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2008/5/20

がんとうまく付き合う方法

我慢しないで弱音を吐こう・愚痴を言おう

 がんの告知を受けて動揺しない人はいないだろう。しかし、がんと診断された辛さや闘病の辛さを誰かに打ち明けたり、愚痴を言うことを躊躇し、1人で抱え込んでしまう人は少なくないようだ。人の迷惑にならないようにという日本人の美徳かもしれない。しかし、1人では抱えきれない辛さもある。あなたの体は治療の辛さに十分に耐えている。心にまでも無理を強いるのはもう止めよう。我慢しないで弱音を吐こう。愚痴を言おう。


 「家族に迷惑をかけたくないと、辛い気持ちがあっても、愚痴も言わずに我慢に我慢を重ねていらっしゃる患者さんがたくさんいます」と語るのは、国立がんセンター東病院臨床開発センター精神腫瘍学開発部の内富庸介氏。がん患者の心のサポートを行っている精神腫瘍医(サイコオンコロジスト)だ。

 「一昔前は、がん患者さんの入院期間は平均3カ月ぐらいでした。入院中に、同じ病気の先輩患者さんから情報を得たり、同じ時期に手術を受けた患者さんと励まし合うということもできました。しかし現在、入院期間は2週間とありません。そのため、がんとうまく付き合うための心の準備もできていない状態で退院となり、退院後に精神的に参ってしまう人が多いのです」と、がん患者の心へのサポート需要が増している背景を分析する。

 「がんとの付き合い方も分からないままに退院させられて、家族にも友人にも愚痴もいわずに過ごしていると、3カ月から半年ぐらいで死にたくなるものですよ」と内富氏。「対処法の分からない辛さが継続している訳ですから、うつになるのも分かりますよね」と苦笑する。

 そして内富氏は、センセーショナルな現実を打ち明ける。「非常に残念ながら、がん患者さんの500人に1人が自殺しているという統計があるのです」。現在日本には、年間3万人の自殺者がいる。その理由の第一は病苦であり、がんは病苦のなかでおそらく上位に入るだろうというのだ。

 ただし、内富氏によると、がんの診断を受け闘病すること自体は自殺にほとんど直結しない。自殺につながる危険性が大きいのは、闘病の辛さを1人で抱え込んでしまったことから生じる『うつ病』だ。「自殺される方の9割以上が何らかの精神的な問題を抱えているのです」と内富氏。「だからこそ、何らかの精神的なサポートが必要」と強調する。

 がんの診断・治療は人生最大級の一大事だ。この一大事で生じる精神的なストレスは大きく、抱えきれなくなる人も少なくない。抱えきれないストレスを無理して抱え込もうとすることで、適応障害やうつ病を発症しやすくなる。がん患者の約4〜7%がうつ病となり、適応障害は13〜35%に上るというデータもあるほどだ。

 そして非常に厄介なのは、「うつ病は、死を持ってでも逃れたいほど辛い病気」(内富氏)である点だ。「抗がん剤の副作用よりも、うつ病の方が辛いという患者さんが多いのです。体の痛みは、その痛みから逃れる見通しを立てやすいものですが、心の痛みから逃れる見通しを立てるのはとても難しいためなのでしょう」と語る。

辛いときは辛いと言って
 ではこの一大事に、精神的な危機を生じずに対応するにはどうしたらいいのだろうか。

 「とにかく、誰かに胸の内を打ち明けてください」と内富氏。

 「『自分だけ、心が弱いのでは?』『甘えているのでは?』『自分で努力すべきことなのでは?』と考え、自分1人で辛さを抱え込んでしまう方が少なくありません。しかし、自分の悩みを誰かに打ち明け、弱音を吐くことが“心のリハビリ”につながるのです。無力だと思えてならない自分自身がだれかに必要とされていること、また、自分を支えてくれる人がいることに気付くことにもつながります」と力を込める。

 また、がんの診断を契機に生じるうつ病について、内富氏の見解は決して絶望的ではない。「がんになるまでにも、人生のなかで様々なストレスや苦難があったはず。そのようなストレスにうまく対応し、ここまで来ている方々です。元々は精神的な強さを持っています。そのため、うつ病そのものは重症化しません」と断言する。

