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レポート

2007/12/25

12県の「がん計画」を読み比べ

他県の創意工夫と好事例に学ぼう

 47都道府県で「がん対策推進計画」の策定が進行中だが、多くの県が続々と「素案」を公表しており、その内容を知ることができるようになってきている。インターネット検索で見つけた12県の素案を読んでみた。がん対策に関して、たくさんの創意工夫と好事例がある。県民への意見聴取(パブリックコメント)も進行中だ。他県の計画を参考に、さらに地元のがん計画をブラッシュアップしたいものだ。



 今後の各都道府県のがん対策やがん患者の闘病環境を左右する「都道府県がん対策推進計画(以下、県がん計画)」は、どのような内容になろうとしているのだろうか。インターネット検索によって岩手県、宮城県、福島県、神奈川県、岐阜県、愛知県、兵庫県、島根県、徳島県、香川県、熊本県、鹿児島県の12県の素案(末尾のリンク集参照)を入手し、読んでみた。すると、がん対策に関するたくさんの好事例(ベストプラクティス)が見つかった。それを順次、紹介していこう。

ウエブで見つけることができた12県のがん対策推進計画の素案を読んでみた・・・

ウエブで見つけることができた12県のがん対策推進計画の素案を読んでみた・・・。

 まず、全編をざっと通読しての感想は、やはり県の間に格差が生じているということ。神奈川県、愛知県、兵庫県などのように独自性のある施策も盛り込み、多数の数値目標も具体的に記述したところもあれば、ほとんど国の計画を焼き直しただけで、あまり具体性のある計画になっていないように読める県もあった。

 計画の全体目標については、ほとんどの県が国を踏襲し、「がん死亡率の20%減少(年齢調整済、75歳未満)(10年間)」と「全てのがん患者およびその家族の苦痛の軽減ならびに療養生活の維持向上」とし、斬新さや強いやる気を感じさせるものではなかった。

 県が国の計画そのままに一律で死亡率削減の比率として20%の数字を採用することには、甚だ疑問がある。2007年12月4日のがんナビレポート「県別の死亡率ランキングに注目しよう」で見たように、県によって現在の死亡率がかなり異なるからだ。例えば、現在、全都道府県中死亡率がワースト10の県が、20%削減を目標にするということはどういうことか。目標を達成しても、他の県も同様に目標を達成すれば、やはり10年後もワースト10のままだ。「ワースト10を維持する」と宣言するに近いことを目標に掲げていいのだろうか。

兵庫県は、死亡率削減目標を5%上乗せ
 多くの県が国の計画そのままに20%削減とするなかで、別の発想で目標を決めたところもあった。兵庫県は、10年間で死亡率25%削減(5年間で16%削減)とした。全国平均なみに追いつくことを目指した数字設定だ。神奈川県の目標設定は興味深い。「都道府県別がん死亡ベスト10位」としたのだ。2005年度の実績では男性がベスト20位、女性がベスト36位だった。これを両方とも2014年までに10位以内にすることが目標だ。また、男性大腸がんに関しては2005年度全国ワースト8位をベスト10位以内へ、女性乳がんに関して2005年ワースト2位をベスト10位以内へと、目標設定した。鹿児島県は、全体目標に「がん検診およびがん医療に関する精度管理体制の構築」を加えた。

 次に重点項目の設定を見よう。国の計画は、「放射線療法および化学療法の推進ならびにこれらを専門的に行う医師などの育成」「治療の初期段階からの緩和ケアの実施」「がん登録の推進」だった。この3点以外に「がん予防の推進」「がん検診の推進」「相談支援・情報提供の普及」などを加えたところは多く見られた。岩手県は「がん予防とがんの早期発見」と「相談支援・情報提供の普及」の2項目を加えたが、「計画策定のために意見を聞いた、がん対策推進協議会の席上で、医療従事者からは予防と早期発見の重要さについて、患者関係者からは相談と情報提供の強化について、強い要望があった」(県担当者)ことから、それを反映した。

