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レポート

2008/5/13

増加する日本人の卵巣がん

ピルで卵巣がんを予防する!?

 ほとんどの先進国で卵巣がんが減少しているにも関わらず、日本では卵巣がん患者が増加している。卵巣がんが増加しているのは、先進国のなかで日本が唯一といってもいいほどだ。なぜ、日本人の卵巣がんが増加しているのだろうか。また、卵巣がんを予防する方法はないのだろうか? 最新の情報をレポートする。[5月21日に記事を一部訂正]


 今年1月、避妊薬ピルを長期間服用することで卵巣がんの発生が半減するという研究成果が国際的な学術論文誌Lancet(Vol. 371January 26 2008)に発表された。この研究は、21カ国で開催された45の研究結果を解析したメタ解析の結果であり、2万3000人以上の女性を対象にした大規模なものだ。

図1 経口避妊薬の服用期間と卵巣がんの発症リスク 服用期間が長いほど発症リスクは減少している

 その結果、ピルによる卵巣がんの発症抑制効果は、長期間継続するほど顕著となり、5年継続することで約3割、10年継続で約4割、15年継続では約5割まで、卵巣がんになる可能性を抑える効果があることが示された(図1参照)。

 同論文によると、全世界で1億人以上の女性が利用しているというピルにより、これまでに約20万人の卵巣がん発症が予防され、また、約10万人の命が救われたと推計されている。

 その一方で、日本におけるピルの利用は、閉経前の女性の2%程度と非常に少ない。そして、日本では卵巣がんの発症数は右肩上がりで上昇している。

 「卵巣がんの発症数の差に、ピルの普及の差が影響している可能性がある」と語るのは、奈良県立医科大学産婦人科学教授の小林浩氏。「卵巣は排卵のたびに、大きなストレスを受けます。このストレスにより卵巣がんが発生すると考えられています。ピルを利用すると排卵が抑制されるので、卵巣がストレスから保護されるのです」という。

 戦前、多産な日本人女性の初潮から閉経までの月経数は35〜40回のみ。少子化した現在に生きる女性の平均月経数は、一桁多い約400回だ。月経数の増加はある意味、女性の体にとって不自然な状態なのかもしれない。

 また小林氏は、「月経が増えた分、子宮内膜症にもなりやすくなります。我々の研究では、子宮内膜症の一部が卵巣がんになることが確認されました」と語る。すなわち、月経数の増加そのものが卵巣がんの発症リスクになるだけでなく、月経数の増加で生じる子宮内膜症を介しても卵巣がんが発症するというのだ。

奈良県立医科大学産婦人科学教授の小林浩氏
奈良県立医科大学産婦人科学教授の小林浩氏

子宮内膜症チョコレート嚢胞の約1%が卵巣がんに
 子宮内膜症と卵巣がんの関係を少し整理してみよう。子宮内膜症とは子宮以外の場所で子宮内膜が生育する疾患だ。子宮内膜症は現代病とも呼ばれ、月経を有する女性の約1割が子宮内膜症を持っているといわれている。

 小林氏らは、昭和60年から静岡県内で卵巣がん検診の結果を大規模に解析し、子宮内膜症に由来するチョコレート嚢胞の一部が、卵巣がん化することを見出した。チョコレート嚢胞とは、子宮内膜症が卵巣に生じたときに現れる、血液に由来するチョコレート状の液体が溜まった嚢胞をいう。

 同調査対象者のなかでチョコレート嚢胞を有していた女性は6398人。これらの女性を前向きに追跡調査したところ、そのうちの0.72%に当たる46人に卵巣がんが発症した。小林氏によると、海外の同様な研究では、約1%のチョコレート嚢胞が卵巣がん化したという報告もあるという。そのため、「チョコレート嚢胞の1%程度はがん化すると考えていいでしょう」と小林氏。「一般的に、卵巣がんの発症頻度は5000人から1万人に1人の割合であることを考えても、チョコレート嚢胞からの卵巣がん発生率は高い」(小林氏)のだ。

 ではなぜ、チョコレート嚢胞の一部が、卵巣がん化するのだろうか。

 小林氏は、「チョコレート嚢胞中には、血液由来の鉄イオンが溜まっている。この鉄イオンによる酸化ストレスが長年蓄積することで、細胞のがん化が引き起こされるのでは」と考えている。

 「チョコレート嚢胞から卵巣がんが生じるまでは、長い時間が必要」と小林氏はいう。実際、静岡県内の調査から、チョコレート嚢胞を持つ患者から卵巣がんが生じてくるまでには、平均10年間の経過観察後だったという。

 子宮内膜症によりチョコレート嚢胞が生じ、この嚢胞が毎月の月経で徐々に大きくなる。嚢胞内に溜まった鉄イオンにより、周辺の細胞は持続的な酸化ストレスを受け続ける。そして何年、何十年も経過した後に卵巣がんが発生する――これが、小林氏の考えている子宮内膜症からの卵巣がんの発生機序だ。

