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レポート

2008/12/16

検診ガイドライン素案から分かること

受ける目的次第で子宮頸がん検診の内容も使い分けの時代に

 子宮頸がんの原因となる「ヒトパピローマウイルス(HPV)の検査は公費を使った検診(対策型検診)として実施することは勧められない」とする子宮頸がん検診ガイドラインの素案(ドラフト)が発表され、公開フォーラムが、12月8日に開催された。子宮頸がん検診の目的を振り返りつつ、今回発表された素案の内容を分析してみたい。



 今回発表されたのは「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン」の素案だ。厚生労働省がん研究助成金を受けた「がん検診の適切な方法とその評価法の確立に関する研究」班が取りまとめ、12月8日に公開フォーラムを開催した。

 同研究班は、これまでにも胃がん、大腸がん、前立腺がんなどで、検診を受けた集団の死亡率が減少するかどうかを指標としてガイドラインをまとめてきている。前立腺がんのガイドラインにおいては、PSA検診は公費を用いた検診として勧められないという結論を出し、日本泌尿器科学会の猛反発にあった経緯もある(文末に関連記事リンク)。

 今回の子宮頸がん検診のガイドラインにおいても、これまで同様の手法で素案が作成された。

 その結果、子宮頸部の細胞を医師が採取して細胞の状態を検査する細胞診(従来法、液状検体法ともに)は、「子宮頸がんの死亡率減少効果を示す相応な証拠がある」とされた。そのため、公費を投入した公共的な予防対策として行うことが勧められるとされた。

 従来法とは、採取した細胞をスライドグラスに塗布して固定したうえで観察する手法、液状検体法とは、採取した細胞を専用の保存液に回収し、専用装置でスライドガラスに塗布したうえで観察する方法を指す。

 細胞診は、子宮頸がん検診として長い歴史を持つ検査法だ。同フォーラム参加者から、この結論に対する反論は出なかった。

 一方、子宮頸がんの原因と考えられているHPV検査(単独、細胞診との併用ともに)に関して同ドラフトは、「死亡率減少効果の有無を判断する証拠が不十分であるため、公共的な予防対策として実施することは勧められない」とした。また、個人が自分のお金で受ける人間ドックなど(任意型検診)として実施する場合には、「効果が不明であることと不利益について適切に説明する必要がある」とした。

 このHPV検査に対する結論に対して、産婦人科医からは、「将来性のある検査法を否定しているように捉えられる」との批判が相次いだ。

 ただし、研究班は、検査法の将来性を否定している訳ではなく、同ドラフト内でも、「HPV検査は子宮頸がんの病因からのアプローチという観点で新たな検診として期待される」と明記している。研究の進展は何ら拒むものではないというのが研究班の結論だ。同研究班の班長を務める国立がんセンターがん予防・検診研究センターの濱島ちさと氏は、「誤解を招きやすい表現もあったと認識したので、表現を再考し、ドラフト第2版を作成したい」と語った。

HPV検査で何が分かるか?
 では、HPV検査の将来性とは何だろう。HPV検査を受けることで女性は何を知ることができるのだろうか。

 何と言っても、病気の原因ウイルスに感染しているか否かを知ることができる点は細胞診では代替できない点だ。

 ただし、この点は注意が必要でもある。HPV感染有りは、イコール子宮頸がん、もしくは子宮頸がんになることを意味しないためだ。HPVは非常にありふれたウイルスであり、性経験のある女性であれば皆人生のなかで一度は感染するといわれている。感染しても大半の女性は、HPVを自然に体から排除することができるが、HPV感染が持続したほんの一部の女性において、がんが発生するのだ。

 そのため、HPV検査でHPV感染が認められても、細胞診で異常がなければ、通常のスケジュールで次回の検診を受ければよい。細胞診の異常さえなければ、感染していても心配は無用なのだ。

 一方、HPV感染がなく細胞診でも異常がない女性は、子宮頸がんの原因を持っていないということになる。そのため、HPV検査の導入をいち早く推奨している米国がん協会(ACS)などは、そのような場合に限り、子宮頸がん検診の間隔を延長できるとしている。日本では、20歳以上の女性に2年に一度の検診を推奨しているが、HPV検査を活用することで、検診間隔をそれより長くできる可能性があるということになる。

 癌研有明病院細胞診断部部長兼婦人科副部長の平井康夫氏は、細胞診とHPV検査の両者で異常が見られない場合、「検診頻度を欧米並の3年に1回に延長しても問題ないでしょう」と語っている。実際、癌研有明病院健診センターは、子宮頸がん検診として細胞診とHPV検査の併用をいち早く開始している。

