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レポート

2008/1/15

静岡県、島根県、兵庫県などが有力候補

日本一のがん計画はどこ?

 地域のがん診療のレベルを左右することになる「都道府県がん対策推進計画」の策定作業が佳境に入ってきた。パブリックコメント(住民への意見募集)もラッシュの状態。前回のリポートで12県の計画素案を読んで、県計画の内容に大きな格差があることを指摘した。今回は、それから閲覧可能となった1都5県の計画を加えて検討する。都道府県がん対策推進計画のベスト1、ワースト1はどこになるのだろう。自分の住んでいる地域の計画のレベルはどうなのか。



 2007年12月25日のがんナビリポート「12県の『がん計画』を読み比べ」では、47都道府県のうち12県の「都道府県がん対策推進計画(以下、県がん計画)」を読み、その中から優れていると思われる施策を見つけ出して紹介した。その後も、県がん計画がウエブ上で閲覧可能となるところが続いた。今回はさらに群馬県、埼玉県、東京都、静岡県、山口県、長崎県の6県(1都5県)分を読んでみよう(末尾のリンク集参照)。

各地でがん対策推進計画を検討する会議が開催されている(東京都がん対策推進協議会の開催風景)
各地でがん対策推進計画を検討する会議が開催されている(東京都がん対策推進協議会の開催風景)

 この中で、もっとも斬新さを感じさせるのが静岡県の計画だ。まず、基本理念が新鮮だ。(1)医療関係者や行政だけでなくがん患者や家族も含めた全ての県民が参加する推進計画とする(2)「疾病管理」の視点から、健康状態の良い人、高齢者を含む高リスク群、がんと診断された者、再発したがん患者など、ライフステージやがんの進行度などそれぞれの県民の状態に応じたきめ細やかな対策を充実させる(3)診療所からがん診療連携拠点病院まで、医療連携体制の充実を図る(4)「がんの社会学」の視点から、市町を核とした地域における医療機関、行政、関係機関・団体などの連携・協働を推進する(5)がん医療従事者の充実を図る。特に、がん患者の気持ちが理解できるがん医療の従事者を育成する――の5点を挙げている。

 (2)にある「疾病管理」には、「ある集団における一つの疾患を対象に、医療提供者、行政、住民などが協働して、予防、診断、治療、ケアを切れ目なく行い、その集団の健康、疾患の治癒率、患者の生活の質、医療経済的合理性などを最善の状態に保つための手法」と説明の注釈が付いている。これまでの医療制度や慣習に捉われずに、がんを征圧するために考え方を根本から変えていこうという姿勢が表れている。

 「がんの社会学」は、「がん患者・家族の視点を重視しながら、医療提供者のみならず、行政を含む社会の様々な資源の活用を図り、がんの克服と患者・家族の生活の質の向上を目指す研究領域」とある。静岡県立静岡がんセンターの総長・山口建氏が主任研究者を努める厚生労働省の「がんの社会学に関する合同研究班」がここ数年、がんの社会学を研究してきた。その成果の一部が、静岡がんセンターのホームページにある「Web版がんよろず相談Q&A」や各種の患者・家族向けの冊子などにも結実している。班会議には20ぐらいの患者団体も参加してきた。こうした視点を継続的に全県で取り入れていくのだろう。

誰が実施するのか、主語を明確化
 静岡県の県がん計画はリズム良く読める。なぜだろう。それは、現状分析は省き、やるべき対策を27分野65項目にわたって簡潔に列挙してあるからだ。それだけではない。特筆すべきことは65項目すべてが例外なく「県は」「がん診療連携拠点病院は」などと冒頭に「主語」を置いて書かれている。それぞれの対策の推進主体、責任主体が明らかだ。

 個別項目においても「成人喫煙率の半減」「がん診療連携拠点病院の化学療法の標準化と質の向上」「がんに関するリハビリテーションの整備」「小児・若年のがん患者・家族支援のための情報提供」「がん拠点病院の緩和ケアチームに精神腫瘍科医師などによる精神心理的支援を充実」「がん患者の研究の推進」などを盛り込んだ。

 その他の県の計画を読み進めよう。群馬県は、個別目標に「成人喫煙率の半減」を入れた。山口県は、臓器別対策として、5大がん(肺がん、胃がん、肝がん、大腸がん、乳がん)と子宮がんに関して、がんの種類別に対策を記述した。また、がん登録については、院内がん登録実施医療機関(現在19機関→2011年30機関)、地域がん登録の登録届出件数(現在6781件→2011年10000件)などの数値目標を設定した。

 長崎県は離島が多いが、現在6カ所あるがん拠点病院と4カ所の「離島中核病院」の連携により全県のがん医療の均てん化(あまねく質の高い医療を提供する)を実現する考え。在宅医療については、全国的にも注目されている長崎市などの「長崎在宅Dr.ネット(以下、ドクターネット)」のモデルを、全県に広めるとした。

