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レポート

2008/4/1

広がるGIST治療の選択肢

もうすぐ利用可能になる新規分子標的薬スニチニブとはどんな薬?

 従来は手術以外に有効な治療方法がなかった消化管間質腫瘍(GIST)だが、分子標的薬イマチニブの登場により治療成績は格段に向上した。ただし、GISTはイマチニブ抵抗性を徐々に獲得することも明らかになり、これらの患者に有効な治療薬が必要となっていた。わが国でも、イマチニブ抵抗性GISTを対象に、分子標的薬スニチニブの承認が今年4月に正式に下りる予定だ。新しい治療薬であるスニチニブはどんな薬剤なのだろうか?



 世界のGIST治療をリードする米Harvard Medical SchoolのAndrew J. Wagner氏が2008年2月末に来日した。そして、GIST治療の最前線について、日本胃癌学会のランチョンセミナー「New Insights into Effective Treatment of GIST」(共催:ファイザー社)で詳細に語った。

 Wagner氏は、まず、イマチニブやスニチニブという分子標的薬が登場する前の進行性GISTの治療法を振り返った。当時は、手術による切除が唯一治癒の見込める治療法であったという。また、十分な効果が認められる抗がん剤治療もなかったため、再発した場合には手術を繰り返すしか手がなかった。しかし、手術を繰り返したとしても、転移が生じてからの無増悪生存期間(TTP)の中央値は1.5カ月、全生存期間の中央値は約18カ月と短いものであった。

 加えて1990年代後半まで、GISTの病理診断は難しく、平滑筋肉腫のような肉腫や良性の平滑筋腫と混同されることも多かった。つい最近まで、GISTの診断技術は確立しておらず、有効な治療法もなかったというわけだ。

 その後、GISTの腫瘍中に多く存在する分子マーカーとしてCD117(c-KIT)が見出され、診断に活用されるようになった。これにより病理検査によるGISTの判別が容易になったことや、さらにPET診断の普及により、米国では早期で発見されるGISTが増えてきているという。

C-Kit変異の発見から分子標的薬の実用化まで
 Wagner氏は、GIST診療において、おそらく最も重要な発見は、兵庫医科大学病理学教授の廣田誠一氏及び大阪大学医学系研究科准教授の西田俊朗氏らが1998年にScience誌に発表した研究成果だろうと語った。西田氏らの研究とは、GIST腫瘍中のC-Kitに変化(変異)が生じていることを示したもの。この変異があると、C-Kitのリン酸化が生じ、細胞のがん化につながることが示された。すなわち、がん化のスイッチのオン、オフに関わる部分を明らかにした研究だ。

 現在、GIST治療に用いられているイマチニブ(商品名「グリベック」)は、Kitの変異のうちで約76%と最も出現頻度の高い変異(エクソン11の変異)に結合する薬剤だ。イマチニブが結合することで、Kitのリン酸化が阻害され、細胞の増殖も抑えられる。

 同氏は、転移性GISTに対するイマチニブのフェーズ2臨床試験は画期的なものであったと振り返る。この臨床試験は、147人の患者を対象に行われた。その結果、薬物による抗腫瘍効果(RECIST判定による)は66%が部分奏功(PR)、17%が病態安定(SD)となり、臨床的な有効率は83%に上った。また、生存期間の中央値は約5年となった。イマチニブが登場する前の成績が19カ月であったことと比較すると非常に対照的な結果であった。

 手術を繰り返す以外に有効な治療法がなかったGISTにおいて、暗黒時代が終焉を迎えた瞬間といえよう。

 ただし、イマチニブは万能ではない。GIST患者の約2割はエクソン11以外にKitの変異があるため、最初からイマチニブの効果が期待できない(不耐容もしくは一次耐性という)。また、イマチニブを長期間投与した場合、患者はイマチニブ耐性を獲得してくる(二次耐性)。二次耐性の原因としては、新しい変異が生じてくることが多いという。

