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レポート

2008/2/5

評価尺度の開発が一歩前進

がん診療の質の「良し悪し」は、測れるの?

 がん診療が適切に行われているかを調べる手法として「評価指標順守率」の計測がある。これは標準治療として実施されるべき項目を評価指標として決めておき、それがどの程度守られているかを調べるものだ。そのためには、まず評価指標というモノサシを決めておかなければならない。この分野では米国などが先行していたが、このほど日本でも評価指標の開発が行われた。実際にこの指標を使ってがん診療の質を測り始める病院がたくさん登場することが期待される。



 1月23日、厚生労働省が資金を出した厚生労働科学研究のがん臨床研究成果発表会で、興味深い発表が行われた。国立がんセンターがん対策情報センター部長の祖父江友孝氏が主任研究者を努める研究班による「がん対策における管理評価指標群の策定とその計測システムの確立に関する研究」だ。いささか難しいタイトルだが、要するに、「がん診療の質を測るための評価指標(モノサシ)を開発した」というものだ。乳がん、胃がん、大腸がん、肝がん、緩和ケアの5分野については作成が完了。肺がんについても作成中で、2月末までには6分野が揃うという。

 がん診療の質を計る評価指標とは、いったいどんなものか。今回作成された指標から、乳がん、緩和ケアについて1例ずつ示そう。

・乳がん指標:乳房温存術を受けた70歳以下の乳がん患者のうち、術後8週間以内に放射線治療または化学療法が行われた割合
・緩和ケア指標:がんと新たに診断された患者のうち、疼痛の有無が診療録に記載されている割合

●分野別の評価指標数とその内訳
分野
指標候補数
選定指標数
選定指標分野別内訳
治療前評価
局所治療
薬物・併用療法
フォロー
乳がん
100
81
13
29
36
3
肝がん
34
25
5
12
1
7
大腸がん
61
46
10
22
6
8
胃がん
37
32
8
15
6
3
 
指標候補数
選定指標数
診断時評価
治療選択
説明と同意
フォロー
緩和ケア
75
28
5
10
9
4

 こうした評価指標を作成する手法として定評を得ているのが、米国のカリフォルニア大学ロサンゼルス校とランド研究所が共同開発した手順。今回もこの手法に従って作成された。まず、診療ガイドラインなどから候補となる指標を選び出す。そして、分野ごとに10人前後の専門委員が指標ひとつずつに関してその妥当性を評価し、合意が形成されたものを指標として採用するのだ。

 各分野で選ばれた指標の数と内訳は表のとおり。乳がんでは100の指標候補が吟味され、81が採用された。その内訳は、治療前評価が13、局所治療(手術、放射線など)が29、薬物・併用療法が36、フォローアップが3となっている。

成績比較による成績向上を期待
 今のところこの評価指標の使い方としては、次のようなやり方が想定できる。治療が終わった患者に関して、患者ごとに診療録を調べ、それぞれの指標が守られているかを○、×で評価する。診療録からデータを収集するため、診療情報管理士、薬剤師、看護師などをその任務につける。労力としては、1患者のデータを調べるのに1時間程度かかる。全国351カ所の地域がん診療連携拠点病院において、評価指標が使用されることが期待されている。

 こうした評価指標が多くの病院で計測されるようになり、データベース化されると、次のような、いわゆるベンチマーキング(成績比較)と呼ばれる仕組みを動かすことができる。例えば、先に見た乳がん指標の「乳房温存術を受けた70歳以下の乳がん患者のうち、術後8週間以内に放射線治療または化学療法が行われた割合」という指標で、全国の病院や個別の病院でどの程度標準が順守されているかが分かる。このように、指標別の順守率や全体の順守率が、全国平均と個別病院別に見ることができるようになる。データ集計に参加した病院には、全体の成績と当該病院の成績や順位を示した情報がフィードバックとして提供される。

 この研究の班員で、ランド研究所での研究参加経験もある国立がんセンターがん予防検診研究センターの東尚弘氏は、「米国では評価指標を決めて評価と改善活動を行うことが、診療の質を高めるために有効であるとの評価が固まりつつある」と語る。

 班長の祖父江氏は、「国のがん政策としてがん診療の均てん化(質の高い医療があまねく行われる)を目指しているわけだが、それを実現するには診療の質を計測し、改善の目安とする必要がある。評価指標の順守率を計測することは、均てん化のための有効な手段のひとつとなる可能性がある」と説明する。ただし、「診療の質のすべてが測れるわけではなく、一側面が把握できるだけということを理解しておくことが大切で、過剰な期待は禁物。限界も知った上で研究を進めるべき」と付け加える。