 ドクターネットは、長崎市の在宅医療に熱心な医師13人で2003 年3月に発足。訪問診療を行う開業医である「連携医」、眼科や皮膚科など専門診療で相談役となる「協力医」、病院勤務の病院医師などから構成されている。在宅医を探している患者の情報がドクターネット事務局に入ると、事務局がメーリングリストにその情報を流す。それを見た連携医が名乗りをあげ、先着順で主治医が決まる。副主治医も決めるのが特色で、主治医が不在のときにバックアップの役目をする。

 ドクターネットとがん拠点病院の連携が進んでいる。メンバーの医師が長崎市内のがん拠点病院の緩和ケアチームカンファレンスに参加。病院の医師と開業医が一緒に緩和ケア対象の患者の症例を個別に検討し、在宅が候補となる患者にはできるだけ早くその選択肢を説明するようになっている。この方式は、他の地域でも比較的容易に取り入れられる方法として注目されている。

 東京都の計画は全体に低調で、創意や工夫があまりうかがえない。そんな中で、前回のリポートでも触れた「東京都認定がん診療病院の整備(国のがん拠点病院以外に都が独自に拠点病院を指定)」と「ピアカウンセリング事業(がん経験者など患者関係者が、患者や家族の相談に乗る)」が、注目点となっている。

県計画とパブコメの定点観測サイトも登場
 県がん計画の素案の公表とパブリックコメント(住民への意見募集)は、もうしばらく続くが、こうした状況の中で起こっている興味深いトピックをいくつか紹介しよう。

 悪性リンパ腫のがん患者団体であるグループ・ネクサスは、全都道府県のがん計画の策定状況を調査し、「都道府県がん対策推進計画──策定の進捗状況および内容」にとりまとめて、ウエブで公開を始めた。ここから各県のがん計画が読めるだけでなく、パブリックコメントの実施状況も分かるようになっている。計画の公表に従って、随時、更新をしていくという。

 これを作成した狙いを、ネクサス理事長の天野慎介氏は「県のがん対策の計画の内容が、その地域の患者さんの療養環境に大きな影響を与えることになる。各地の患者さんや市民に、自分たちが住む地域の計画の内容を知ってもらい、意見を述べる機会も提供することが大切と考えた。また、このページを活用してもらえば、他県でも独創的で有効と思える施策が出てきていることや、県による施策の格差が生じていることも、分かってもらえるだろう」と説明する。

 仙台市では、2008年1月9日に県がん計画に患者の声を反映させようと、「意見を募る会」が開催された。婦人科がん患者会「カトレアの森」の郷内淳子氏(宮城県がん対策推進協議会の患者関係者代表委員)らが企画したもので、がん対策への患者や家族の意見を集めようという趣旨。17人が参加して一人ずつ意見を述べた。「患者の悩みを気軽に相談できる仕組みがあるといい」「情報を早く上手に見つけるための支援があるといい」といった声が出た。主催者はこうした意見を発言者の承諾をえて、県が1月15日まで募集しているパブリックコメントに提出した。郷内氏は「できるだけ多くの意見を集めて、よりよい計画にしていくことが大切」と語る。当日は地元のマスコミも取材に来て、地元テレビ局で報道され、翌日の朝刊にも記事が掲載された。県庁担当者からは、計画のPRをし県民参加を促進したと、感謝されたという。

患者委員の声で、全体目標をアップ
 島根県では、2007年12月27日に開催された「第3回がん対策推進協議会」に提出された県がん計画案にちょっとした異変が起こっていた。12月10日の第2回がん対策推進協議会に出された素案段階では、がん死亡率の目標が男女とも「10年間で20%の削減(75歳未満、年齢調整済数値)。5年間で14%削減」だった。それが27日時点の案では、「10年間で男性26%、女性20%の削減。5年間で男性20%、女性14%の削減」となっていた。男性に関する目標が上げられたのだ。

 これは、島根県がん対策推進協議会の患者代表委員である納賀良一氏(島根県益田市の「がんケアサロン」の代表)が、「島根県のがん死亡率が全国平均より高いのに、全国並みの目標では、島根のがん診療が改善したとはいえないのではないか」と提言したからだ。島根県庁のがん対策担当官である村下伯氏に、そうメールを送った。村下氏は「計画策定の過程で委員の意見をできるだけ尊重するというのが島根県のスタンス。全国平均の死亡率に追い付くべきということは同感だったので、県庁内で調整し案の目標を修正した」と語る。患者委員の意見がきっかけで、全体目標が上乗せされたのは画期的なことだ。納賀氏は県内の患者支援に参加し、以前から頻繁に村下氏ら県庁担当者と意見交換をするなど、濃密なコミュニケーションを維持し、信頼関係も築いてきた。そうした素地があってこそ、今回の全体目標修正が可能になったのかも知れない。なお、素案の変化は、「島根県がん対策推進協議会」のウエブサイトにおいて、たどることができる。

