このページの本文へ

がんナビ

がんナビについて

がん患者さんとその家族のために、がんの治療や患者さんの日々の生活をナビゲートします。

がん種から情報を探す

  • 乳がん
  • 肝がん
  • 大腸がん
  • 腎がん
  • 胃がん
  • 肺がん
  • 食道がん
  • 前立腺がん
  • 子宮頸がん
  • 膵がん
  • 卵巣がん
  • その他のがん

Report レポート

レポート一覧へ

新着一覧へ

レポート

2008/6/24

小児がん経験者の身長曲線に注意を

適切な経過観察と治療で身長は伸ばせる可能性

 治療法の進歩と共に、多くの小児がんは治る時代となった。ただし、小児がん経験者の多くで、病気や治療の影響が治癒後に残る晩期合併症(晩期障害)がみられている。兄弟姉妹と比べて身長が伸びない“低身長”は小児がん経験者に多くみられる晩期合併症の1つだ。実はこの合併症、適切な経過観察と治療により、改善することも決して珍しくない。

 小児がん経験者、特に白血病や脳腫瘍を経験したサバイバーでは、兄弟姉妹と比べて身長が低い(低身長)ことが多い。病気そのものや治療の影響が内分泌系に影響し、ホルモンのバランスが悪くなることにしばしば起因する。小児がん経験者の半数近くが内分泌系の晩期合併症を有し、内分泌系の合併症の中でも頻度が高いのが低身長といわれている。

 この低身長について、「早期診断と適切な治療により身長を伸ばせる場合が珍しくない」と強調するのは国立成育医療センター第一専門診療部長の横谷進氏。小児内分泌学の大家であると同時に、小児がん経験者の内分泌障害にも興味を持っている数少ない専門家だ。

 加えて横谷氏は、「骨は待ってくれない。適切な時期に治療をしなければ、伸びるものも伸びなくなる」と、早期発見が重要である点を強調する。

低身長が生じるメカニズムとは
 では、なぜ低身長が生じるのか。内分泌系の中枢となっている『視床下部』が、低身長を理解する上で欠かせないキーワードだ。腫瘍や手術により視床下部に傷が生じると、視床下部の働きが弱まってしまう。また、視床下部は放射線に非常に敏感だ。頭部に放射線治療を行った場合、18Gy程度の比較的低い線量から、骨の成長・成熟に関与するホルモンの分泌異常が生じるリスクが発生する。

 低身長に関連するホルモンとして知っておきたいのは、骨の成長を支える『成長ホルモン』と、骨の成熟に関与する『性腺刺激ホルモン』の2つ。30Gy程度の放射線治療により成長ホルモンは分泌不全になりやすいが、逆に性腺刺激ホルモンは分泌時期が早まりやすくなる。成長ホルモンの分泌量が減れば身長の伸びが減り、性腺刺激ホルモンの分泌時期が早まれば、二次性徴が通常よりも早く現れる思春期早発症が生じる。

 思春期早発症が生じた場合、性ホルモンにより骨の成長が促進されるため、一時は、身長が伸びる。しかし、思春期早発症による骨の成長は、同時に成熟を急速に促進するもの。そのため、まだ伸びる時期であるはずの骨は、大人の骨へと成熟し、身長の伸びは通常よりも早く止まってしまう。それにより、最終的には低身長となってしまう。

 また、放射線治療の影響による成長ホルモンの分泌不全は、低線量の照射であればあるほど、治療後直ぐに発生せず、何年もかけて徐々に進行する。そのため、完全に分泌が止まるまでの間に検査を受けた場合、ある程度の分泌量が残っていることから、「通常の検査では“正常”との結果が出ることがある」(横谷氏)のだ。そのため、正しく診断することが難しい。実際、小児がんの専門家のなかには、身長の伸びが悪いのに成長ホルモンの分泌が保たれていることに頭を悩ましながら長期フォローアップを行っている医師が多いようだ。

 ただし、ホルモンの異常が原因とならない低身長も存在する。それは、治療中の低栄養や、脊椎(背骨)に放射線照射を受けたことなどが原因となる低身長だ。そのような場合には、残念ながら有効な治療法は現在までのところあまりないと横谷氏。

成長曲線をしっかり記録し、二次性徴の時期に注意
 「内分泌障害は非常に複雑であるため、小児内分泌専門医の関与は欠かせない」と横谷氏。複数のホルモンが複雑に関与している内分泌系の合併症に関して、正しい診断と治療を受けるためには、小児がんの専門家に加えて、小児内分泌の専門家の診療を受けることが肝要といえそうだ。

 また、保護者にもできることがたくさんある。

 まずは、子供の病気と治療内容から、晩期合併症のリスクとなる因子を調べること。脳腫瘍、もしくは頭部に放射線治療歴がある場合には、内分泌系の合併症のリスクが生じる。その場合、頭部に照射された放射線量を確認しておくことが重要だ。線量によってホルモンの分泌低下が生じるリスクは変わる。また、分泌不全が生じる時期も線量に影響される。

 横谷氏によると、一般的に、18Gy以上の線量が頭部に当てられた場合には、成長ホルモンの分泌不全が生じるリスクが高まるという。ただし、中にはより少量の放射線で成長ホルモンの分泌不全が生じることもあるので、「放射線治療を受けた場合には、成長曲線をしっかりつけ、身長の成長をしっかりモニターすることが重要」と横谷氏。身長の伸びが横ばいを示し始めたり、二次性徴が早い年齢で起こって急に身長が伸び始めたりしたら、小児内分泌の専門家の診療を受けて欲しい。

 検査の結果、実際に成長ホルモンの分泌不全が生じていることが確認されれば、成長ホルモンの補充療法が行われる。適切な時期にホルモンの補充療法を受ければ、身長は伸びる。成長ホルモンの補充により、がんの再発リスクが上がらないことも確認されている。

 成長曲線に加えて、二次性徴の時期にも注意が必要だ。特に女児では、18Gy程度の比較的低線量の放射線治療でも性腺刺激ホルモンの分泌が促進され、思春期早発症が生じることがある。7歳半以前に乳房が発達し、あるいは、10歳半以前に初経が見られた場合には専門家の受診を検討して欲しい。一方、男児では9歳未満で精巣が肥大したり、10歳未満で陰毛が発生するなどが、思春期早発症の判断基準となっている。

 思春期早発症は早期発見できれば、ホルモンの分泌を抑える薬の投与で二次性徴を遅らせることが可能だ。友達よりも先に二次性徴が生じることは、本人の精神的な負担にもなる。体だけでなく精神も適切に発達できるよう適切な治療が必要だろう。

 「たいへんな病気をしたのだから低身長は仕方がない」と、小児がん経験者の保護者は考えやすいのではないだろうか。しかし、小児内分泌の専門家の診療を受けることで、身長を伸ばすことは可能かもしれない。また、身長という一面だけでなく、内分泌系が関連する様々な合併症への適切なフォローアップにもつながるのだ。(小板橋 律子)

※小児内分泌専門医の探し方小児内分泌専門医は、日本小児内分泌学会のウェブサイトにある内分泌代謝専門医/認定教育施設のリストより検索可能だ。ただし、専門医の数は非常に少ないのが現状だ。

この記事を友達に伝える印刷用ページ