 がんの診断、治療は心身に負担を強いるライフ・イベントだ。心がメソメソするのは当たり前、多少のうつ状態も当たり前なのだ。だからこそ、“誰かに話すこと”“弱音を吐くこと”で回復できる。家族でも友人でも、また医療従事者でもいい、誰かに心の内でモヤモヤしているものを打ち明けてみて欲しい。「きちんとケアを受ければ、うつ病は予防できますし、がんに立ち向かう元気も出てくる」(内富氏)のだ。

患者をうまく支えるコツは共感と沈黙
 では、患者の家族や友人は、いかに患者をサポートしたらいいのだろうか。

 「患者さんから、辛いと打ち明けられたら、とにかく受け止めてあげてください」と内富氏。「がん診療に携わる医師に対して、我々はコミュニケーション・スキルの講習を行っています。その講習でキーワードとなるのが、『共感』と『沈黙』です。家族や友人の方々にも、この2つを知っていただければと思います」。

 『共感』とは相手の感情を受け止めること。簡単なことのようだが、大切な家族や友人から『もう死にたい』と、ふとこぼされたら、思わず話をそらせたり、聞こえないふりをしたり、逆に、『そんなことを言うものではない』と叱責してしまわないだろうか。

 話をそらさず、無視もせず、叱責もしないで、「なぜそう思う?」と静かに聞いてあげて欲しいというのが内富氏のアドバイスだ。そして、その答えに対しても、良い・悪いの判断をしないで、気持ちに寄り添う姿勢を示すことで、患者は精神的に救われるという。

 また、『沈黙』も簡単そうで難しい。『もう死にたい』という家族や友人の言葉に、うまく、沈黙することができるだろうか。自分が今ここで沈黙することで、相手がもっと悲観的になりはしないか、もっと答えに窮する言葉を発しはしないかと恐れる気持ちが働きやすいものだ。『泣かれたくない』とか、『自分が泣く訳にはいかない』という気持ちも出るかもしれない。しかし、沈黙することで相手を傷つけることはない。逆に沈黙とは、「相手の気持ちを受け入れ、その気持ちに寄り添う時間」と内富氏はいう。

 相手を受け止める大切な時間として沈黙を大切にする。相手の言葉の背景にある辛さの原因を一緒に探し、その痛みを共感する。深い部分で相手を思いやる。そのプロセスが沈黙の時間であり、そのような沈黙の時間を共有することで、相手は癒やされる。

 あなたを信頼しているからこそ、『もう死にたい』という言葉があなたに向けられていることを忘れないで欲しい。

 「ご家族の方には、聞き上手になっていただければと思います。また、ご家族自体も大きなストレスを抱えていらっしゃいますから、話を聞いてもらえる人を持って欲しいですね」と内富氏。

 患者は、誰か(家族や友人、医療従事者など)に“辛い、苦しい、もうイヤだ、逃げ出したい”――何でもいいから、弱音を吐こう。

 そして、患者の家族や友人は、患者以外の誰かに愚痴を言い弱音を吐こう。ストレスは発すれば発散する。また、精神的ストレスを強く受けていると、自分で判断できた場合は専門家に相談することも検討してみよう。患者だけでなく、家族や友人が抱える精神的ストレスも医療者の診療対象に入っていることを忘れないで欲しい。

(小板橋 律子)

図1●精神的ストレスの簡単測定法
こころの状態を測定してみよう。この1週間の気持ちのつらさが4以上、日常生活の支障が3以上の場合には、精神的なストレスを抱え込んでいる可能性がある。

つらさと支障の寒暖計

国立がんセンター精神腫瘍学グループ(http://pod.ncc.go.jp/)より

●こんな症状が続く場合は精神腫瘍科外来へ相談してみよう
 ・眠れない
 ・やる気が出ない
 ・気分が落ち込む
 ・テレビや新聞などが楽しめない
 ・集中できない
 ・不安で仕方ない
 ・家族のことが心配である ―― など
国立がんセンター東病院の「精神腫瘍科外来のご案内」パンフレットより

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