あなたが選ぶベスト1、ワースト1は?
 前回と今回で合計20県(1都19県)の県がん計画を読んできた。では、計画として一番優れているのはどの県のものだろうか。逆に、内容が劣るのはどこのものか。自分が住む県の計画はどのあたりに位置づけられるだろう。客観性を得るためには、計画の枠組み、全体目標、個別目標、進捗管理など評価項目を決め、項目ごとの配点も設定し、複数のメンバーで採点することもできる。

 ここでは、記者が20県分を読んで印象に残った3県を挙げておこう。静岡県は、理念の高さ、計画の明確な記述スタイル、個別計画に斬新な項目を多数入れたことで、ひとつのモデルを示していると思う。島根県は、委員との対話の姿勢を示し、計画の中に施策項目と当事者の役割分担表を入れ、数値目標を多く盛り込み、中間期間の目標も決めたことなど、参考になることが多い。兵庫県は、全体目標(死亡率削減目標)を独自設定し、がん病院ネットワークの新構想を打ち出し、300チームの活動で12%の在宅看取り率を達成するという在宅緩和ケアの数値目標を設定し、震災地の経験を活かしてボランティアも活用してがん対策の普及啓発を進める考えを盛り込むなど、国の計画に捉われずに自力で地域のがん対策を構築していこうという意志を感じることができた。

 さらに、独自性の高い計画構成とした神奈川県、医療スタッフの配置目標を詳細に決めた愛知県、ユニークな施策が目立った鹿児島県、がん検診率目標を70%とした宮城県なども注目に値するだろう。一方、期待外れだったのは東京都の計画内容だ。上記の静岡県、島根県、兵庫県などに見られた利点はほとんどうかがえない。その人口の多さ、がん死亡率が全国平均より高い点、全国から注目される立場であることなどからすると、高い評価を得ることは難しいだろう。他にも創意工夫がうかがえない県はかなりの数あった。

 近日中に他の県の素案も続々と公表される。パブリックコメントも進む。素案から成案までに改訂される案も出てくるだろう。読者それぞれが、自分の好きな県がん計画を見つけ、自分の住んでいる県の計画と比べるのも興味深いだろう。しばらく、県がん計画ウォッチングの季節が続く。

(埴岡 健一)

〔参考サイト〕
グループ・ネクサス「都道府県がん対策推進計画─策定の進捗状況および内容」

■県がん計画リンク集(パブリックコメント募集リンク集)
【岩手県】
岩手県がん対策推進計画(素案)(521.26KB)
【福島県】
福島県がん対策推進計画(案)(460.50KB)
パブリックコメント(終了)
【宮城県】
宮城県がん対策推進計画(素案)(132.58KB)
パブリックコメント(実施中:2008年1月15日まで)
【群馬県】
群馬県がん対策推進計画(案)(482KB)
パブリックコメント(実施中:2008年2月8日まで)
【埼玉県】
埼玉県がん対策推進計画(案)(3103KB)
パブリックコメント(実施中:2008年1月25日まで)
【東京都】
東京都がん対策推進計画(案)(708KB)
パブリックコメント(終了)
【神奈川県】
「がんへの挑戦・10か年戦略」の改訂(「神奈川県がん対策推進計画(仮称)」)素案(2.40MB)
パブリックコメント(実施中:2008年1月16日)
【静岡県】
静岡県がん対策推進計画案概要(524KB)
パブリックコメント(実施中:2008年1月28日まで)
【岐阜県】
岐阜県がん対策推進計画(案)(1.71MB)
パブリックコメント(実施中:2008年1月15日まで)
【愛知県】
●愛知県がん対策推進計画(案)
(下記ページにあり)
パブリックコメント(実施中:2008年1月18日まで)
【兵庫県】
第3次ひょうご対がん戦略推進方策(兵庫県がん対策推進計画)(案)(1.41MB)
パブリックコメント(終了)
【島根県】
島根県がん対策推進計画(案)(811KB)
パブリックコメント(実施中:2008年2月8日まで)
【山口県】
山口県がん対策推進計画(仮称)骨子案(3MB)
パブリックコメント(実施中:2008年2月4日まで)
【徳島県】
●徳島県がん対策推進計画(素案)(リンク終了)
◎パブリックコメント(終了)(リンク終了)
【香川県】
香川県がん対策推進計画(案)(707.28KB)
◎パブリックコメント(リンク終了)
【熊本県】
熊本県がん対策推進計画(素案)(1.11MB)
パブリックコメント(終了)
【長崎県】
●長崎県がん対策推進計画(案)
表紙・目次 P1〜P2(19KB)
はじめに P3〜P4(29KB)
第1章 がん対策の現状とこれまでの取組 P5〜P14(566KB)
第2章 計画の基本方針、全体目標 P15〜P16(21KB)
第3章 分野別取組と個別目標 P17〜P37(74KB)
がん対策目標一覧表 P38〜P39(635KB)
パブリックコメント(実施中:2008年1月22日まで)
【鹿児島】
●鹿児島県がん対策推進計画(案)(リンク終了)
◎パブリックコメント(終了)(リンク終了)

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