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レポート

2007/12/11

「がん計画」の都道府県格差が広がる?

「さあ、はじめよう!がん対策」を読む

 あなたの住んでいる都道府県(以下、県)でも、現在、「がん対策推進計画(以下、がん計画)」の策定が進行中だ。ちょうど今、素案ができようとしているところ。この計画が、今後のその地域のがん対策を大きく左右する。実は、がん計画の巧拙という形で、新しい形での県間の格差が生じている恐れがある。

 がん計画において、最も重要なのは実行性が確保されているかだ。いわゆる「絵に描いた餅」にならないように、工夫されているかである。どうすれば“良いがん計画”が作れるのか。その答えを、大阪府立成人病センター調査部が用意した。「さあ、はじめよう!がん対策」というホームページで、「上手な県がん計画の作り方」を指南しているのだ。今回は、このがん計画作成ガイドを読みながら、よいがん計画の条件を考えてみよう。



 いますべての県で、がん計画が策定されている最中だ。2008年3月末までの策定のために作業は大詰めを迎え、すでに素案を発表したり、それに関するパブリック・オピニオン(地域住民からの意見)をいまちょうど取っている県もある。だが、作成に当たっている県庁の担当者も、どうすれば上手にがん計画が作れるか、必ずしも十分な知識や技量があるわけではなく、悩みながら作成しているのが実情だ。

 また、その作成について方針や具体策について意見を述べる県の「がん対策推進協議会」などの委員も、自分の得意分野では十分に意見を述べても、計画のまとめ方や実行性の確保に関しては、あまり知見を持たない場合も少なくない。このことは、そこに患者代表委員として参加している患者や家族、遺族などについても例外ではない。

 大阪府立成人病センター調査部(以下、調査部)は、がん対策を考える人に役立ててもらおうと、がん計画作成ガイド「さあ、はじめよう!がん対策」を作成し、提供している。ここでは、次のような5つの作成プロセスで計画を作っていくことを推奨している(表1)。

表1●「さあ、はじめよう!がん対策」が示す計画の作成プロセス

表1●「さあ、はじめよう!がん対策」が示す計画の作成プロセス

 第1ステップの「現状はどうなのか?」は、がんの罹患や治療成績や死亡の状況だ。前回のがんナビレポート「県別の“死亡率ランキング”に注目しよう」で見た、がん死亡率はこうしたデータの一部だ。調査部は分析例として、大阪府の状況について示している。

 それによると、(1)大阪府のがん死亡率は全国でも最悪の部類に入る (2)肺がん・大腸がん・乳がんが増加傾向にある (3)他県に比べて5年生存率が低い傾向にある (4)地域がん診療連携拠点病院(以下、拠点病院)で治療を受けた患者の5年生存率に比べそれ以外の病院の患者の生存率が低い――などの“診断”となる。

 現状認識によって弱点を見つけたら、それを改善する方法を施策としてあげていく。(2)に関しては、禁煙とがん検診の推進、(3)に関しては病院の治療成績の均てん化(高い水準に合わせること)や治りやすいうちにがんを早期発見するがん検診の推進、(4)に関しては拠点病院やそれに準ずる医療機関の増加や病院同士の連携の強化――といった風に対策が浮かび上がる。

 第2ステップは「必要ながん対策とその効果は?」だ。第1ステップで現状は把握され、対策も浮かび上がった。ここでは、改善する目標を試算する。そして、現状から目標に向けて、どの施策を打つことがどんな効果をもたらし、目標に至ることができるのか、その波及経路をできるだけ論理的に流れ図(フローチャート)にする。

 調査部は、がん予防のための禁煙対策、がん検診の推進、がん医療の均てん化などに関して、具体的な流れ図のモデルを示している。ここではがん医療の均てん化の図を見てみよう。

 左端に、死亡率が高く、がん拠点病院とそれ以外の病院で治療成績格差があるという現状がある。右端に、病院の治療成績格差解消により死亡率を2.9%減少するという目標がある。その間を水色の矢印で結ぶのが、現状から目標達成に至るための行動と、その効果の波及経路だ。「がん拠点病院などのネットワークの下で治療される患者を増やす」ことによって、「治療成績の均てん化、役割分担、連携体制の充実」が行われ、その結果、目標が達成されるという筋道が描かれている。

