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レポート

2008/7/15

寄稿:2008ASCO体験記(その2)

患者・支援団体の参加を歓迎するASCO(下)

 通称ASCO(アスコ:American Society Clinical Oncology;米国臨床腫瘍学会)の年次総会が、2008年5月30日から6月3日までの5日間の日程で、米国シカゴで開催された。ASCOには、医師、研究者、製薬企業関係者のみでなく、患者・支援団体(Patients Advocates)も全世界から多数集結する。患者・支援団体の一員としてASCOに参加したので、患者側の視点から今年のASCOを紹介したい。(NPO法人キャンサーネットジャパン 事業戦略部門・事務局長 柳澤 昭浩)


 米国臨床腫瘍学会(ASCO)が、患者・支援団体の参加を支援するため、患者・支援団体向けの割引参加費のみならず、旅費、宿泊費などの助成プログラムや、患者・支援団体専用のラウンジなどを用意していることを前回は紹介した。今回は、さらにASCOが患者・支援団体向けに用意したプログラムの内容などから、学会と患者・支援団体の関係について考えてみたい。

患者・支援団体向けプログラムも用意
 ASCOは、患者・支援団体関連の参加者に対して、今年のASCOを俯瞰することができる特別なプログラムを用意している。このプログラムには、いくつかの種類がある。なかでも注目されるのは、ASCOの主要メンバーが学会のメイントピックスを紹介する「リサーチレビューセッション」だ。今年のASCOで重要な位置づけを持つ発表を紹介し、活発な質疑応答が行われる。実際、患者・支援団体から出される質問はかなり専門的なものであった。

加えて、筆者にとって印象的だったのは、現在進行中の臨床試験への理解と協力を得るために患者・支援団体に提供されたプログラムであった。

 このプログラムは、HER2陽性の乳がん患者に対するラパチニブ(国内、販売認可申請中)とトラスツズマブ(商品名「ハーセプチン」)のそれぞれの単独投与と、両剤の同時併用、順次併用の4グループにおける、再発抑制効果を多施設共同の臨床試験として比較するもの(関連記事参照)。この臨床試験は、米国立がん研究所(NCI)と英GlaxoSmithKline社の資金で実施されている。

 乳がん領域では著名なMayo Clinic臨床腫瘍学教授のEdith A. Perez氏により、まず、この試験の概要が紹介された。患者・支援団体向けとはいえ、内容はかなり専門的であった。そのため、参加者にどこまで内容が伝わっているのかと思って聞いていた。そして、その後の質疑応答で米国の患者・支援団体の方々の知識レベルの高さに驚ろかされた。

臨床腫瘍学教授のEdith A. Perez氏
臨床腫瘍学教授のEdith A. Perez氏(前列左から3番目)

 例えば、Perez氏の「Question(質問)、Advice(助言)、and Suggestion(提言)はありますか?」という問いかけに、ある患者からは「小分子であるラパチニブと、抗体であるハーセプチンの併用は、どのようなメカニズムで効果を発揮するのか?」という質問が出された。その後のやり取りは、ほとんど学会上での専門家の質疑を思わせるものであった。

 また、この後には、この試験に関与するコ・メディカル(専門看護師、統計担当者)、臨床試験支援団体であるNCCTG(North Central Cancer Treatment Group)の代表者、そしてスポンサー企業の担当者が紹介された(写真右:Perez氏は前列左から3番目)。多業種が協力して、新規薬剤を開発している現状を紹介し、販売認可を得る前から患者・支援団体に対して正しい理解を得てもらうという努力を垣間見る思いであった。

 恐らく、このようなプログラムを持つ学会は日本にはないだろう。ASCOが患者・支援団体を重要なパートナーと位置づけていることを象徴している。

日本からの参加者はASCOと患者との連携をどう思うのか
 このようなASCOと患者・支援団体との関係を、日本人の参加者はどう思っているのだろうか?何人かの医師に聞いてみた。

 「医療に関する基礎的知識がない患者が学会に参加する事にリスクを感じる」、「患者が参加する事で学会が混乱しないか」、「患者ががん医療に関与する事で何がどう変わるのか?」などという答えが多く、残念ながら前向きなものは少なかった。

 また、患者・支援団体に、進行中の臨床試験について説明することに関しては、「患者さんにそんな難しい話はわかるだろうか?少なくとも日本ではちょっと早いのではないか」、「患者さんが臨床試験のプロトコールを知ってどうかなるんだろうか」といった意見の一方、「環境が整えば日本でもやる価値はあるかもしれない」、「今後、患者さん(患者支援者)の動きはキーになるかもしれない」などの回答を得た。

 これまで、日本のがん関連学会が積極的に患者へ参加を呼びかけた例はない。最近は学会に付随するプログラムとしての市民公開講座などが行われているが、これは患者側を“お客さん”と位置づけているようなものだろう。ASCOのように、患者・支援団体をパートナーと位置づけたプログラムとは異なる。

 日本で、学会と患者会との連携が実現していない要因は、学会だけにあるわけではないだろう。米国の市民・患者会活動の歴史は古く、また、その規模も大きい。学会と対等なコミュニケーションができるまで患者会が成熟している。例えば、米国を代表する患者支援団体であるランス・アームストロング基金(Lance Armstrong Foundation)は、「Knowledge is Power」とのマニフェストを掲げ、臨床試験への理解と協力の姿勢を打ち出している。

 一方、日本においては、がん患者会の規模は未だ小さく、その多くは、学会と連携ができる段階にはない状況であることも事実だ。

 しかし、筆者は日本の現状は悲観的するものではないと感じている。米国で、日本の「がん対策基本法」にあたる「国家がん法(National Cancer Act)」が施行されたのは1971年のこと。現在の米国での医療者(学会)と患者(患者会)の成熟した関係は、30年を超える歴史によるものなのだ。

 日本における医療者と患者の関係は、今まさに、遅まきながらスタート地点に立ったといえるだろう。実際、「がん対策基本法」に基づく「がん対策推進協議会」には、患者・市民の立場で多数の委員が参画している。また、各都道府県の協議会でも同様だ。今後、患者・支援団体の成熟が進み、よりよい医療者との協同関係が築かれていくと期待される。

なぜASCOは患者・支援団体の参加を歓迎するのか?

Vanderbilt-Ingram Cancer CenterのDavid H. Johnson氏
Vanderbilt-Ingram Cancer CenterのDavid H. Johnson氏

 ところで、ASCOは、なぜ患者・支援団体をパートナーと位置づけ、参加を歓迎しているのだろう。

 「がん研究費の削減は、がん治療の進歩のスピードを鈍らせ、それは医療者にとっても、患者にとっても不利益だ」と答えてくれたのは、ASCOや米国を代表する臨床試験グループEastern Cooperative Oncology Groupで重責を担うVanderbilt-Ingram Cancer CenterのDavid H. Johnson氏(右写真)。

 患者の積極的な関与なくして、がん関連の法律、政策を変える事はできない。がん研究費削減の問題に直面している米国では、ASCOを中心に学会と、患者・支援団体の連携がますます強まっているという訳だ。

 日本においても、医療費削減の圧力は強く、米国同様、医療者と患者・支援団体は、同じ逆風を受けている同志だといえる。社会的な状況からも、医療者と患者・支援団体がパートナーして協力することの意義は大きいのではないだろうか。

【参考Webサイト】
米国臨床腫瘍学会(ASCO)
ASCO2008のWebサイト

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