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レポート

2009/1/13

【寄稿】パンキャンジャパン・大坂府立成人病センター訪問記

膵がん早期発見への道−検診システム開発の最前線を探る

 膵がん患者の80%が切除不能膵がんと診断される。これだけ画像診断が発達した今日でも早期発見は難しい。そのような状況のなか、我が国には膵がんの早期診断を目指し、検診システムを開発し、ハイリスク群をモニタリングして一定の成果をあげているグループがある。今回は、世界に先駆けて膵がん検診システムの研究開発を進めている大阪府立成人病センター検診部・検診部長の田中幸子氏を訪ねた。(寄稿:NPO法人パンキャンジャパン事務局長 眞島 喜幸)

大阪府立成人病センター

 難治がんの検診システムを研究開発することを使命として設立された大阪府立成人病センター検診部では、1998年より膵がん検診システムの開発に取り組んできた。膵がんに着手する前は、胃がん、大腸がん、肝がんの検診システムの研究開発を行ってきたと田中氏は語る。胃がんおよび大腸がんの検診システムは運用段階に入ったため、事業そのものが大阪がん予防検診センターへと移管された。大腸がんに続く難治がんは何かと探していた時、当時の総長豊島久真男氏からの勧めもあり、膵がん検診システムの開発に着手したと田中氏は説明する。

 難治がんの検診システムを研究開発することを使命として設立された大阪府立成人病センター検診部では、1998年より膵がん検診システムの開発に取り組んできた。膵がんに着手する前は、胃がん、大腸がん、肝がんの検診システムの研究開発を行ってきたと田中氏は語る。胃がんおよび大腸がんの検診システムは運用段階に入ったため、事業そのものが大阪がん予防検診センターへと移管された。大腸がんに続く難治がんは何かと探していた時、当時の総長豊島久真男氏からの勧めもあり、膵がん検診システムの開発に着手したと田中氏は説明する。

大阪府立成人病センター検診部・検診部長の田中幸子氏

 田中氏は、臨床医として以前から多くの膵がん患者を診ていた。検診システム開発において、まず、膵がんと診断された患者の診断2年前などの古い超音波検査の写真を集めてみたという。そこには膵がんは映っていなかったが、軽度の主膵管拡張が多くみられた。

 これをヒントに、大阪成人病センターに保管されていた1970年代からの超音波検査のうち膵がんと診断された患者のなかから、膵がん発病の数年以上前に超音波検査を受けた人のデータをさかのぼって検討した。その結果、統計的にも有意に膵管拡張から膵がんが発病していることが判明した。加えて、膵臓に嚢胞のある患者にも高い確率で膵がんが発現していることが認められた。これらの結果から、2.5mm以上の主膵管拡張、あるいは膵嚢胞がある場合をハイリスクグループとし、膵検診のプロトコール開発に着手した。

 様々な検討の末、開発されたプロトコールは、以下のようなものだ。

■検査プロトコール検査技師は、超音波検査の走査方向とチェックポイントなどを詳しく説明した膵抽出マニュアルに沿って検査を行う。・膵精密超音波検査・座位で飲用物を摂取。胃の背側の膵尾部まで観察・膵胆管のみ20分以上かけて検査・血液化学検査はCA19-9、CEA、T-Bilirubin、Glucose、Amylase、ALP、Elastase1などを含む

 膵臓は超音波検査では観察し難いとされている。また、通常の10分程度の腹部超音波検査では、肝臓、胆嚢、総胆管、膵臓、脾臓、腎臓など多くの臓器の病変を検査するため、たとえ膵臓の一部が見えなくとも検査が終了となる場合もある。そのため、開発したプロトコールでは、検査技師は一定の時間をかけて膵臓のみの検査をすることとなっている。また、膵臓を膵頭部、体部、体尾部、尾部の4つの部位に分けて精査し、あらかじめ撮る画像も決めている。そのため、撮りこぼしのリスクがないという。超音波検査の際はデンタルチェアのような椅子に深く腰掛けさせる。そのことにより、肝臓が下がり、また腹部の筋肉が弛緩され、膵臓の観察もしやすくなるという。また、特に超音波で検査が難しい胃の裏側にある膵尾部については、検査中、検診受診者にミルクティーを飲んでもらい、胃内のガスによる干渉をなくして描出するなどの工夫も行っている。

家族性膵がんを含むハイリスクグループのモニタリング
 成人病センターでは、3mm未満の主膵管軽度拡張、単発膵嚢胞など、ひとつの軽度異常が認められた患者をBグループ、3mm以上の主膵管拡張、膵病変、あるいはBグループの軽度異常が2つ以上認められた患者をAグループとし、リスクに応じて検診後の経過観察の内容を決めている。

