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レポート

2008/9/9

地元のがん対策は「私が変える」

宮城、奈良、大阪、滋賀、東京……の患者リーダーたち

 今、がん対策の焦点は、「都道府県がん対策推進計画(以下、県計画)」をどのように実践していくか、に移っている。そこで活躍しているのが、各地の県計画の策定に加わった「都道府県がん対策推進協議会」の患者代表委員(患者、家族、遺族などの立場から参画)たちだ。
 県議会に働きかけて県の予算増に結びつける、県計画の内容を大きく進展させるなど、成果を出している人々が出現している。こうした地域のリーダーたちから、5人の活動例をご紹介する。(寄稿:日本医療政策機構 がん政策情報センター センター長 埴岡 健一)



 「宮城県がん対策推進計画」を策定した「宮城県がん対策推進協議会」の委員である郷内淳子さん。卵巣がんの経験者で、患者会「カトレアの森」の代表でもある。今年5月24日、「宮城にあったらいいな、がん療養サポート」と題したシンポジウムを仙台市内で開催した。

 この日は、患者関係者100人余りと共に、地元の国会議員1人、宮城県議員5人、仙台市議会議員1人が参加。宮城県のがん対策や全国のがん政策の好事例などを勉強し、宮城県の対策にまだ不十分な点がたくさんあることを学習した。

写真1:「宮城にあったらいいな、がん療養サポート」で、参加した政治家と関係者で記念撮影。右端が郷内淳子さん、左から4番目が筆者。

写真1:「宮城にあったらいいな、がん療養サポート」で、参加した政治家と関係者で記念撮影。右端が郷内淳子さん、左から4番目が筆者。

 会場では、参加した議員たち全員も順番に発言。「宮城県のがん対策はそれなりにやっているのかと思っていたが、まだまだ力の入れ方が足りないことが分かった」「他の県ではがん対策条例を策定して取り組んでいるところがあることを知った。宮城県でも条例があっていいのではないか」「近く招集される県議会で、宮城県がん対策推進計画がきっちりと進められることをフォローする特別委員会を設置するのがいい」など、がん対策の優先度を高めるべきとの意見が相次いだ。この場で、党派を超えた議員たちによって、宮城県議会においてがん対策を強化することが合意された(写真1)。

 実際に7月2日には、宮城県議会に「がん及び地域医療対策調査特別委員会」が設置され、現在、議会での審議が続いている。委員会設置のきっかけを作った郷内さんも9月17日に参考人として議会に出席し意見陳述を行うことになっている。「がんの死亡を減らし、患者や家族の不安を取り除くという目標のために、効果がある対策を実行するように」と要望する。特別委員会の設置は、県のがん対策に関する来年度予算の増額に結びつく公算が強い。また、宮城県がん対策条例の設置につながる可能性もある。

奈良では、患者の意見約200件を提出し、県庁も歓迎
 奈良県は、県計画が未策定の3県のうちのひとつ。出遅れを挽回するために地元の活動が活発化している。

図1:奈良県のがん診療体制は十分か?、図2:奈良県のがん対策は十分か?(有効回答83人)

 「奈良県がん対策推進計画」の策定を進めている「奈良県がん対策推進協議会(奈良県地域医療等対策協議会がん対策ワーキンググループ)」には、患者代表委員として、乳がん患者団体である「あけぼの奈良」代表の吉岡敏子さんと、「奈良県ホスピス勉強会」会長の馬詰真一郎さんが参加している。2人は2団体の主催で、8月3日に市民公開シンポジウム「奈良県のがん医療を考える会」を開催した。

 会場には約130人の参加があった。また、国会議員の高市早苗氏、鍵田忠兵衛氏、前川清成氏、中村哲治氏、前田武志氏、奈良県議会の畭真夕美氏、小泉米造氏、奈良市会議員の大橋雪子氏も来場、各人が奈良県のがん対策強化についての決意を語った。

 会場では、奈良県のがん対策に関するアンケートも実施され、84人から回答があった。「奈良県のがん診療体制は十分か」の設問に、十分とした人はわずかだった(図1)。また、「奈良県のがん対策は十分か」との問いに、十分とした人の比率も低かった(図2)。一方、がん対策で重要と考える分野に関しては、緩和ケア、医療従事者の育成、患者支援と相談・情報提供体制の整備などが挙げられた(表1)。

表1:「奈良県のがん対策でもっとも重要であるテーマ」への回答

 アンケート結果は8月11日、奈良県で強化してほしい対策として自由記述欄に書かれた合計185件の意見と共に、奈良県庁のがん対策担当部署に提出された。奈良県福祉部健康安全局地域医療連携課の武末文男課長は、「これほど多くのご意見があるとは驚いた。しっかりと受け止めていきたい」と語った。現在、策定作業中の「奈良県がん対策推進計画」の内容にも反映されることだろう。

大阪ではパブコメの数が日本一に
 大阪府では8つのがん患者団体が結集し「大阪がん医療の向上をめざす会(以下、めざす会)」を形成している。「大阪府がん対策推進協議会」に、濱本満紀さん、河野一子さんを、その部会に片山環さん、西村愼太郎さんをメンバーに送り込んでいる。

