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レポート

2008/11/11

【寄稿】パンキャンジャパン・アメリカ訪問記−その2 

膵がん研究の最前線から見えてきた膵がん発症のメカニズム

 膵がん診療で世界をリードするJohns Hopkins病院。一方、教育・研究機関であるJohns Hopkins大学は膵がんの研究で世界を牽引している。同大学内にある全米家族性膵がん登録制度のオフィスを訪問し、膵がんの発症に関わる遺伝子研究の最前線を垣間見た。(寄稿:NPO法人パンキャンジャパン事務局長 眞島 喜幸)

David Kochがん研究施設(David H Koch Cancer Research Building)

 全米家族性膵がん登録制度(National Familial Pancreatic Tumor Registry;NFPTR)は、膵がんの発症メカニズムの解明、また、特定の家系に膵がんが発症する理由を解明することを目的として1994年にJohns Hopkins大学内に設立された。NFPTRのオフィスは、David Kochがん研究施設(David H Koch Cancer Research Building)内にある。同オフィスに在籍し、膵がんの遺伝子研究を続けるスコットカーン氏(Scott Kern)を訪ねた。

NFPTRには2400以上の家族が登録
 NFPTRへの登録の条件は、家族内に膵がん患者がいること。これまで、NFPTRには2400以上の家族が登録され、定期的に検診を受けフォローされている。登録された家族のなかから、これまでに53人に膵がんが発見され、治療されている。

 なぜ登録する家族が増えているかと、カーン氏に聞いてみたところ、「膵がんの発病リスクが科学的に推定できるようになってきていること、早期発見につながる診断方法があること、早期に発見し治療すれば根治できること」などが理由として挙げられた。

 アイスランドの68万7000人を対象とした前向き(プロスペクティブ)な研究によれば、第一近親者に膵がん罹患者がいる場合、その人が膵がんになるリスクは2.3倍とされた。Johns Hopkins大学の研究によれば、膵がん患者の5〜10%は家族性の傾向があるという。NFPTRに登録された人達から集められた情報は、膵がんの発症メカニズムの解明に役立ち、かつ早期発見、より効果的な治療法の開発につながると期待される。

スコットカーン氏 (Scott Kern)

 「膵がんの外科療法は成績も向上し、転移が無く、大きさが20mm以下の段階で膵がんがみつかれば5年生存率は50%以上のところまできている。しかし、ステージ1や2の早い段階でみつかるケースは少ないのが現実。実験的ではあるが、NFPTRに登録された家族は、定期的なフォローを受けるので、無症状の段階でもがんはみつかるため、早期診断・早期治療につながる」とカーン氏は語る。

 また、「家族性膵がんが疑われる患者の18%にBRCA2遺伝子に異常がみられることも明らかになってきている。そのため、膵がんのリスクについても説明できるようになった。家族性膵がんの疑いのある人はNFPTRに登録して欲しい」とカーン氏。(著者注:BRCA1/2遺伝子異常は家族性乳がん・卵巣がんにもみられる)

 膵がんは基本的には遺伝子の病気で、がん関連遺伝子の先天的または後天的な変異が原因で起きると考えられている。研究を通して既に先天的に変異した、あるいは後天的に変異した遺伝子も多数発見されている。膵がんの発症との関連が明らかになってきている遺伝子とは、p16がん抑制遺伝子、KRASがん遺伝子、p53、DPC4などだ。

剖検プログラムから分かってきたこと
 クリスティードナヒュー氏(Christine Donahue)に病気の進展メカニズムについて伺った。ドナヒュー氏は、2003年から開始されたGastrointestinal Cancer Rapid Medical Donation Program(GICRMDP)というプログラムを進めている。同プログラムは、生前の同意の下、惜しくも膵がんで亡くなった患者さんから膵がん組織を採取し、研究に利用するというもの。

 「今まで膵がんの病態については、手術時に採取されるサンプルから得た知識がほとんどだった。これに対して、GICRMDPの研究を通してわかったことは、膵がんには2種類のタイプがあること」とドナヒュー氏は語る。

クリスチーン・イアコブジオ・ドナヒュー氏(Christine Iacobuzio Donahue)

 1つのタイプは100から1000の転移が認められる「転移タイプ(Metastatic Type)」で、もう1つは、転移数は10以下の「局所破壊型(Locally Destructive Type)」という。「このように膵がんのタイプが同定できれば、タイプに適した治療法の開発も進む」とドナヒュー氏は説明した。

 またドナヒュー氏は、全国家族性膵がん登録制度(NFPTR)に関して、「現段階では膵がん検診が、費用対効果も含めてその人のためになるか否かは、家族歴が適用判断材料となっている」と語る。すなわち、家族歴などのリスク因子がある場合のみ膵がん検診が勧められているのが現状だ。家族歴のある個人の遺伝子研究は、膵がんの発症メカニズムの解明、またより有効な検診方法の確立などに大きく貢献すると期待される。

 ドナヒュー氏は、「今後、より多くの膵がん家族歴のある方々にNFPTRに登録してもらい、膵がんの発症に関与する遺伝子を特定し、早期発見、治療法の開発につなげたい」と結んだ。

 家族性膵がん登録制度のオフィスを訪問し、日本の膵がん患者の家族も自分の膵がん発病リスクを知り、適切なフォローアップを受けることで膵がんを早期発見できる可能性があることを知った。これからは各個人の膵がん発病リスクを統計的なリスク予知モデルによって算定し、リスクに合わせた検診を受け、加えて、ライフスタイルを改善することで膵がんを予防できる時代が来るのかもしれない。

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