■Aグループ対象
・主膵管軽度拡張(3mm以上)
・膵限局性病変(ただし、1cm未満の/高エコー像/石灰化像/単発単胞性嚢胞像を除く)
・Bグループの所見2項目以上
★指示・4カ月毎の膵経過観察

■Bグループ対象
・主膵管軽度拡張(2mm以上3mm未満)
・膵限局性病変(1cm未満の/高エコー像/石灰化像/単発単胞性嚢胞像)
・膵実質エコー粗・限局性膵腫大(3cm以上)
・総胆管拡張(11mm以上)(胆摘例は除く)
・ただし、2項目以上の異常、あるいは腫瘍マーカーなどが異常高値の場合は(Aグループ)とする
★指示・6カ月毎の膵経過観察

 例えば、Aグループの患者は、腹部超音波検査を年2回、磁気共鳴胆道膵管造影検査(MRCP)を年1回とし、約4カ月間隔で検査を受ける。超音波検査は被爆の心配もなく繰り返し検査ができるというメリットもある。また、4カ月という短い検査間隔にすることで腫瘍が増殖し切除不能進行膵がんとしてみつかるリスクを防ぐ目的もあるだろう。何らかの異常がみつかれば、膵液細胞診を含めた内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)や超音波内視鏡で観察しながらの穿刺生検を用いて確定診断を行う。

 この超音波検査を中心とする膵検診もすでに10年が経過し、膵管拡張と膵嚢胞が膵がんのハイリスク群であることがより鮮明になったという。2003年3月までの累積結果によると、受診者約2500人のうち、約450人(18%)に膵液細胞診などの精査が行われ、132人(5%)に膵がんが発見された。膵がんが発見された132人中、45人(34%)には切除が行われた。進行度分類では、Stage0が5人、Stage1が7人、Stage2が3人、Stage3が9人、Stage4aが17人、Stage4bが4人であった。132人中12人がStage0あるいはStage1と早期がんの頻度が著しく高かった。

 今後は、ハイリスクグループとして、膵嚢胞や主膵管拡張に加え、膵がんの家族歴についても検討していく予定という。

今後の課題
 今回、実際に膵検診を受けてみた。膵がん検診として普及している超音波内視鏡検査(EUS)と比較して体への負担もなく、しかも短時間に済むことから、患者のベネフィットは高いと感じた。また、超音波検査はMRIなどに比べてエネルギー消費量が格段に少なくエコノミカルであるとの説明もあった。検査技師によるとカラードプラによる血流評価がリアルタイムにでき、また、プローブの種類によっては3次元画像がとれること、また任意の角度での断層像が観察できるなどの多くの利点があげられた。

 この膵検診はハイリスクグループに特定して行われている。膵がんの80%が進行がんで診断されている現状をみると、膵がんを少しでも早く拾い上げる工夫が必要である。田中氏によると、膵がんの初発症状として最も多いのは上腹部痛であるが、胃の疾患の頻度が高いこともあり、上部消化管検査が行われることが多いという。そのため、胃炎などの診断のもとに数カ月間治療を受けた後、症状の悪化を訴えて受診し進行膵がんが見つかるケースも少なくないという。上腹部痛に対しては胃と同様、膵臓も積極的に超音波検査で調べることで、早い段階で膵がんが見つかる可能性がでてくる。患者からの「私の膵臓は大丈夫ですか」という呼びかけも必要と説く専門医もいる。

 関西地区では膵検診の講習をうけた検査技師も多いことから膵臓を検査する施設に広がりがみえてきているという。膵臓がんは無症状のまま進行することが多いため、特にハイリスクとされている人はこの膵検診を受け、Stage0やStage1の微小膵がんの段階で診断されることが重要である。日本全国の膵臓がん専門病院において、この膵検診・モニタリングプロトコールが導入されることが望まれるが、そのためには患者・家族、医療従事者、学会、研究者などの横断的な情報共有と協力がいま求められている。

【参考文献】
田中幸子、中原明彦、井岡達也、高倉玲奈、石田哲士
超音波像からみた膵癌のリスクファクター 肝胆膵,Vol.48,No.5,2004
田中幸子
超音波像による膵癌早期診断のための定期検診 膵臓,Vol.19,No.6,2004

【関連サイト】
大坂府立成人病センター
膵臓がん予備軍超音波で判別
膵癌の診断:超音波診断
田中幸子氏プロフィール

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