 大阪府は、大阪府がん対策推進計画案に関して府民の意見を聞くパブリックコメント(意見募集)を、6月25日から7月24日に実施した。めざす会はそれにタイミングを合わせ、6月29日、「大阪府がん対策推進計画勉強会:大阪がん対策にあなたの願いを」を開催した。

表2:パブリックコメントが多かった県・少なかった県

 まず、大阪のがんの現況を学んだ後、数十人の参加者が7つのグループに分かれて「大阪府のがん計画に盛り込むべきこと」に関して意見交換を行った。各グループには、めざす会のメンバーが1人ずつサポートに入り、議論を記録し意見集約を支援した。そして、全グループが順番に話し合った内容を発表した。また、参加者には大阪府へのパブリックコメントの提出用紙が配布され、記入の仕方も説明された。さらに、この様子はNHKテレビや新聞でも報道された。

 濱本さんは、「府民が、がん対策に興味を持ち、行政に意見を届けることで、大阪のがん対策が府民にもっと分かりやすいものになればいいと考えた」と語る。こうした取り組みの効果もあり、大阪府のがん計画へのパブリックコメント数は240件に上った。これは表2に見るように、全国最多である。大阪府のがん計画の内容は、財政難もあって前向きな内容があまり盛り込まれていないが、府民の関心の高まりが今後への期待を抱かせる。

滋賀県では、素案の内容が大きく前進
 滋賀県も、まだがん計画が策定できていない3県のひとつ。しかし、すでに策定済の計画から意欲的に学び、「策定が遅れた分、良い計画を作ろう」という機運が高まっている。滋賀県のがん対策推進協議会には、池田美奈子さん、菊井津多子さん、末松智子さんの3人(50音順)が患者・家族・遺族の立場から委員に参加している。

 滋賀県では、7月29日の協議会で示された第1次素案から8月19日の協議会に提出された第2次素案の間に、大きな進展が見られた。これは、この3人が連名で素案の内容改善に関する意見書を提出したことが大きな要因となっている。

 意見書を反映して、当初の案にはなかった(1)すべての拠点病院で患者サロンを設置 (2) ピアサポートが行える相談員の養成(各圏域に2名以上) (3)がんに関するホームページを県庁が整備 (4)滋賀県版がん患者手帳の作成促進 (5)インフォームドコンセントの実態に関する調査の実施 (6)すべての拠点病院に緩和ケア外来の設置 (7)喫煙率の半減 (8)がん計画に関する中間評価の実施――などが、新しい素案には追加されていたのだ。

 菊井さんは「限られた時間・議論の中では患者委員が声を合わせて、文書によって意見を提出する手法が有効だということが分かった」と語る。

「東京都女性のがん対策委員会」がスタート
 「東京都がん対策推進協議会」委員の内田絵子さん(患者団体・ブーゲンビリア代表)は、7月13日「東京都女性がんシンポジウム」を開催した。東京都のがん計画は、内田さんが望む内容にはほど遠かったが、対策の実践面において挽回したいという内田さんの信念が表れたイベントだった。

 東京都のがん死亡率が全都道府県でワースト5位であること、乳がんの死亡者数が全国で最も多いことなどに、注意喚起を行った。また、東京のがん死亡率が全国平均並みであれば、毎年女性330人が死亡しなくても済むはずだという試算を紹介し、対策強化の重要性を訴えた。

写真2:「東京都女性がんシンポジウム」に参加した各党の政治家と東京都のがん対策強化を誓う(左から3番目が内田絵子さん)

写真2:「東京都女性がんシンポジウム」に参加した各党の政治家と東京都のがん対策強化を誓う(左から3番目が内田絵子さん)

 この会には国会議員、都議会議員、市議会議員などの政治家も多数参加し、順に意見を述べた。参加した国会議員らと内田さんは、がん対策への取り組みを強めることを誓い合っていた(写真2)

 このイベントをきっかけに、「東京都女性のがん対策委員会」が発足した。患者会、超党派の国会議員、有識者らを委員とし、東京都内の医療関係者がアドバイザーとなり、東京都の女性のがんの死亡を減らすためにより実効性の高い対策を打つ方策を考えていく。9月5日には東京都庁のがん対策担当者と意見交換会が持たれた。

 これまで紹介してきたのは、都道府県のがん対策推進協議会の患者委員として活躍している方々のごく一部。それ以外の地域でも、同様の取り組みをしている人が続々と登場してきている。たとえば、千葉県の委員である齋藤とし子さんは、9月14日に開催される「千葉県がん患者大集合2008」の実行委員長を務めている。山梨県の委員である若尾直子さんは、「山梨がんフォーラム」を9月21日に開催する。

 本稿に登場した患者委員たちの活躍を目の当たりにすると、各地のがん対策の活性化に関して、地元のがん患者委員がキーパーソンとなるのは間違いなさそうだ。日本医療政策機構・がん政策情報センターでは、各地の患者委員をはじめとしたがん対策に取り組む方々のために、講演、調査、アドバイス、会議のコーディネーターなどを行っている。また、9月27〜28日には、全国のがん患者委員が集まって情報交換をする「がん政策サミット2008」を、東京において開催する。

 いま、がん患者委員の活躍をさらに高めつつ全国に広めることが、日本のがん医療を向上させる決め手の一つであると考えられる。また、それを行政、医療界、民間などが後押ししていくことも重要だろう。

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