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レポート

2009/2/24

ピロリ感染の診断・治療ガイドラインが改訂

早期胃がん術後にピロリ除菌を

 早期胃がんは、内視鏡的治療によりお腹を切らずに治る時代だ。ただし、早期胃がんの場合、治療後に最高で約1割の患者に再度、新しい胃がんが発生することが知られている。日本ヘリコバクター学会は、今年1月に早期胃がんの内視鏡的治療後に、ピロリ菌除菌を強く勧める新たなガイドラインを発表した。このガイドラインを元に、早期胃がん術後の対策をまとめた。



 「H.pylori感染の診断と治療のガイドライン2009改訂版」は、今年1月7日に発表された。同ガイドラインでは、早期胃がんに対する内視鏡的治療後にピロリ菌を除菌することが推奨されている。これは、ピロリ菌を除菌することで、新しい胃がん(異時性胃がん)の発症リスクが下げることが証明されたことを受けたものだ。

 胃がん患者の場合、胃全体が荒れているため、治療後に残った胃組織から新しく胃がんが発生しやすい。この異時性胃がんとは、がん組織の取り残しから生じる再発とは全く異なるもの。これまでに、早期胃がんの内視鏡的切除術後には、3年間で4〜10%程度に、異時性胃がんが出現するというデータが出されている。

北海道大学第3内科教授の浅香正博氏

北海道大学第3内科教授の浅香正博氏

 昨年8月、ピロリ除菌により、異時性胃がんの発症リスクが下がることが示された。これは、ヘリコバクター学会理事長で、北海道大学第3内科教授の浅香正博氏を責任研究者とし、国内の51施設が参加して実施されたランダム化比較試験の結果だ。国際的な医学雑誌であるLancet誌に発表され、注目を集めた。

 試験では、早期胃がんで内視鏡的切除術を受けたピロリ陽性の544人を、ピロリ除菌群と除菌しないコントロール群に分けて追跡し、異時性胃がんの発生を調べた。除菌には、ランソプラゾール30mg、アモキシシリン750mg、クラリスロマイシン200mgの3剤を使用し、それぞれ1日2回、1週間投与した。検査は上部消化管内視鏡を用い、6カ月、12カ月、24カ月、36カ月に実施した。

 3年間の経過観察の結果、除菌群では9人の患者に異時性胃がんが発生したのに対し、コントロール群では24人に発生。追跡不能者を除いた解析で、異時性胃がんの発症リスクは約3分の1となり、除菌により有意に発がんリスクが下がることが示された。

 「ただし、除菌後でも胃がんの発症リスクはゼロにはならない。このことを忘れず、定期的な内視鏡的検査を忘れないで欲しい」と浅香氏は強調する。除菌により胃がんの発症リスクは下がるが、そのリスクはピロリ菌非感染者に比べると依然として高いのだ。そのため、今回改訂されたガイドラインにおいても、「除菌後の定期観察は必要」と明記されている。浅香氏は、「内視鏡検査の間隔としては、1〜2年に一度を勧めたい」と語る。

胃がん後などの除菌に保険適用を要望中
 ガイドラインで除菌が推奨されたとはいえ、現在、保険診療として認められているのは、「胃潰瘍・十二指腸潰瘍におけるピロリ感染症」のみ。そのため学会は、ガイドラインの改訂と同時に、厚生労働省に対して保険の適用拡大を求める要望書を提出した。その要望書では、早期胃がん術後に加え、ピロリ除菌による治療効果が既に示されている胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病も対象に含まれている。

 「早ければ今年中にも、これら3疾患において保険が認められる可能性がある」と浅香氏は期待を語る。

 加えて、「これら3疾患の次は、萎縮性胃炎も保険の対象に入れるよう要望する計画」という。萎縮性胃炎は、胃がんのハイリスク因子であり、除菌することで萎縮の進展を予防できることが既に示されている。しかし、「日本人を対象とした研究の成果が日本語でのみ発表されていたため、厚生労働省にエビデンスとして認めてもらえなかった」と浅香氏は打ち明ける。英文論文を作成し、今年中には投稿する計画を立てているという。「論文が掲載された後に厚労省に要望書を出すため、萎縮性胃炎への除菌が保険で認められるのは、数年遅れになりそう」ということだ。

保険が認められるまでの対策
 胃がんの内視鏡的治療後のピロリ除菌は保険診療として認められていない。しかし、「内視鏡を入れることで胃潰瘍ができやすくなる」(浅香氏)ため、胃潰瘍が観察されれば保険の枠内で除菌が受けられる。その一方で、経過観察中に胃潰瘍が認められなければ、ピロリ除菌は保険診療としては認められない。

 この矛盾は、ピロリ除菌の対象に早期胃がん術後が含まれるまでは続く。「保険が認められるまでの間を埋める試み」(浅香氏)として、北海道大学病院は自由診療でピロリ菌の診断・除菌を行うピロリ菌外来を今年3月から開設する。ピロリ外来の料金設定は、診断までで約1万5000円、治療まで含めると3万円程度。

 しかし、予約の現状はというと、「料金設定が高すぎたのか、あまり入っていない。近所のクリニックに相談したら、もっと安く除菌できると言われているかもしれない」と浅香氏は苦笑する。医療機関によっては、胃潰瘍・十二指腸潰瘍がなくても、これらの病名を付けて保険診療として除菌を行っているところがあるのも事実なのだ。

 同じ胃がん術後でも保険で除菌できる患者とそうでない患者に分かれる。また、除菌に必要な費用が医療機関によって異なるなどの混乱は今後もしばらく続きそうだ。

(小板橋 律子)


●年々下がる除菌率、飲み忘れはありませんか?

 ピロリ菌の除菌成功率は年々低下している。2000年初には8割近い成功率であったものが、年を追うごとに低下し、2007年には7割に満たないというデータも発表されている。

 その理由として浅香氏は、「除菌に用いる抗生物質クラリスロマイシンに耐性を持つピロリ菌の増加。加えて、服薬指導がきっちりと行われていない例」を挙げる。除菌では、3剤(ランソプラゾール30mgもしくはオメプラゾール20mgもしくはラベプラゾール10mgとアモキシシリン750mg、クラリスロマイシン200mgもしくは400mg)を、それぞれ朝夕2回、1週間服用する必要がある。

 しかし、「2回続けて服薬を忘れた場合、まず、除菌は成功しない」と浅香氏。「にも関わらず、1カ月かけて飲めばいいと指導している医師も存在する」と困り顔だ。そのような場合、除菌は不成功、かつ、耐性菌を蔓延させることにもつながりかねない。除菌時には朝夕の服薬を守り、下痢などの副作用発現時に勝手に薬を減らさず、医師に相談することが重要。また、自分の受けた処方が、ガイドラインに沿っているかも確認しておきたいものだ。

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