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レポート

2008/1/22

ユタ州では、地域をあげたキャンペーンが奏功

米国一のがん計画はどこ?

 米国各州のがん対策計画は、どのように作られているのだろう。また、どの州の計画が優れているのだろう。そして、計画の評価はどのように行われているのだろうか。米国各地のがん対策計画を統括しているのは、米国国立衛生研究所疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention, CDC)の包括がん対策室(Comprehensive Cancer Control Branch)だ。
 このほど、同室長のキャロル・フリードマン氏と、科学支援臨床応用チームのリーダーであるリサ・リチャードソン氏が、厚労省の研究班「自治体におけるがん対策の現状分析とマネジメントシステムの構築支援に関する研究」(主任研究者:国立保健医療科学院疫学部長、今井博久氏)の招きで来日した。日本の都道府県のがん計画作りが進行している今、米国のがん計画の作成や評価の方法を聞いておくのも意義深い。



米国国立衛生研究所疾病管理予防センター・包括がん対策室室長のキャロル・フリードマン氏と科学支援臨床応用チームリーダーのリサ・リチャードソン氏

米国国立衛生研究所疾病管理予防センター・包括がん対策室室長のキャロル・フリードマン氏(右)と科学支援臨床応用チームリーダーのリサ・リチャードソン氏

Q:「包括がん対策計画(Comprehensive Cancer Control Plan)(以下、包括計画)」とは何ですか?

A:予防から早期発見、治療、リハビリテーション、緩和医療までの対策を通して、がんの罹患から死亡までを減少させるための、統合的で連携した方法論のことです。米国では州や地域ごとに、この包括計画の考えにのっとってがん対策が策定されています。現在50の州、ワシントン特別自治区、7部族組織、7領土の合計65カ所で、包括計画が作成されています。

Q:包括計画は、どのように広がってきましたか?

A:CDCはこのような包括的なアプローチを1994年に始めました。98年に最初の6つの包括計画がスタートしました。そして2005年には、すべての州に達したのです。

●米国包括がん対策計画の歴史
内容
1994 包括がん対策への取り組み開始
1996 包括がん対策方針の決定
1998 6カ所で包括がん対策計画がスタート
2001 14カ所が追加
2002 包括がん対策計画の指針公表
2005 50州すべてで包括がん対策計画実施
2006 包括がん対策計画を管理する包括がん対策室を設置
2007 包括がん対策計画、新規5カ年計画を発表

Q:米国は州の自治が強いですが、州が包括計画を策定する際に、連邦政府は何を決め、州政府は何を決めるのでしょう。「計画はこのように作らなければならない」という決まりのようなものがあるのですか?

A:州が主体的に包括計画を策定します。米国では1971年に米国がん法が成立しましたが、実は、連邦政府ベースの米国包括がん対策基本計画はありません。州や地域別に包括計画が作られているのです。連邦政府は2002年に作成した「包括がん対策計画策定のための指針」を示しているだけです。これは緩やかな指針であり、連邦政府はガイドをしても処方せんを出すことはありません。包括計画のビジョンを示し、計画を記述する際の枠組みに関する最低限の要件を決めています。この内容に沿っていれば、連邦政府(CDC)は審査のうえ、州と契約を締結して補助金を出します。もっとも、州によって実力には差があります。自力でどんどん作成するところもあれば、いろいろ支援やアドバイスを求めてくるところもあります。CDCは求められるならば、サポートをします。

Q:がん計画作成を支援するサイト「がん対策プラネット(Cancer Control PLANET)」を提供していますね。

A:はい。米国がん研究所(NCI)、米国がん協会(ACS)、米国外科学会がん委員会(COC)などと共同で作成したものです。包括計画を作成する際のサポートをしており、ここにある5つの手順に従うことで、良い包括計画を作ることができます。最初に計画を策定するとき、実施計画を策定するとき、計画を評価するとき、いずれの際にも役に立ちます。

Q:包括計画に対して連邦政府が出している補助金の額はどのくらいですか?

A:包括計画には計画策定段階と実施段階がありますが、前者にはおおよそ10万〜20万ドル(約1100万〜2200万円)、後者には20万〜30万ドル(約2200万〜3300万円)が補助されます。計画策定の費用はだいたいこの予算の範囲内に収まるはずです。実施段階では普及啓発や広報などに大きな費用がかかり、連邦政府の補助は州が必要とする予算の一部でしかありません。州の大きさや活動によって、連邦政府の補助金が占める割合はまちまちで、8割ぐらいに達するところから、15%ほどに過ぎないところもあるでしょう。

Q:CDCの包括計画にかかわる組織の大きさと予算はどれぐらいですか?