米国では評価指標を使った成績比較が進行

●米国「がん診療の質の全国推進活動(NICCQ)」の評価指標(乳がん、一部抜粋)
 
分野
評価尺度
1
病理報告 ステージ Iから III の乳がんの切除を行った場合 病理報告書に腫瘍のホルモンレセプターを検索し、その結果を記載する
2
診断 腋窩(えきが)リンパ節の切除を行った場合 最低6個のリンパ節を切除する
3
外科療法 新たに診断されたステージ Iから III の乳がんについて、乳房温存手術を伴う手術を行う場合 病理報告では、最終の手術結果について、断端が陰性か、がんが含まれているのは一部のみとの記載がある
4
薬物療法 新たに診断されたステージ I から III の乳がんで、腫瘍径1cmあるいはリンパ節転移がある場合 担当医は患者と、化学療法を行う可能性について話し合う
5
薬物療法 50歳未満で新たに診断されたステージ I から III の乳がんで、腫瘍径2cm以上あるいはリンパ節転移がある場合 最後の手術の8週間以内に補助化学療法を受ける
6
薬物療法 化学療法を行う場合 予定される投薬量(どのくらいの量を何コース行うか)が診療録に記載される
7
放射線療法 乳房切除術を行った患者で、以下のいずれかが該当する場合、
1)切除切片の境界が癌陽性、
2)腫瘍径>5cm、
3)4つ以上のリンパ節転移がある、
4) T4病変
放射線治療を行う
8
放射線療法 乳房切除術を行った患者で、以下のいずれかが該当し、放射線治療を行う場合、
1)切除切片の境界が癌陽性、
2)腫瘍径>5cm、
3)4つ以上のリンパ節転移がある、
4) T4病変
全胸壁に45〜50.4Gy(グレイ)の照射を行う
9
患者支援 ステージ Iから III の乳がんで、治療方法の第一選択として乳房切除術を行う場合 乳房切除術を行う前に、乳房温存術と術後放射線療法を行うか、乳房切除術を行うか、という選択肢について説明する
10
患者支援 ステージ Iから III の乳がんで、乳房切除術を受ける場合 乳房切除術を行う前に、手術後乳房再建を行うという選択肢について説明する
注:国立がんセンター東尚弘氏が翻訳したものを、編集部が一部改変し抜粋

 米国では米国臨床腫瘍学会(ASCO)がこうした評価指標の開発に早くから取り組んだ。2000年に「がん診療の質の全国推進活動」(National Initiative for Cancer Care Quality=NICCQ)を開始、5つの都市で乳がんと大腸がんに関して、多数の症例に関して診療録を調べて評価指標順守率を計測した。右の表はその際に使用された指標の例だ。この調査の結果はASCO年次総会などで発表されてきた。この調査は一回限りだったが、その延長線上で「質の高いがん診療推進活動」(Quality Oncology Practice Initiative=QOPI)が始まった。これは、病院や医師が自主的に参加して自分たちの診療における評価指標順守状況を、データベースに登録するものだ。2007年秋の時点では、57の評価指標が使用され、145の診療グループが約1万3000症例のデータを提出した。

日本でがん診療の質計測は広がるか?
 今後、日本ではがん評価指標はどのように発展する可能性があるのだろうか。現在、がん診療の質はいくつかの視点から評価されようとしている。ひとつは、院内がん登録による生存率データだ。これは、がん拠点病院などでがん患者の治療後の経過を追跡し、がんの種類・病期別に3年生存率や5年生存率を出すものだ。もう一つは、DPC(s診断群分類)による診療報酬包括払いのために、病院が集計しているデータを活用し、手技、投薬、在院日数などの状況を把握しようとするもの。そして、今回のテーマである評価指標順守率がある。それぞれの指標には長所と短所があり、いずれか一つではがん診療の質の一面しか表さない。だからこうした複数の手法によって出される結果を総合的にみて、病院を評価していく必要がある。

 今回開発された評価指標について、試行的なデータ収集が始まっている。今後、どれぐらい全国に広がっていくかが注目される。また、県単位の動きも着目点だ。国の施策として、県が患者に施設選択に役立つ情報提供を行う方針が打ち出されている。愛知県、広島県などは、がん拠点病院の5年生存率を公表する方針を、県がん対策推進計画で決めている。がん診療の質を県民に示すということになれば、評価指標順守率も有効な手段として浮上する可能性がある。県内のすべてのがん拠点病院において評価指標順守率の計測を開始する県が出てくることも期待される。こうした取組みをする病院や県の姿勢を、患者や患者団体が評価するようにもなってくるだろう。

(埴岡 健一)


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