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レポート

2008/4/8

厚労省が未承認薬利用を公に容認

4月から開始された「高度医療評価制度」とは?

 今年4月、「高度医療評価制度」という新しい制度が誕生した。今回の制度により、個人輸入による未承認薬を用いた自由診療を保険診療と併用することが公に認められた。これまで厚生労働省(厚労省)は、未承認薬の個人輸入は医師と患者の自己責任として、ほとんど関与してこなかった。その厚労省が、新制度から未承認薬の管理に踏む込むことになる。この新制度の内容を吟味してみたい。



 日本では、健康保険が適用となる保険診療と保険が効かない自由診療とを組み合わせる、いわゆる「混合診療」は、原則として許されていない。そのため、治療の一部に国内で未承認の抗がん剤などを利用すると、治療費の全てを自己負担しなければならなかった。

 未承認薬を医師に頼って個人輸入した場合、薬剤費だけでも非常に高額だ。そのうえ、全ての医療費を自己負担するとなると、患者の経済的負担はふくれあがる。

 今年4月から創設された高度医療評価制度では、この点が改善された。高度医療に認定されることを条件に、国内で未承認、もしくは適応外の医薬品や医療用機器による診療を保険診療と一緒に受けられることとなった。全額自己負担となるのは、未承認薬の薬剤費やその投与に係る費用のみとなった。いわゆる混合診療が認められたのだ。

 高度医療の認定は、厚労省に新たに設けられる「高度医療評価会議」において行われる。ある程度の安全性と有効性が認められ、かつ、実施する医療機関が一定の条件を満たした場合に認定される予定だ。

 高度医療を管轄する厚労省医政局研究開発振興課によると、高度医療評価会議は月に1回程度の頻度で開催予定という。審議に時間をかけずに承認していく方針のため、4月に申請された場合、5月の会議で承認される可能性もあるという。

 高度医療として認められるためにはいくつかの条件を満たす必要がある。その条件とは、国内外の文献などで安全性と有効性に関する科学的な根拠(エビデンス)が示されていること、事前に患者や家族に対して治療の内容、合併症や副作用の可能性、費用などについて説明し、文書による同意が得られていること、院内の倫理審査委員会などにおいて認められていることなどだ。

 また、高度医療の実施医療機関として、特定機能病院など高度医療を実施するうえで必要な体制が組める病院を指定することとなった。厚労省は、特定機能病院以外でも緊急時の対応や安全対策に必要な体制を有していれば、指定していく方針としている。

 これまで厚労省は、未承認薬の個人輸入において、輸入監視のための書類提出しか求めてこなかった。それが新制度では、未承認薬の安全性・有効性の評価にまで踏み込むようになる。加えて、医療機関が適切に投与を行っているかなどの立ち入り調査も行うとしている。すなわち、これまでほとんど関与していなかった未承認薬の利用現場に、厚労省の監視が入ることになったのだ。これは大きな変化といえるだろう。

 未承認薬による自由診療を行っている医療機関のなかには、科学的に無意味な医療行為を高額で行うなど営利主義に走っている機関があると批判されるところがあった。厚労省の評価が入ることで、未承認薬の利用が科学的根拠に基づいて、より適正に行われるようになることを期待したい。

流通時の品質管理には問題が残る
 ただし、今回の枠組みでは解決されていない問題として、医師が未承認薬を個人輸入した場合の品質管理の問題があることも知っておいて欲しい。

 今回の制度では、医薬品や医療機器の入手法として、「医師の個人輸入もしくは自家製造」と明記されており、薬剤の入手は、医師が行うこととなっている。ただし、入手方法が適正かどうかを担保する仕組みがないのだ。

 がん治療への期待が高い抗体医薬などでは、適切な温度を保った状態で流通されなければ、薬剤の効果(活性)が落ちる危険性がある。論文上は有効性が認められ、厚労省が高度医療に指定した医薬品であっても、適切な流通プロセスで品質管理が行われていなければ、もしかしたら、あなたの手元に届いた薬品のなかの効力は薄れてしまっているかもしれない。

 厚労省の担当者も、「高度医療評価制度のなかでは流通プロセスまで管理できない。別の枠組みが必要になるのでは」と語るのみだ。

他の制度との整合性は?
 実は、今回の制度以外にも、未承認薬の利用に関連する制度が検討されている。厚労省は、どの制度を利用すべきか患者や医療者が混乱しないよう、各制度の利用方法を整理して示す必要があるだろう。

 未承認薬の利用に関する制度として既に動き出しているのは、生活保護受給者への未承認薬の供給制度だ(関連記事1)。厚労省社会・援護局は、生活保護受給者に対して、他に代替となる医薬品が存在せず、その未承認薬を利用しなければ生命の危険にさらされると個別に判断された場合に限り、未承認薬を供給することを決めている。この場合、医師が未承認薬を入手し、その費用を国が負担することとなっている。

 加えて厚労省医薬食品局は、未承認薬の供給に関する包括的な制度として、コンパッショネート・ユース(CU:人道的供給)制度を検討中だ(関連記事2)。こちらも、重篤な疾患で代替治療薬がない場合などのやむを得ない場合に、患者が未承認薬を利用できるようにする制度だ。同制度で製薬企業が未承認薬の供給に関与することが決まれば、流通時の品質管理への懸念は払拭されると期待したい。

ドラック・ラグの解消が最優先課題
 そもそも、新しい薬剤の承認に時間がかかりすぎるというドラック・ラグが問題。ドラック・ラグを前提に新しい制度を作るのではなく、ドラック・ラグの根本的な解決策が求められている

 高度医療制度、生活保護受給者への未承認薬の供給、コンパッショネート・ユース制度とも、ドラック・ラグに対する対症療法的な制度に過ぎない。ドラック・ラグを根本的に解決するためには、欧米並の速度で新薬の承認が可能な体制を日本に整備することが不可欠だ。厚労省には根本的な問題解決のために全力を投入してもらいたい。

(小板橋 律子)


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