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レポート

2008/7/22

婦人科がんや乳がん、大腸がん手術の後遺症

リンパ浮腫に日本発の超微少血管融合術が挑む

 婦人科がん(子宮がん、卵巣がん)、乳がん、前立腺がん、大腸がんなどにおける術後の後遺症として、リンパ郭清に伴うリンパ浮腫が問題となっている。今年4月からはリンパ浮腫に対するリンパマッサージや弾性ストッキングを用いた圧迫療法が保険適応となった。しかし残念ながら、圧迫療法は慢性化したリンパ浮腫の軽減効果はあっても完治へと導くものではなく、“リンパ浮腫とのつきあいは一生続く”と認識されている。このリンパ浮腫を完治させる、もしくは発症そのものを予防できる手術法が開発され、注目が集まっている。

 術後の後遺症であるリンパ浮腫対策として期待されているのは、超微少血管融合術という手術法。顕微鏡下で、1mm以下の血管を融合する手術をいう。指を切断した際に、神経も含めて接着する手術として知られている。この技術は、日本人形成外科医により世界で初めて考案された。

 この超微少血管融合術を、リンパ浮腫に応用する動きが活発になっている。7月17〜19日に名古屋市で開催された日本婦人科腫瘍学会の教育シンポジウム「婦人科癌術後のリンパ浮腫の予防と治療」では、その現状が発表された。

リンパ浮腫発症後、早いほど効果的
 東京大学医学部形成外科の光嶋勲氏は、リンパ浮腫を発症した患者を対象に、リンパ管と細静脈を超微少血管融合術を用いて吻合(リンパ管・細静脈吻合術)していることを報告した。非常に細いリンパ管と細静脈を結ぶことで、リンパ液の排出が細静脈を介して行われる。

 「既に数百人の患者に実施しており、有効率は約8割」と光嶋氏。患者の3割は腕の浮腫対策として、残りの7割は足の浮腫対策として治療を受けているという。この吻合術は、局所麻酔の下で行われる。そのため体への負担は少なく、2〜3日、長くても1週間の入院期間で治療が可能だという。

 光嶋氏は、「マッサージや弾性ストッキングなどの圧迫療法で効果が得られなかった患者でも、この吻合術で完治が期待できる」と自信を見せる。実際、同氏は、吻合術後、ある程度の期間の圧迫療法を行った後、圧迫が不要になった患者の例を複数紹介した。

 また、リンパ浮腫により生じやすく、患者を悩ませる蜂窩織炎が吻合術により顕著に減少することも確認しているという。

 ただし光嶋氏は、同吻合術を受けた患者の約1割で悪化が見られたとも報告する。その理由として、リンパ浮腫歴が長いとリンパ管が劣化してしまっているため、吻合してもリンパ液の排出がうまくいかない可能性があると分析する。そのため、この吻合術による治療は、「リンパ浮腫が生じた後、早ければ早いほど効果的」ということだ。

 「現在、この手術が行える形成外科医は国内に50人程度存在する。加えて、切断された指の接着が可能な形成外科医であれば、基本的にこの手術を行うことは可能」と光嶋氏。「リンパ浮腫対策に、超微少血管融合術を応用することに興味を持つ形成外科医は増えており、今後、急速に手術ができる医師は増加し、普及するだろう」とも語る。

高リスク患者には、がんの手術時にリンパ管・細静脈吻合を実施
 一方、東京慈恵会医科大学産婦人科の佐々木寛氏は、「これまでリンパ浮腫を発生させていた婦人科医の立場から、今後は、リンパ浮腫を発生させない手術を行いたい」と語った。

 まず佐々木氏は、国内で行った多施設共同研究の結果を振り返った。それは、卵巣がん、子宮頸がん、子宮体がんでリンパ節郭清を受けた患者における脚のリンパ浮腫の発生状況を解析したもの。1997年初めから1998年末までの2年間、厚生労働省の第3次がん克服10カ年戦略事業「婦人科癌術後下肢リンパ浮腫の予防手術の開発」の助成を受け、12施設が参加して行われた。

 同調査では、694人のデータが解析され、約3割(27.2%)の患者でリンパ浮腫が生じていることが明らかになった。また、リンパ浮腫の発生リスクが最も高くなるのは、子宮がん(子宮体がん、子宮頸がん)で、傍大動脈リンパ節郭清もしくは術後の放射線治療歴がある場合だった。また、両方の治療を併用している場合には、よりリンパ浮腫の発生リスクが高くなっていた。

 佐々木氏は、同調査で明らかになったリンパ浮腫の高リスク群を対象に、腫瘍の摘出術と同時に、リンパ管・細静脈吻合術を行う臨床試験を開始している。これも厚生労働省の助成を受けたもので、「子宮体癌におけるリンパ管・細静脈吻合術による術後リンパ浮腫予防手術のPhase I/II Study」という。

 同臨床試験では、腫瘍摘出術後、形成外科医の関与の下で、直径1.5mm程度の細静脈とリンパ管を吻合する。これまでに慈恵医大で8人、佐賀大学で7人がリンパ管・細静脈吻合術を受け、吻合に成功した患者全員でリンパ浮腫の発生がないという。ただし、吻合術の成功率は大学で差があり、「形成外科医の技量に依存する傾向もありそうだ」と佐々木氏。

 今後、腫瘍摘出のための手術中にリンパ管と細静脈を結ぶという手術の有効性が確認されれば、患者は術後のリンパ浮腫発生を恐れなくてよくなる。また、既にリンパ浮腫を発生している患者に対しては、これまでの圧迫療法に加えて、手術という新しい選択肢が加わることになる。今後、がんの手術を行う外科医と形成外科医の連携の下、さらにこの手術の普及と有効な活用法の検討が進むことを期待したい。(小板橋 律子)

※リンパ浮腫
 リンパ浮腫は、リンパ管を切除することで生じるリンパ液の滞りによって生じる。早期の乳がんでは、リンパ浮腫の発生を予防する目的で、わきの下のリンパ節切除を最小限にするセンチネルリンパ節郭清という方法が検討されている。その一方で、婦人科がんの領域では、センチネルリンパ節の判別が難しいなどの理由から、リンパ節の縮小郭清の検討は乳がん領域ほど進んでいない。そのため、下肢のリンパ浮腫に悩まされる患者が依然多いことが問題となっている。

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