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2008/7/1

乳がんの術式を考える

乳房切除術の見直し進む?

 早期乳がんの場合、乳房温存術は乳房切除術と並んで標準的な術式となっている。乳房温存術を希望する患者は多く、国内でも乳房温存術の実施率は増加の一途を辿っている。その一方で、世界に先駆けて乳房温存術が普及した米国で、この数年の間に、乳房切除術の実施率が上昇してきていることが明らかになった。乳房温存術と乳房切除術−−この2つの術式を再検討したい。

※乳房温存術と乳房切除術
 乳房温存術は、乳房の一部分を切除する方法であり、ステージ0、1、2の乳がんの標準的な治療法となっている。乳房温存術と放射線治療を組み合わせた治療では、乳房切除術と比較して、生存率に差がないことが証明されている。ただし、乳腺を全て切除する乳房切除術では乳房内に乳がんが再発(局所再発)するリスクはゼロとなるが、温存術では局所再発のリスクが少ないながらも残る。もしも局所再発した場合には、再度、手術が必要となり、その場合は乳房切除術が一般的に選択される。

 今年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)では、米国のがん診療の一大拠点である米Mayo Clinicにおける乳房切除術の実施率が近年、増加傾向にあるという発表が注目を集めた。

 Mayoにおける乳房切除術の実施率は、45%であった1997年から2003年までに徐々に減少し、2003年には31%まで下がった。しかし2003年を境に再度上昇し、2006年には43%に達した。

 同研究の代表を務めたMayo clinicのSenior clinical fellowであるRajini Katipamula氏は、乳房切除術の実施率と、術前MRI検査の実施率との関連に着目して調査を行い、術前MRIの実施率が高いほど、乳房切除術の割合が高い傾向にあることを確認している。

 術前MRI検査とは、がんの広がりを確認し、手術して摘出する範囲を決めるために実施する検査。MRI検査により、病変の範囲が予想より広いことが確認された場合などには、当初予定されていた乳房温存術から乳房切除術に変更されることがある。

 日本における術前MRI検査の導入の先駆的施設である聖路加国際病院では、「術前MRI検査の結果を受けた術式変更は4%程度」(同ブレストセンター長の中村清吾氏)となっている。中村氏によると、「医療施設によって多少異なるが、術前MRI検査を導入した場合、だいたい4〜10%程度の患者で術式変更が行われている」ということだ。

 中村氏は、「術前MRI検査を行うことで、他の検査では発見できなかった病変が見つかったり、当初予定していた手術範囲を超えて病変が広がっていることが発見されることがある」と語る。

 病変が取り残されていた場合には再手術が必要になる。そのため、「術前MRI検査を行い、術式変更が行われた患者では、再手術が回避できたといえる」と中村氏。術前MRI検査の導入で、患者はより正確に病変部位の判断を受けることができるという訳だ。患者としては乳房温存術から乳房切除術に術式を変更することは苦渋の選択かもしれないが、それにより2度の手術という大きな身体的負担が回避できるのだ。

術前MRI検査には生検の併用が必須
 しかし、MRI検査には弱点もある。それは、本来病変がない部分を病変として描出(擬陽性)しやすいという点だ。つまり、術前MRI検査のみで術式変更を行った場合には、擬陽性の部分を過剰に切除してしまう危険性があるのだ。

 そのため、今年1月に発表されたNCCN(National Comprehensive Cancer Network)の乳がんに関するガイドライン(NCCN Clinicai Preactice Guidelines in Oncology)では、乳房の過剰な切除を避けるため、乳房手術の範囲を決定する際には、術前MRI検査で新たに見付かった病変部分の生検が必要としている。

 厚生労働省は、2008年度予算でがん拠点病院を対象に、乳房のMRI検査を行うための乳房専用の装置(乳房専用コイル)の導入費用を半額補助している(関連記事2)。そのため、今後、国内でも術前MRI検査が普及していくと予想される。ただし、国内では、MRI検査を行いながら病変部位を生検(MRIガイド下バイオプシー)するための装置が承認されていないという問題が残っている。この点について中村氏は、「日本人の場合、超音波検査を行いながらのバイオプシーで対応できる場合がほとんど」というものの、MRIガイド下バイオプシーが可能な装置の導入が無いまま、術前MRI検査が普及した場合、過剰切除の危険性が生じるといえるだろう。無意味な乳房切除術が増えないためにも、早急なMRIガイド下バイオプシー装置の承認を求めたい。

乳房切除術の増加には術前MRI以外の要因も
 Mayo ClinicのKatipamula氏は、「この数年で乳房切除術が12%も増えている理由は術前MRIの増加だけでは説明できない」とも語る。他の要因として、「患者や外科医の好み、乳房再建術という選択肢が出てきたこと、そして再発リスクや定期的な乳がん生検の必要性を憂慮したことなどによっても、乳房切除術の実施率が上昇している可能性がある」という。

 乳房温存術とセットで行われる放射線治療は皮膚を萎縮させ乳房再建術を難しくする。そのため、乳房再建を望む場合には、乳房切除術が勧められている。

 日本でも、乳房再建術を受ける患者は増加してきており、そのことからも、米国同様、乳房切除術の再増加が生じる可能性がありそうだ。また、「乳房を温存できるという甘い言葉に誘われて、温存術にこだわったものの、術後の乳房は予想していた形とはずいぶん異なり困惑した」という患者の声は決して少なくない。温存術にこだわるよりも、切除術後に乳房再建を受けた方が最終的な満足度が高い可能性があることを十分理解したうえで、術式を選択して欲しい。

 乳房温存術一辺倒であった米国で、乳房切除術の見直しが進んでいることは、日本における乳がんの術式選択に対しても示唆に富むメッセージなのだ。(末田 聡美、小板橋 律子)

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