イマチニブに対する一次耐性、二次耐性を持つ患者のために、イマチニブに続くGIST治療薬が求められていたのだ。

マルチキナーゼ阻害剤のスニチニブが登場
 そこに登場したのが、複数のリン酸化酵素(キナーゼ)に対して阻害活性のある分子標的薬スニチニブ(商品名「スーテント」)だ。スニチニブは、イマチニブと比較して、より多くのチロシンキナーゼに結合する。

 スニチニブのイマチニブ抵抗性GISTに対する有効性は、300人以上を対象としたフェーズ3臨床試験において示された。スニチニブ群では4週間50mg/dayを連続投与した後、続く2週間は休薬というスケジュールでスニチニブの投与が行われた。また、プラセボ対照群で腫瘍増大が認められた場合には、スニチニブ投与へと切り替えが行われた。患者の登録期間は、2003年11月から2005年1月。

 臨床試験の中間解析の結果、プラセボ群の治療成功期間中央値が6週間と非常に短い一方で、スニチニブ投与群で約6カ月と有意に延長効果があることが明らかになった(文末の図1参照)。また、プラセボ対照群に対してスニチニブ投与への切り替え(クロスオーバー)が行われたにも関わらず、スニチニブ投与群の全生存率はプラセボ群に比べて有意に高く、ハザード比は0.49(95%信頼区間 0.29〜0.83)であった(文末の図2参照)。また、スニチニブ投与により部分奏功(PR)となった患者の割合は7%、6カ月以上に渡り病状が安定した患者(SD)は17%存在したという。

 この中間解析において、スニチニブ投与群の治療成功期間が有意に長いことが示されたため、この臨床試験は中断された。それほど、スニチニブはプラセボに比較して高い効果があった訳だ。

 また、イマチニブ投与に不耐容の患者は、スニチニブ群に9人、プラセボ群に4人存在したが、スニチニブ群の9人のうち8人がPRもしくはSDとなり、89%で臨床的な有効率が得られていた。スニチニブは、イマチニブ一次耐性の患者に対しても非常に高い有効性があることが示された。

スニチニブの副作用への対応は?
 もうすぐ、スニチニブはわが国の保険診療の枠組みの中でも利用可能になる。では、気になる副作用はどんなものがあるのだろうか。

 Wagner氏によれば、フェーズ3臨床試験に参加した米国人のなかで最も一般的に見られた副作用は、めまい、下痢、無気力だという。これらの副作用は、ほとんどの患者で見られたと振り返る。また、手や足の甲に水疱が生じる手足症候群も20%以下の発現頻度で生じており、高血圧や甲状腺機能低下症もスニチニブの副作用として見られたと語る。ただし、ほとんどの副作用は、休薬や減量により軽減し、重篤な副作用の発現率は10%以下であったという。

 すなわち、普段と異なる何らかの症状を感じた場合は、速やかに主治医に連絡し、投与量を調節してもらうことが肝要ということだ。

 また、Wagner氏が、米国で実施している副作用への対処法も参考になりそうだ。

 Wagner氏は、悪心については、薬を少量の食事と一緒に摂ることを勧めている。また、めまいが生じた場合には、休息を多く取ることを勧める。手足症候群については、ハンドクリームや低容量のステロイド軟膏を利用し、手足に怪我をしないよう注意を促している。また、家庭血圧計を用いて血圧のモニターをしてもらい、血圧が上昇してきた場合は、降圧剤の利用を勧めるという。

 スニチニブの投薬を受けている間は休息を多く取り、ハンドクリームを使って手足に怪我をしないよう注意する。また、家庭用血圧計を購入もしくはレンタルし、血圧の変化に注意する−−スニチニブの効果を最大限享受するために患者自身にもできることがある。ぜひ実践して欲しい。


(小板橋 律子)



図1イマチニブ抵抗性GIST患者を対象とした臨床試験ではスニチニブ投与により治療成功期間が約6カ月延長することが示された

図1


図2途中でスニチニブ投与に切り替えが行われたプラセボ群に比べてもスニチニブ群の生存率は有意に高かった

図1

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