 個別目標になると、多様性や独自性が増える。注目されるのは、医療機関の整備に関して、「県指定がん拠点病院」ともいうべき、県独自の拠点病院制度を創設するところが複数あったことだ。兵庫県、島根県、鹿児島県などが導入する。今回取り上げた12県以外に、東京都などでも計画に盛り込まれる予定だ。兵庫県は「がん医療システム支援病院」、鹿児島県は「県がん診療指定病院」、東京都は「東京都認定がん診療病院」と名付けている。

 これは、国が指定する「地域がん診療連携拠点病院(以下、がん拠点病院)」の他に、県が県独自の指定病院を決めるというもの。国のがん拠点病院は県内の2次医療圏の数の制限を受け、原則はそれ以上指定できないが、それだけでは十分にカバーできない地域があったり、人口密集地においては拠点病院だけではがん患者のごく一部しか受け入れられなかったりする。県内の患者のどの程度をがん拠点病院で診察できているかというカバー率は、富山県は8割程度で大阪府は2割程度と、大きなばらつきがあるのが現状だ。

 県指定がん拠点病院を作り、そこにも院内がん登録の実施、緩和ケアの実施、相談支援センターの設置などの義務を課すことで、県内のがん医療水準の“均てん化(あまねく高い水準の医療が提供されること)”を果たそうとするわけだ。がん拠点病院に関しては、これまで、数を制限して質を上げるべきという意見と、まずは数を増やしてだれでもがん拠点病院にかかれるようにすべきという意見があった。今後は両面作戦が進みそうだ。がん拠点病院と県指定がん拠点病院で県内のがん患者のカバー率を上げる。同時に、国のがん拠点病院の指定要件が今後は厳しくなるが、それに応じて県指定がん拠点病院にもそれに準じた要件を求めて質を高めていく。

 拠点病院の数が増えるだけでなく、集約化の動きも加速される可能性がある。拠点病院と同様に、県指定がん拠点病院にはスタッフ数、治療件数、5年生存率などの機能情報や成績情報の公表が求められるようになろう。こうして、患者が病院選択に使える情報が提供される。また、多くの県でがん拠点病院と県指定がん拠点病院全体が参加する拠点病院の連絡協議会が設置される。ここでは地域での役割分担が継続的に話される。例えば、すべての病院が肺がん患者を診るのではなく、症例数が多く成績が良い病院に集約していこうといった動きも出てくるだろう。患者の施設選択と、病院間の話し合いの両面で、集約化が進むという将来像が見えてくる。

 地域連携クリティカルパス(地域内で病院と診療所などの各医療機関が共有する、患者の治療開始から終了までの全体的な計画)の導入に関して、国の計画では5大がん(肺がん、胃がん、肝がん、大腸がん、乳がん)に関して整備することとなっている。徳島県は子宮がん発生が多いという地域特性を踏まえ、子宮がんの連携パス導入も目標に組み入れた。

 医療従事者の育成に関しては、愛知県が細かな目標設定を行った。すべてのがん拠点病院が、「緩和ケアにかかわる専門看護師または認定看護師」「緩和ケアチームの精神腫瘍医(サイコオンコロジスト)」「放射線腫瘍認定医」「がん薬物療法専門医またはがん治療認定医」「がん看護専門看護師または外来化学療法室のがん化学療法看護認定看護師」「がん専門薬剤師」「放射線治療専門技師」「放射線治療品質管理士」を配置することとした。島根県は、「放射線専門医8人」「がん薬物療法専門医とがん治療認定医合計12人」を具体的な目標とした。

