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レポート

2008/7/1

第48回日本呼吸器学学術講演会会長の曽根三郎氏に聞く

分子標的薬でがんと共存する時代が来る

 第48回日本呼吸器学会学術講演会が6月15日から開催された。日本人の死因の一位であるがんのうち最も多いのが肺がん。ゲフィチニブの副作用問題という反省点を生かしたうえで、肺がんの治療は、今度どうなるのだろうか。会長を務めた徳島大学呼吸器・膠原病内科学分野教授の曽根三郎氏に話をうかがった。

――呼吸器学会の会員数は1万人を超えるそうですが、がんだけではなく、喘息や感染症など、広い領域をカバーしています。

曽根 肺は複雑な臓器で、急性毒性や間質性肺炎も出やすく、がんであっても感染症であっても、肺の特性を知ることが非常に重要です。たとえば肺がんの治療を行うためには、がんをとりまく肺の状態に常に関心を払わなくてはいけないのです。私もその渦中にいたゲフィチニブ(商品名「イレッサ」)の副作用問題も、呼吸器科医が処方していたならばあそこまで大きくはならなかったでしょう。がんを治療するのではなく、がんを持っている患者さんを治療するという観点が、特に重要な分野なのです。――ゲフィチニブの副作用だけがクローズアップされた時、分子標的薬の特性、つまり特定の患者さんにのみ強力な効果を示す薬剤であるということをアピールできなかったのでしょうか。

曽根 今なら言えます。でもあの時は、患者さんがみんな待っていたのです。そして一斉に使ってしまった。ただし、これからの道筋は決まっています。つまり、有効性を予測できる指標(マーカー)を同時に開発しないと、分子標的薬は承認されなくなるのです。2006年に、がんの分子標的薬をテーマにした国際シンポジウムで、Drug-Diagnostic Co-Developmentという、がん治療効果予測マーカーの同時開発に向けた重点政策が明らかにされました。その時、米国食品医薬品局(FDA)の担当者がこう言ったのです。

 我々は間違っていた。患者は皆、抗がん剤の副作用で苦しんでいる。分子標的薬はそうしてはいけない。製薬企業にとっては、投与する患者を絞り込むとマーケットが縮小するという利益相反が存在するが、それでも患者のためを考え開発を促進すべきであった、そうしなかったのはFDAの責任である――と。――そして現在、バイオマーカーに関する研究の数が飛躍的に増えています。

曽根 それはマーカーの開発が一筋縄ではないことの表れでもありますね。ゲフィチニブはEGFR-TKI(上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ)阻害剤といわれ、標的部位であるチロシンキナーゼに遺伝子の変異があると治療効果が高いことが明らかになっていますが、変異がなくても12%の患者には効くのです。

 我々は文部科学省(文科省)の「がんトランスレーショナル事業」という研究事業で、12個の遺伝子の発現を解析して治療効果を予測するQUEENアッセイと呼ばれる方法を他の施設と共同開発しています。この方法で特徴的なのは、薬剤が効いてがんが小さくなる患者さん(CR+PR)の予測だけでなく、大きくも小さくもならなず、長期に渡って病状が安定する(Long SD)患者さんの予測ができることです。

 ゲフィチニブを用いたIDEAL-1という臨床試験では、著効(CR)が0%、部分寛解(PR)が18.5%、そして安定状態(SD)が35.9%という結果でした。そして続く臨床試験(IDEAL-2)では、PRの生存期間平均値が16.3カ月だったのに対し、SDのうち症状が改善したグループでは13.7カ月という結果が得られました。ちなみに病気進行(PD)では5.4カ月です。つまり、安定状態が得られた患者さんの中には、がんが小さくなった患者さんに劣らない予後が得られる方が存在するのです。この患者さんは、分子標的薬の非常によい投与対象になるのではないでしょうか。なぜならば、分子標的薬は繰り返し投与できるからです。

 これまでの抗がん剤治療では、サードライン以降の治療効果は極めて限られ、逆に副作用は増大して行きました。例えれば、ハードルが徐々に高くなり、背中に背負った副作用という荷物は重くなって行くわけです。これに対して分子標的薬では回数を重ねてもハードルは同じ高さのままで、荷物の重さも変わりません。

 これまで我々は、著効(CR)に囚われすぎていたのではないでしょうか。副作用もグレード3までなら我慢せよと。しかしこれからは、がんと共存していくことができる。患者さんのQOLを考えても、どちらが取るべき方向かは明らかでしょう。そしてがんと共存しながら、年単位で生存期間を延ばせたらいいなと考えています。――話は変わりますが、先日の地方紙に、禁煙の大切さを書かれていましたね。

曽根 禁煙が一番早いんですがね。病棟を回ると、無力感を感じることがあるんですよ。特に男性は、みんな喫煙者ですから。患者さんには、「息子さんには禁煙するように言ってください」といつも言っているんです。(まとめ:関本 克宏)

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