこともある。それをやっていくのが市民団体の努め。今後も、患者家族の立場で声を挙げ、誰もが在宅緩和ケアを受けられる社会作りに貢献していきたい」と藤田氏は話している。

(ライター 坂井 恵)


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