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レポート

2008/9/30

学会の一部として存在するESMO患者セミナー

がん医療は医療者と患者の共同作業

 第33回欧州臨床腫瘍学会(European Society of Medical Oncology:ESMO)が2008年9月12日から16日の5日間、スウェーデンのストックホルムで開催され、世界各国から1万1651人が参加した。ESMOには、世界でもトップクラスの専門医と患者が情報と意見を直接交換できる場として、毎年患者セミナーが組み込まれている。今年で7回目を迎えたこのセミナーの目的は、全てのがん患者が最新の情報を得て、主治医との対話をより実り多いものにすること。がん医療で最も重要な部分を占める「情報」の視点から、このセミナーを紹介する。



 今回のセミナーは1日半にわたって行われ、各国からの参加者に配慮し、ESMOの共通の言語である英語に加えスウェーデン語とイタリア語の同時通訳が入った。

写真1:Ulrik Ringborg氏
写真1:Ulrik Ringborg氏

 今年のESMOの開催国、スウェーデンの人口は約900万人。がん対策先進国のスウェーデンでは、毎年新たに5万人ががんの診断を受けるが、国際的な比較では生存率と死亡率は良好な成績を収める。Karolinska Institute、Cancer Center Karolinskaの教授Ulrik Ringborg氏(写真1)は、「がん医療では情報を共有し、医療者と患者が同調してこそ最大限の効果が得られる」と強調した。

 スウェーデンでは1974年にNational Board of Health and Welfareの提唱により、がん医療の再編成が行われた。具体的には、臨床ガイドラインの作成、発生率が多いがんに対するプライマリケアとフォローアップ体制の整備、地域ごとのがん患者登録である。さらに、子宮頸部がんと乳がんを中心に早期発見のプログラムも作成した。がんの研究については国内の6大学を中心に力を注いでいる。

 その結果、1985年頃よりがん生存者が徐々に増加し、死亡率は15年間で6%減少した。同氏はがん医療の再編成を通して「医療者が患者さんのニーズを学ぶことができた」と話す。最先端医療だけでなく、社会心理学的なケア、リハビリテーション、対症療法、緩和ケアなどについても、患者のニーズは多い。医療者が患者から正確な情報を得て、治療に反映させため直接的・間接的に治療成績の改善につながった。

 現在、スウェーデンのがんの有病率は毎年3%、発症率は1%ずつ上昇している。がん生存者は今後も増加するとみられ、Ringborg氏は「がんは今では主な慢性疾患の1つになった」と位置づける。今後の課題は、増加するがん経験者(サバイバー)への対応、再発がんの治療、上昇する医療費への対策、新薬の取り扱い、腫瘍学・病理学・画像診断の分野における専門家の不足解消が挙げられた。

乳がん患者には同じ経験をした仲間との対話が必要

写真2:Ingrid Kossler氏
写真2:Ingrid Kossler氏

 スウェーデンの各患者会の代表者は、活動状況と各会へのアクセスの方法を説明した。スウェーデンでは患者会は各部位別で1つにまとまっていて、国内の各地域に支部が分散する。そのため、統一された情報の提供が可能で、国内の患者の生存率の変化なども把握しやすい。非営利組織である患者会は政府から財政的な支援を受け、同時に研究機関への寄付も行うが、その分配がスムーズという利点もある。これらの点は、1つのがん種に対し複数の患者会が独立して存在する日本の状況とは異なる。

 セッションの座長も務めた乳がん患者会(Swedish Breast Cancer Association:BRO)のIngrid Kossler氏(写真2)は10年前に乳がんに罹患した。スウェーデンの乳がん患者の5年生存率は、ステージにもよるが約90%と高い。それでもスウェーデンでは6時間に1人、欧州では6分に1人が死亡していることから、早期発見と適切な治療は重要と同氏は訴えた。さらにKossler氏は、「がん患者は、家族であっても完全には理解できない身体的・精神的な苦痛を経験する。同じ経験をした仲間との対話や情報が必要で、乳がん患者会のメンバーはそのための専門的な教育も受けている」と話している。

骨髄腫で長男を亡くして

写真3:Anita Waldmann氏
写真3:Anita Waldmann氏

 ベルギーに本拠地を置く骨髄腫の患者会Myeloma Euronet(ME)のAnita Waldmann氏(写真3)によると、MEは欧州19カ国の30の支部から構成され、早期診断のための疾患の啓発、情報提供、支援などを活動の柱としている。多くの患者と家族が情報を得られるよう、同会のウエブサイトや出版物は英語やフランス語など、10以上の言語に翻訳されている。

 Waldmann氏は成人した長男を骨髄腫で失った。発症当時、プライマリケアフィジシャンでは診断ができず、別の医療機関で診断がついた時には治癒は望めない状態に進行していた。「自分が疾患の知識を持っていたら」「必要な情報をもっと早く集められていたら」という思いから患者会の活動に参加し、現在では会長を務める。

インターネットで情報を効率的に入手
 イタリアIRCCS San Matteo University Hospital FoundationのCamillo Porta氏は「新しい薬には新しい毒性がある」と話している。

 がん治療に欠かせない薬の1つとなった分子標的薬には、従来の薬品には認められなかった新しい副作用がある。例えばスニチニブやソラフェニブの副作用「手足症候群(皮膚疾患)」では、掌や踵などを中心に皮膚の変色や腫れ、水泡が発生し、進行すると強い痛みを伴うが、皮膚症状のため、副作用に関する知識があれば患者や家族が早く気がつくことができる。対処が早ければこの副作用による苦痛は少なくて済むが、知らなければ皮膚科に行ってしまい治療を困難なものにする。また、血管新生阻害剤を脳転移のある患者に使う場合には、脳内出血のリスクがあることを知った上で治療のベネフィットとの天秤に掛ける必要もある。

 情報提供に大きな役割を果たしているのがインターネットの普及であることは言うまでもない。新薬を開発した製薬会社のサイトには、一般市民を対象とした薬の副作用情報などが掲載されている。また、本学会の記者会見では、Bayer Healthcare Pharmaceuticals社が肝がん啓発のためのサイト「Living with Liver Cancer(LWLC)」を立ち上げたと発表した。このようなサイトも上手に利用したい。

各分野の最新情報を紹介
 各分野のがんの最新情報は、それぞれの分野の専門医が詳しく説明した。

 乳がんについてはドイツTechnischen Universitat Munchenの教授Nadia Harbeck氏が解説し、局所に限定した早期乳がんと、遠隔転移を伴う進行性乳がんのそれぞれの発生機序と治療について、治療指針の代表で隔年に開催されるSt. Gallen(ザンクトガレン)コンセンサス会議や、今年の米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology:ASCO)の情報を交えながら説明した。

 このような患者セミナーは大変重要と話すHarbeck氏は、その理由を「自分の疾患を理解している患者さんだけが、その治療を受ける必要性を理解できるため」と説明する。

 どんな治療法や薬にも、利点と欠点、有効性と安全性の問題は存在する。患者が正確な情報を十分に入手し、自分のがんの性質や治療の選択肢を理解したうえで、医師との面談を行えば、患者は納得したうえで治療を選択できる。また、医師側は、患者の積極的な協力のもと治療を進めやすくもなる。そのため、医療者は情報を提供する努力を惜しまない。ESMO患者セミナーを通して、このような本来あるべき姿に欧州の医療が向かっていることがうかがえた。

(森下 紀代美=医学ライター)

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