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レポート

2008/8/19

がん専門医が、がんになって

家族とともに生きる在宅医療の大切さを痛感

ホームケアクリニック川越 川越厚氏

 日本で在宅ホスピスケアが注目を集め始めた1990年代初頭から、在宅ケアに取り組んできたホームケアクリニック川越院長の川越厚氏。川越氏は、がん治療の専門医として第一線で活躍中にがんに罹った経験を持つ。病気をキッカケに自分にとって何が大切かを見つめ直し、家族の大切さ、家族とともに生きられる在宅医療の重要性を痛感したという。その後、約20年間、在宅ケア一筋に取り組んでいる。


 2008年7月12日から13日の2日間、第16回「日本ホスピス・在宅ケア研究会 全国大会 in 千葉」が幕張で開催された。今回のメインテーマは「地域コミュニティの場でのホスピスケアを」。川越厚氏はこの研究会で、自身の個人史と共に、在宅医療、在宅ケアへの取り組みを発表した。

ホームケアクリニック川越院長の川越厚氏
ホームケアクリニック川越院長の川越厚氏

 川越氏は、産婦人科のがん治療の専門医として第一線で活躍の最中に、がんを患った患者体験者だ。そのときの経験から、「死を目前にして自分にとって何が大切かを初めて見つめ直した。その結果、家族とともに生きる在宅医療の重要性を痛感。在宅ホスピスケアを始めた」(川越氏)という。

 死を意識したとき、愛する家族とともに住み慣れた我が家で最期を迎えたいと思う人は決して少なくない。しかし、人が亡くなる場所を見ると、1950年代(88%)以降、自宅での死亡は激減。1980年には38%、そして2006年には12%にまで減った。それにとって代わったのが病院や介護老人施設などの施設内での死亡だ。「がんに限ってみると、2006年の在宅死は6%程度。1982年の老健法制定以来、在宅が医療の場として制定されたり、麻薬の取り扱い薬局が増えるなど疼痛管理もしやすくなったのにも関わらず、在宅死は減っている。私は、これを進行する“死の病院化”と呼んでいる」と川越氏。

 在宅死を迎える人が少なくなった背景には、医師や患者、家族が、病院での医療と在宅での医療の違いを十分に理解できていないことが原因の一つとしてあるのではないかという。

 「私も、20年前に在宅医療を始めたころには、HPN(在宅中心静脈栄養法)やHEN(在宅経管経腸栄養法)といった“病院と同じことができる”在宅医療を自負していた」と川越氏は照れ笑いする。しかし、病院と同じ医療を望むのであれば、何も在宅で行う必要はないことに気づいたという。川越氏は「経験を積むうちに、在宅では、患者がいかに自分の状態を受け入れ、穏やかにランディングできるようにもっていくかが重要。しかもそれこそが望まれているということがわかってきた」という。

 例えば、「安らかに死を迎えるためには輸液による過剰な保水や栄養補給をしない方が良いケースが多く、むしろ多少脱水、低栄養の方が本人が楽なケースが少なくない。というのは、ターミナルでは心肺機能が落ち、水分がむくみの原因になり負担がかかるためだ。しかし、それを患者や家族に理解してもらえなければ、在宅では十分な医療が受けられないと勘違いされ、患者に無用な苦しみを与えることになってしまう」(川越氏)。

地域ボランティアに支えられ、独居でも在宅ホスピスケアが可能に
 川越氏は、無床診療所であるホームケアクリニック川越の院長であるとともに、在宅ケア支援グループ「パリアン」の代表でもある。パリアンは、ホームケアクリニック川越を中心に、訪問看護や療養通所介護事業所(デイホスピス)からなるグループだ。

このパリアンが関わり在宅で亡くなったがん患者の数は、2006年度で年間153人。これは、17床の緩和ケア病棟を持つ日赤医療センターの136人をしのぎ、聖路加国際病院の緩和ケア病棟24床における175人に迫る。

パリアンの独居患者※(30/585=5.5%)支援実績
家族の状況
人数
タイプ1 
家族あり
(A)必要になったら介護をする
18
(B)死後の手続きのみ行う
6
(C)一切かかわりを持たない
3
タイプ2 家族がいない
3
30
2000/7/1〜06/6/30

 また、ホームケアクリニック川越が、これまで在宅で看取った患者585人中30人は独居の患者だったという(表1)。独居患者にも住み慣れた我が家で在宅医療を受け続け、最期を迎えることも可能ということだ。

 川越氏は、「独居患者の在宅ケアを支えるのは、医療のみならず、介護サービスとの連携、患者を支える地域ボランティアの力。地域での理解を深めるために、お祭りなどにも積極的に参加している。質の高いケアを提供するには、患者に関わる人すべてが哲学を共有することが大切。だからこそ、私たちのところでは、ボランティア教育にも力を入れている」と解説する。

実際、川越氏のグループでは、ボランティア講座を開催し、在宅ホスピス・ボランティアの育成を自ら行っている。このボランティアの存在に支えられ、独居患者の在宅ケアも可能になっているのだ。また、在宅ホスピス・緩和ケア研修も開催。在宅ホスピスや緩和ケアに関心のある保健医療福祉の専門職や学生の研修も受け入れている。

 「今後は、市町村などによる地域ボランティアの育成も望まれる」と川越氏。在宅医療を根幹で支えるため、地域ボランティアの重要性を行政も理解し、育成に力を注いで欲しいと締めくくった。

(医療ジャーナリスト 武田 京子)


川越厚(かわごえ こう)
グループパリアン代表、ホームケアクリニック川越院長
東京大学産婦人科講師を経て、1990年から白十字診療所で在宅医療に携わり始める。94年、賛育会病院院長に就任し、同病院で緩和ケア病等(PCU)を立ち上げる。在宅ホスピスケアへの思いから2000年にホームケアクリニック川越(東京都墨田区)を中心にとした在宅ホスピス・緩和ケアの専門組織グループパリアンを立ち上げる。著書には、「家で死にたい 家族と看とったガン患者の記録」(保健同人社)、「家で看取るということ」(講談社)など。

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