子宮頸がんの発症プロセス
 ここで、子宮頸がん(扁平上皮がん)の発症プロセスをおさらいしてみよう。まず、子宮頸部にHPVが感染し、HPVの遺伝子が子宮頸部の細胞のなかに取り込まれること(持続感染)で、がんが生じてくる。ただし、がんが生じるまでには、10年程度の時間を要し、軽度異形成(CIN1)→中等度異形成(CIN2)→高度異形成もしくは上皮内がん(CIN3)を経て、浸潤がんへと進行していく。浸潤がんの前段階で発見・治療することでがんの発症そのものを予防できるという特徴がある。

 ただし、CIN1から上皮内がんへの移行は10年間の累積で2.8%(95%信頼区間 2.5-3.1)、CIN2からは10.3%(95%信頼区間 9.4-11.2)、高度異形成から上皮内がんへの移行は20.7%(95%信頼区間 17.0-24.3)。CIN1の大半、CIN2でも約9割が、それ以上の異形成に進行しなかったり、逆に自然治癒する可能性がある。

 CIN1、CIN2はその多くが進行しないもしくは自然治癒する可能性があるため、前がん病変といっても、CIN3になるまでは経過観察とし、CIN3となった時点で治療を行うことが、日本では多いようだ。そのため、今回の素案は、検診の精度として、CIN3以上の検出精度を評価している。

 また、前がん病変の一部は自然治癒するため、本来であれば自然治癒する前がん病変を発見し、検査や治療の対象とすることを過剰診療とし、“検診の不利益”としている。

自分のニーズで検診も使い分け
 フォーラムに参加した産婦人科医から、「近年、CIN2の段階で治療を行うことが増えている。早めに治療することで切除範囲が小さく、円錐切除後に問題となる早産・流産のリスク上昇も起こらない」との発言があった。検診の精度評価の大前提の再考が必要ではないかという指摘だ。

 前提を再考し、CIN2を検診の検出精度として評価に入れるとすると、推奨の結論が変わる可能性が出てくる。CIN1、CIN2の段階における検査の感度は、細胞診に比べてHPV検査が高いためだ。ただし、HPV検査では、CIN1、CIN2と誤診する比率が高い(陽性反応的中率が低い)ことも、今回のドラフトに明記されており注意が必要ではある。

 子宮頸がんは、20代、30代の若年層の発症数が増加してきていることが問題となっている。出産年齢が上昇していることから、出産前に子宮頸がんが発症することは稀なことではない。

 子宮頸がんは、前がん病変で発見できれば、例えそれが不要な治療である可能性があったとしても、体への負担が少ない最小限の治療で完治できる。子宮頸がんによって子宮を失ったり、命の危険にさらされるというリスクは回避できるのだ。その一方で、がんが発症した後には、子宮全摘が必要となり、子どもが産めないだけでなく、排尿障害やリンパ浮腫などの、手術による後遺症が一生付いてくる可能性がある。若年で発症し、その後の人生が長いからこそ、妊孕性に加え、治療後のQOLは女性にとって大きな問題だ。

 今回のフォーラムで指定発言を行った、東北大学医学部産婦人科の伊藤潔氏は、「妊孕性、女性のQOLという視点が(今回のドラフトには)入っておらず、死亡率減少効果のみを指標にしたガイドラインでよいのだろうか」と指摘した。

 濱島氏率いる研究班は、集団の死亡率を減らす効果があるもののみを公共施策として行うがん検診とすべきと主張し、各種ガイドラインを作成してきている。そのため、子宮頸がんのみにおいて、妊孕性や術後のQOLを考慮したガイドラインとすることは、他のガイドラインとの整合性としても難しそうだ。

 また濱島氏は、「研究班の予算が今年度で終わる予定のため、ドラフトの第2版を遅くとも来年3月末までにまとめる必要がある」と語っており、ドラフトの大幅な見直しは、スケジュール的にも無理がある。とはいえ、ガイドラインが作成された後の「見直しは5年先」(濱島氏)。

 このような状況で、今後、重要となるのは、自分のニーズに合わせた検診内容の選別かもしれない。

 好奇心からHPVの感染状況を知りたい女性もいるだろう。がんに進展する芽を摘めるのであれば、過剰な治療に結びつく可能性があっても早めに治療を受けたいと希望する女性もいるのではないだろうか。

 そのような場合には、自分のお金を使って人間ドックなどでHPV検査を併用した子宮頸がん検診を受けるという選択肢は残っている。今回のドラフトは、その点を否定するものではないのだ。

 医療も個別化の時代。新しい検診技術に関しても、各自の価値観と目的に合わせて選択する時代に入っているのかもしれない。

(小板橋 律子)

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