A:包括的がん対策室(Comprehensive Cancer Control Branch)には約30人のスタッフが配置されています。各州などの窓口である「計画評価連携チーム」、調査研究をする「科学支援臨床応用チーム」、教育訓練などをする「研修コミュニケーションチーム」の3つに分かれています。室の基本方針は「がんの負担を減らすことを目的に、がん対策の優先事項を明確にし、有効な解決策を推進し実行するために、多くの立場を代表する者と協働する」です。予算は2002年度には435万ドル(5億円弱)でしたが、2007年度は1584万ドル(約17億円)です。かつては順調に伸びた予算ですが、このごろは横ばいになっており、資金の確保がだんだん難しくなってきています。

Q:各州のがん計画をどのように評価、採点していますか?

A:最初から包括がん対策計画がどうあるべき、どんな計画が優れているといった尺度を明確に持っていたわけではありません。手探りで進みながら、その評価方法を発展させてきています。基本的に、包括がん対策計画に応募したところで、審査で落とされるということはありません。承認までにCDCと州が意見交換をすることはありますが、落選というのはないのです。まずは、広く包括がん対策という考え方を広めていくことが大切です。しかし、一方で連邦政府が補助金を出している以上、しばらくすれば、包括がん対策というやり方の費用対効果も問われるようになります。柔らかだった評価を徐々に明確なものにしていくつもりです。ただし、包括がん対策という精神や方針にマッチした評価の仕方が重要です。治療成績や検診率などは評価がしやすいですが、がん対策計画が優れているかどうかを計測することはとても困難なチャレンジです。

Q:具体的にはどのような評価尺度があるのですか?

●実施計画の評価尺度と配点(100点満点)
□現況と必要性【5点】
・年齢別・性別・人種別などに、罹患率や死亡率を含めて記載。がん対策の実績、がん対策に関する既存の資源などについて記載
□地域連携協力体制【20点】
・地域全体にわたる連携協力体制を詳述(5点)
・がん計画に役立てられる立法措置や連携相手からの資金調達などに関する記載(5点)、
・少数民族などに関する記載(5点)
・乳がん子宮がん早期発見プログラム、がん登録、タバコ対策などの記載(5点)
□運営計画【15点】
・組織図、人員役割分担表、専任コーディネーターの配置を含む運営計画の作成(5点)
・連邦政府補助金を含む資金管理計画を記載(5点)
・対内、対外両面の広報と情報交換のシステムを記載(5点)
□実施計画【20点】
・実行について詳細な実施計画を作成。初年度達成目標、進捗管理計画、効率測定尺度、活動評価尺度などを含む
□包括がん対策計画【20点】
・がんの現況の評価、短期・長期目標の設定、計測可能な評価尺度、参加協力者の評価方法、予防からがん経験者対策までの広い対策などの包括性(10点)
・計画策定のプロセスに関して、参加者と個々の役割を含めた記載、必要な際の計画見直しプロセスの記載(5点)
・推進責任者や優先事項決定プロセスの記載(5点)
□共同基金財源【10点】
・連邦政府補助金以外に関して、初年度の資金提供者と予想金額の詳細を記載
□支援協力誓約書【10点】
・連携協力先からの支援協力誓約書の添付

A:策定段階と実施段階それぞれに関して、審査の際の評価尺度を設けています。多くの州が計画段階を経て実施段階に入っています。効果を生むものにするためにも、実施計画の評価を深めていくことが重要だと認識しています。(参照:右の評価尺度の表)

Q:州の包括がん対策計画がうまく実施され成果を上げていくための条件には、どんなことがありますか?

A:重要なのは、州の計画を統括する人が異動せずに継続的に取り組むことです。情熱、使命感、信念をもってやるリーダーが、じっくりと腰を落ち着けて取り組むことが、地域を動かし、成果に結びつく道を切り開きます。がん対策が進もうとしていると感じる地域の多くでは、そのような人物を頭に浮かべることができます。一方で、担当者がしばしば変わるところでは、担当者が包括計画の考え方から新たに学ぶことになり、進展のペースが落ちることになりがちです。計画の良し悪しも重要ですが、人の要素も大きいのです。

Q:どこの州の包括計画が優れているのでしょう。具体的に教えていただけますか?