鹿児島県は、保健所と市町村に相談窓口設置
 患者の相談支援・情報提供においては、兵庫県が「国の“患者必携”を作成内容を踏まえて、本県独自の情報をとりまとめた“兵庫県版患者必携”の作成・提供に向けた検討も行う」とした。「患者必携」は国のがん基本計画に盛り込まれたもので、がん患者・家族が闘病中に必要とする情報をひとまとめにした本を作り、すべてのがん患者に配布するという考えのもの。これに追加して、地域に密着した情報も提供しようという考え。鹿児島県は、「県内すべての保健所と市町村において、がん予防や医療などに関する相談窓口の設置」を盛り込んだ。神奈川県は「相談支援センターの相談員の研修を実施」することとした。

 島根県は、県内に16カ所ある「がん患者サロン(患者同士が集まって会話をできる場所)」とがん拠点病院が意見交換する会を開催する。今回取り上げた12県以外では東京都が、ピアカウンセリング事業(がん患者関係者が、がん患者の相談に乗る)を実施した成果を検証し、相談支援センターとピアカウンセリングの連携による相談支援体制の構築を検討することとしている。宮城県は、「がん患者・家族会の活動を充実させる」を、個別目標に入れた。鹿児島県は、「がん患者の社会復帰および就労支援を推進する環境づくりに努める」も、目標に掲げた。

 愛知県は、「小児がん家族とその家族への支援体制」という項目を設けて、「退院後の治療、通園、通学に関する学校などとの連携体制の整備」「治療後のがん患児や家族に対して、サイコオンコロジー(精神腫瘍学)の専門家や相談窓口を紹介する」を目標に入れた。

 在宅緩和ケアに関しては、兵庫県が具体的な目標を決めたことが注目される。現在8%程度のがん在宅看取り率を12%以上にする。そのために、県内に300の在宅ターミナルケアチームを構築して1チーム当たり年間6人のがん患者を看取ると、具体的な方策と計算根拠も示した。

 がん登録では、鹿児島県が地域がん登録参加病院を29から100に増やす数値目標を設定。愛知県は、院内がん登録実施率を現在の22.6%から33.4%以上に高めることにした。地域がん登録の精度に関して、DCN率(死亡情報だけによる登録の割合のこと。これが低いほど精度が高い)の数値目標設定を岐阜県、愛知県、兵庫県、徳島県が行った。レベルは異なっており、兵庫県、徳島県が20%未満を目標とした。愛知県(25%)、岐阜県(30%)は緩めの設定となっている。

愛知県は、成人の喫煙率を半減
 予防に関しては、成人喫煙率の削減目標設定が焦点となる。愛知県は、喫煙率半減を明記した。男性34.8%を17.4%に、女性9.6%を4.8%にする。福島県は、男性40.3%を25.0%に、女性11.9%を5.0%にする。岩手県、岐阜県、徳島県も数値目標を決めた。静岡県、佐賀県などでも設定される見込みだ。

 がん検診に関しては、対策の地域格差がはっきりした。国の目標である検診率50%を超える数字を打ち出した県が出た。宮城県は胃がん、肺がん、大腸がん、子宮がん、乳がんの検診率を70%以上にする。兵庫県は、大腸がん、乳がんの検診率を60%以上とする。兵庫県は、がん検診の普及啓発などを行う「がん対策推進員」を1万人育成する。「すでに患者団体からも参加したいという声をいただいている」(兵庫県担当者)と、地域での反応は上々のようだ。これは2007年9月18日のがんナビレポート「日本列島がん対策・現地レポート(4)富山県」で紹介した、富山県のがん対策推進員を参考にしたものだ。

 これまで列挙したがん対策の好事例以外にも、各県のがん計画にはたくさんの創意工夫が盛り込まれている。ところが問題なのは、個々の事例をとってみれば導入する県がわずかであることが多い点だ。また、先に触れたように、がん対策の県間格差も生じてきた。これは、県のがん対策を策定する際に、その方針を決める県のがん対策推進協議会などの委員や県庁の担当者が、他県の動向をほとんど知らずに作業していることが一因。県によっては早くから素案をウエブサイトに掲載しているところもあるが、ウエブから素案を確認できない県の方が多い。これでは、地域住民に十分な経過説明ができていないと同時に、全国での情報交換もさまたげる。