 子宮内膜症からは明細胞腺がんという種類の卵巣がんが発生すると小林氏。約20年前、日本人の卵巣がんのなかに占める明細胞腺がんの割合は5〜6%でしかなかったが、現在、卵巣がんに占める明細胞腺がんの割合は20%程度と明らかに増加している。

 ひと昔まで、子宮内膜症は閉経と共に治るといわれ、現在でも、子宮内膜症の治療を受けていない女性は大勢いる。しかし、小林氏らの研究から子宮内膜症、特にチョコレート嚢胞が卵巣がんの発症原因であることが示されたこと、子宮内膜症を原因とする卵巣がんが増えていることからも、子宮内膜症を放置せず、なんらかの治療を受ける必要があるといえる。

 では、子宮内膜症やチョコレート嚢胞を有する女性はどのような治療を受けるべきなのだろうか。

 「子宮内膜症の患者さんには、子供を産むとき以外は、内膜症の進行を止める効果があるピルの服用を勧めたい」と小林氏。

 小林氏らの研究では、チョコレート嚢胞が卵巣がん化した患者は、45歳以上で6cm以上の嚢胞を有していた場合、もしくは、年齢に関わらず10cm以上の嚢胞を持っていた患者であった。

 そのため小林氏は「チョコレート嚢胞を有する場合には、嚢胞が小さい場合には、ピルの服用を勧め、45歳以上で6cm以上のチョコレート嚢胞の場合、もしくは、年齢に関わらず嚢胞が10cm以上の場合には、現時点では嚢胞摘出術を勧める」という。

第4世代の黄体ホルモンの効果に期待
  また小林氏は、「第4世代のプロゲスチン(黄体ホルモン)に期待している」と力を込める。第4世代のプロゲスチンとは、子宮内膜症治療薬として、今年1月に発売されたジェノゲスト(商品名「ディナゲスト」)のことだ。

 現在、黄体ホルモンは第1世代から第4世代までに分類されている。第1世代は低用量ピルの「ルナベル」、「オーソM21」、「オーソ777-21」、「ノリニールT28」、「シンフェーズT28」に、第2世代は「トリキュラー21/28」、「トタイディオール21/28」、「アンジュ21/28」に、第3世代は「マーベロン21/28」に配合されている。そして第4世代が配合されているのはディナゲストだ。

 保険適応が認められるのは第1世代のルナベルと第4世代のディナゲストであるが、前者は「子宮内膜症に伴う月経困難症」、後者は「子宮内膜症」に対して適応がある。数々の研究により、ディナゲストは子宮内膜症の病巣に対して直接的に増殖と炎症反応を抑制することが確認されている。

 また小林氏は、「第4世代のプロゲスチンには、内膜症の進行を止めるだけでなく、縮小効果も期待できる」と力を込める。嚢胞が縮小すれば、卵巣がん化のリスクも減少するかもしれないというのだ。「ただし、ディナゲストがどこまで子宮内膜症を治療し卵巣がんの抑制につながるかは、今後のデータ収集が必要な部分」と小林氏。

 日本産科婦人科学会婦人科腫瘍委員会は、昨年4月から、子宮内膜症からの卵巣がんの発生と、何らかの治療(主には手術療法)によるがん化の予防効果を調べる大規模調査を開始している(関連記事)。

 現在を生きる女性には、不必要に多い月経にただ悩まされるだけでなく、“卵巣をストレスから守る”という発想が必要だろう。また、月経痛が強い場合は、子宮内膜症の有無の診断を受け、何らかの治療を受けることが現在のQOLのみならず、将来の卵巣がん予防につながることを覚えておいて欲しい。

(小板橋 律子)

卵巣がん
 卵巣がんは一般的には5000人から1万人に1人の割合で発生する。閉経前後が発症数が高まる大きなピークとなっており、40歳代の女性では、乳がん、子宮がんに続いて発症数が多い。
 卵巣がんは、大きく、漿液性がんと非漿液性がん(明細胞腺がん、類内膜腺がん)に分けられ、性質や発生機序も異なる。漿液性がんは、突然に発生し急激に増殖するが、抗がん剤が効きやすい。一方、非漿液性がん(明細胞腺がん、類内膜腺がん)は、比較的ゆっくりと発症し、抗がん剤が効きにくいという性質がある。チョコレート嚢胞からは、明細胞腺がんと類内膜腺がんが発生すると考えられている。

■訂正■5月21日に記事を訂正致しました。

訂正前の記事では、「第4世代のピルの効果に期待」としましたが誤りであり、「第4世代の黄体ホルモンの効果に期待」に修正致しました。また、効果を期待している薬剤として、治療用低用量ピル「ルナベル」を挙げましたが、ルナベルには内膜症を悪化させない効果があるのみであり、内膜症の縮小効果が期待されているのは、子宮内膜症治療薬として今年1月から発売されたジェノゲスト(商品名「ディナゲスト」)でした。訂正の上、お詫び申し上げます。

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