A:CDCとしての評価を述べるのは差し控えますが、米国でよく知られている成功事例をご紹介しましょう。それはユタ州の取組みです。ユタ州では、がん対策にかかわる多くの当事者が協働して、ユタがん対策行動ネットワーク(Utah Cancer Action Network、UCAN)を形成し、包括計画を作成し、推進しています。がん検診を受けることを勧める大きな継続的キャンペーンを、テレビ、ラジオ、新聞などマスコミを活用して2年間繰り広げました。住民アンケートで「このキャンペーンを覚えていますか」と尋ねたら、ほとんどの人が記憶していました。メッセージが住民に到達していたのです。実際、大腸内視鏡検査を実施する人が2000年の32.1%から2005年には51.9%に増えたのです。私たちはこうした成功事例を広めることを奨励しています。

Q:州によってがん対策の取り組みや成果に格差が生じると思います。それにはどう対処しているのですか?

A:まず、包括がん対策室として州をサポートしています。10人弱の計画評価連携チームがありますが、それぞれの担当者が3〜5州ずつを担当しています。例えばSという担当者は3つの州を分担しています。彼女はそのうちのA州が活発でB州がいまひとつ元気でなかったとすると、B州にA州の事例を紹介したり、A州とB州がいっしょにイベントをすることを勧めたりします。優れた州のレベルに近づけていくのが任務です。がん対策に関しては、各州の現場担当者には「きっちりやりたい」という意欲や仕事への忠誠心が高いのです。欠点を非難するのでなく、やる気を引き出すように支援することが大切です。成功事例の情報を提供し、進め方のアドバイスをし、連携を生むためのコーディネートをする。そうしたことが当室の担当者の任務となっています。

 また、年に一度、CDCの本部があるジョージア州アトランタ市で、包括計画担当者が全米から集まって年次大会をします。2日間の日程ですが、新任担当者は前日に来て1日の新任講習を受けます。年次大会では事例発表や研究発表も行われます。さらには2カ月に1度、定例の1時間半の全米電話会議を実施しています。質問はいつでも受け付けています。州の担当者同士が直接いろいろな情報交換をすることも行われています。

Q:すぐれた事例を横に広げていくことが重要ですね。先行する高いレベルの州にみんなが追いつくと、全国がよくなる。

A:そのためのベンチマーク(成績比較)の仕組みを導入することを検討しています。評価尺度を決めておき、それに従ってそれぞれの州の包括計画を評価します。全国集計したうえで、それぞれの州に全国平均値とその州の成績をフィードバックします。すべての州の成績は公表しません。全国平均と自分の位置が分かるだけです。ただし、自州の成績を開示したり、州同士が互いの成績を交換することは自由です。こうしたベンチマークと呼ばれる成績比較システムを作ることで、全州のレベルの底上げにつながるのではないかと考えています。このための評価シートを作成中で、3月から試験運用を始める予定です。本格運用は2009年から実施したい。

Q:日本では現在、都道府県がん対策推進計画を策定しているところで、今後、計画の実施と進捗管理が始まることになります。何かアドバイスはありますか?

A:手当たり次第にいいと思うことをやっていくというアプローチには賛成できません。しっかりと組み立てを考えておくことが必要です。例えば50も目標を設置するのではなく、5つ程度に優先事項を絞ります。その際、実行すれば効果が出ると想定されることを選びます。それを選ぶ際には、データと証拠に基づいて論理的に選ぶことが大切でしょう。まず、統計データを見て、地域において大きな負担となっているがんは何か明確にします。例えば喫煙率が高い地区では喫煙率削減がテーマになりうるでしょう。肝がんの罹患率が高い地域ではそれを重点事項にする選択肢もありますね。重点項目を決めたら、部分的な対策ではなく、一貫した取り組みが必要です。検診をして、疑いのある人には精密検査をして、がんと分かれば正しい診断をして、質の高い治療をする。切れ目のない対策をしなければ、がんの死亡の削減という結果には結びつかないのです。

(聞き手:埴岡 健一)

〔参考サイト〕
米国包括がん対策計画集(全50州の計画など)
グループ・ネクサス「都道府県がん対策推進計画─策定の進捗状況および内容」

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