 県計画の情報交換の場を作ることが大切だ。国が県に対して策定途上の素案を公表することを促し、例えば、国立がんセンターのがん情報サービスが各県のがん計画素案へのリンク集を提供するなどの仕組みがあったとしたら、県がん対策に関する情報交換はもっとスムーズにいったはずだ。

パブリックコメントに意見を出し、県計画の“均てん化”を
 では、どうすれば“県がん対策の均てん化(あまねく高い水準の対策が提供されること)”が実現できるのか。それは、自県の創意工夫を他県に教え、他県の創意工夫を自県に取り入れることだろう。いま県対策の好事例を横に広げることができるかどうかが、日本のがん対策の喫緊の課題だ。素案段階ではまだ変更の余地がある。成案になるまでにどれだけ内容を改善できるかが、勝負どころとなる。

 県のがん対策のレベルを上げるのは、地域住民の役割だ。がん対策のレベルががん医療のレベルに反映して、地域住民に跳ね返ってくることにもなる。住民からの働きかけの方法として、県が実施するパブリックコメント(意見募集)に意見を送る方法がある。下記にパブリックコメント実施のリンク集をつけた。そこから提出用紙を取り出し、「当県でも◎◎県のように△△の施策を取り入れてはどうか」といった意見を書いて送ることができる。

 今回、紹介した県がん対策推進計画(素案)は47都道府県のうちの一部。また、他の県でパブリックコメントを実施中あるいは実施予定のところもある。地元の県がん対策推進計画の素案がすでにできているか、パブリックコメントが実施されているか、それを確認するには県庁の担当部署に問い合わせをしてみるとよい。窓口の電話番号は、国立がんセンターがん情報サービスが提供している「都道府県がん対策推進計画の策定状況一覧」(PDF:148KB)に記載してある。県のがん計画がいったん成案になってしまえば、5年計画であるため、途中で大きな変更をすることはかなり難しくなってしまう。他県の好事例を取り入れるなら、今がラストチャンスと言えるかも知れない。

(埴岡 健一)

〔参考リンク〕
県がん計画リンク集(パブリックコメント募集リンク集)
【岩手県】
岩手県がん対策推進計画(素案)(521.26KB)
【福島県】
福島県がん対策推進計画(案)(460.50KB)
パブリックコメント(実施中:2008年1月11日まで)
【宮城県】
宮城県がん対策推進計画(素案)(132.58KB)
パブリックコメント(実施中:2008年1月15日まで)
【神奈川県】
「がんへの挑戦・10か年戦略」の改訂(「神奈川県がん対策推進計画(仮称)」)素案(2.40MB)
パブリックコメント(実施中:2008年1月16日まで)
【岐阜県】
岐阜県がん対策推進計画(案)(1.71MB)
パブリックコメント(実施中:2008年1月15日まで)
【愛知県】
●愛知県がん対策推進計画(案)
(下記ページにあり)
パブリックコメント(実施中:2008年1月18日まで)
【兵庫県】
第3次ひょうご対がん戦略推進方策(兵庫県がん対策推進計画)(案)(1.41MB)
パブリックコメント(終了)
【島根県】
島根県がん対策推進計画(素案)(581.09KB)
【徳島県】
徳島県がん対策推進計画(素案)(460.91KB)
パブリックコメント(実施中:2008年1月11日まで)
【香川県】
香川県がん対策推進計画(案)(707.28KB)
パブリックコメント(実施中:2008年1月7日まで)
【熊本県】
熊本県がん対策推進計画(素案)(1.11MB)
パブリックコメント(終了)
【鹿児島】
(表紙〜現状) (1.57MB)
(基本方針,全体目標) (335.14KB)
(分野別施策) (1.79MB)
(進捗管理) (313.25KB)
パブリックコメント(2008年1月11日まで)


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