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2008/7/29

米国の先進的取り組みに学ぶ

子どもに親の病気をどう伝え、支えるか?

 このほど、都内で「アメリカの実践に学ぶ がんと生きるノウハウ〜子どもに親のがんをどう伝え、どう支えるか〜」と題した講演会が開催された。これは、米M.D.アンダーソンがんセンターのチャイルド・ライフ・スペシャリストMartha Aschenbrenner氏を招いて開催されたもの。Aschenbrenner氏は「親ががんになったことを子どもにうまく伝える」ためのKNITプログラムを立ち上げた人物だ。日本と米国では文化の違いはあるものの、子どもが考えること感じることに共通項は多いはず。参考にして欲しい。

 「親にがんという話を聞かされなくても、子どもは家庭内の変化に敏感です。何かが変わった。でも、その正体は不明――これは北欧神話に出てくる橋の下に潜むトロールのようで、子どもにとっては非常に怖いものなのです」と、Aschenbrenner氏。「また親は、子どもを守りたいという思いから、がんになったことを伝えることを躊躇するかもしれません。しかし、“がん”という言葉を濁して“病気”という言葉を使うことで、子どもはますます混乱します」と、子ども達の心のなかを説明する。

 そのため、子ども達の混乱や疎外感を緩和するためにも、親は子ども達に真実を率直に話すことが必要というのがAschenbrenner氏の信念だ。この信念は、子どもが4歳のとき、自身が乳がんの診断を受けた経験によっても支えられている。同氏は、がんと診断された親と、診断された親の子ども達を、診断時、治療中、終末期に支えるプログラムKNITプログラム(Kids Needs Information Too)を立ち上げている。

 KNITプログラムによる、子どもに親のがんを伝える際の基本は「3C」だ。

 第1のCは「Cancer(がん)」。がんという病名を隠さないこと。第2のCは「not Catchy(うつらない)」。「子どもにとって病気の代表例は風邪などの感染症。そのため、手を洗わない、親と同じ食器を使うなどで、がんが自分にうつることを心配するもの。そのため、親のがんは、子どもにうつらないと説明することは非常に重要」と指摘する。

 そして第3のCは「not Caused(引き起こされたことでない)」。子どもや親のしたことが原因でがんになったのではないということ。「子どもは、親が診療のために帰宅が遅くなっても、自分が悪い子だから帰ってこないと勘違いします。がんになったことは、誰のせいでもないということを説明し安心させてあげましょう」と、Aschenbrenner氏。また、子どもの年齢に合わせ、説明の方法も工夫するといいという(詳しくは、文末の関連記事参照)。

親が治療中の子どもをどうサポートするか
 親の病気について、子どもにうまく伝えることができても、それで終わりではない。親が治療に入れば、入院や通院により不在になりがちになる。そのようなとき、子どもの疎外感や孤独感を緩和するためにはどうしたらいいのだろう。

 「家族のコミュニケーションを維持するため、様々な工夫があります。例えば、子ども用の質問ノートを準備する。また、家の中に郵便箱を用意し、手紙を送り合うというのもいいのではないでしょうか。手紙を送り合うのであれば、忙しくてもできますし、直接、話すのが難しいときでも対話を維持できます」とAschenbrenner氏。

 加えて、「『自分があなたの立場だったら、こう思うけど、実際、あなたはどう思うの?』というように、子どもが質問しやすいよう誘導するのもいい」と語る。

 また、M.D.アンダーソンがんセンターでは、この時期の子どもを対象にした、サポートプログラムを実施しているという。このプログラムは、子どもが喜怒哀楽、混乱などの感情を吐き出しやすいよう工夫されている。

状況が悪くなったときにはどうする?
 一方、治療がうまくいかず、親の死が近づいたときにはどうしたらいいのだろうか。

 「子どもは真実から守られるべきか?否、親の死から子どもを守れない以上、事実を伝えるべき」と、Aschenbrenner氏は強調する。「事前に知らせておかないと、子どもは人を信頼できなくなります」と、伝えないことで生じる弊害も指摘する。また、「子どもの発達状況に合わせて、どのくらい前に知らせるか、どのように伝えるかを工夫することができる」と、悪い知らせであっても、伝え方を良くする工夫はあるという。

 例えば、12歳以上の子どもに対しては、「『いろいろやったが治療が効かない』など、何が生じているかを説明する。また、『薬が効かなくなったときのこと、考えたことがある?』など子どもがどれほど気持ちの準備をしているかを尋ねておくとよい」という。そして、子どもが十分準備期間を持てるよう、情報はできる限り早く共有するといいと語った。

 一方、7歳から12歳頃の子どもに伝える際の注意点は、「誤解を避けるため、婉曲な表現は避けること」と指摘する。「どこかに行ってしまう、いなくなってしまうという表現。この表現では、子どもは探し出せると勘違いしてしまいます。誤解を避けるためにも、"死"という言葉を一度ははっきり言う必要がある」。そして、死ぬということがどういう意味か、子どもが理解しているかを確認しておくことも重要という。家族の一員として情報を共有し、一緒に乗り越えていくためにも、可能であれば、最低でも4週間前には知らせるといいと述べた。

 7歳以下の子どもは、時間の概念への理解が完成していない。そのため、「あまり早く話すと、逆に生き返ったと誤解することがある」とAschenbrenner氏。「5歳から7歳ぐらいであれば2週間前ぐらい、5歳以下では2日から4日前ぐらいの短い準備期間がよいでしょう」という。また、この年代では、死の永続性を理解することができない。そのため、子どもが「『死んじゃったけど、いつ帰ってくるの?』という質問をしたとしても、それはとても普通なことと理解して欲しい」という。

 Aschenbrenner氏は、「親の死という事実を知らせないことは、子どもを一人で悲しませることになります。悲しみは誰かと共有した方がいいのではありませんか?」と締めくくった。

 今回の講演会のキッカケは、米国の先進事例を学ぶために、昨年、行われた患者会の視察旅行だ。「米国でMartha に出会い、彼女の人柄に惚れ込んでしまいました。彼女の理念や活動を、是非、日本の患者さんや患者さんをサポートする方々に伝えたいと思い、今回に至りました」とVOL-Netの伊藤朋子氏。また、同じくVOL-Netの大沢かおり氏は、Aschenbrenner氏と何度もメールのやり取りを行い、今回の講演会の実現に漕ぎ着けた。大沢氏は、「今回の講演会をキッカケに、日本でも、この問題が認識され、よりよい方向に向いてくれるようになれば」と語っていた。(小板橋 律子)

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