 「がん拠点病院などのネットワークの下で治療される患者を増やす」ためには、(1)がん拠点病院もしくはそれに準ずる病院を増やす (2)がん拠点病院の治療成績や専門医、機器などの機能情報を公表する (3)部位別にがん拠点病院に準ずる成績を有する病院の情報を公表する (4)がんの種類別に患者の流れの実態を把握し医療機関の連携と役割分担を推進する――ことが必要としている。

 このステップでは、目標に対する具体的行動が実際に効果のあることなのか、対策が狙いに対して論理的に効果が想定されるものとなっているか、そうした点を確認することが重要だ。

大阪府は、率先垂範できるか?
 ステップ3は、「何をなすべきか?」。いよいよ、これまでの分析や考察をがん計画の形にまとめていく。調査部では、がん計画を記述する基本フォームとして、がん対策の柱、実施主体、目標項目、具体的な行動といった項目を持つ表(http://www.mc.pref.osaka.jp/ocr/cancercontrol/text/step3_2.pdf)を推奨している。最初にこの表に、予防、早期発見、治療(医療体制の均てん化)といった風に、がん対策の柱を決めて記入する。

 ステップ4は「誰が何をなすべきか?」。先のがん計画基本フォームの表の上に、誰が(実施主体)、何を(目標)するか決めて記入していく。目標は、優先度によって (1)達しなければならない目標 (2)到達すべき目標 (3)到達が望ましい目標、の3段階に分けた。(1)は現有の資源(ヒト・モノ・カネ)で実行可能なこと、(2)は資源を実現可能な範囲で増加か再配分することで実行可能になること、(3)は理想的な資源配分がなされれば実行可能になること、だ。

 ステップ5は「どのように達成するのか?」。ここでがん計画の表を完成させていく。調査部は、大阪府を例にとり、「たばこ対策」「肝炎ウイルス対策」「がん検診」「がん医療」「サーベイランス(がん登録)」の5つのがん対策の柱に関して、実際のがん計画モデルを示している。そのうち、がん医療分野の計画を見てみよう。表2にその一部を抜粋したが、都道府県と医療機関を主語にして、それぞれがなすべきことが列挙してある。「主体別実行計画表」としてがん計画を完成させるわけだ。

表2●大阪府がん対策推進計画のモデル(一部抜粋、編集部で一部改変)

表2●大阪府がん対策推進計画のモデル(一部抜粋、編集部で一部改変)

 このように5つのステップを経て作成する「主体別実行計画表」は、大阪府立成人病センター調査部が示したお手本だが、果たしてこうした形で計画をまとめる県が出てくるのだろうか。そもそも、大阪府はどうなのだろうか。調査部は、「きっちりとした計画にまとめるよう、5つのステップを経て作成したがん対策のひながたを参考にするように府に進言している」という。大阪府庁の担当者は、「計画の中に、何らかの形で表形式でのまとめを盛り込みたい」と語る。どうやら、大阪府のがん計画は、がん対策推進協議会で審議してきた内容を、主体別実行計画表の形で取りまとめた表が含まれるものになりそうだ。

 大阪府以外にはどう波及するのだろうか。調査部によると、「他の県の計画作成担当部署から、『利用してもいいですか』という問い合わせが複数ある」という。だが、全国のがん計画作成担当者では「さあ、はじめよう!がん対策」の存在を知らない人も少なくない。がん計画が「絵に描いた餅」となる恐れを減らすことに有効であると考えられる「主体別実行計画」だが、これを採用する県が多数出てくることは、現状ではあまり期待できそうにない。

島根県は「主体別実行計画表」を採用
 2007年11月5日に開催された東京都のがん対策推進協議会では、都事務局から提示された「東京都がん対策推進計画素案」が示された。しかし、協議会メンバーから、独自性がない、目玉がない、実効性がない、予算の裏づけがない、などと計画の枠組みや全体に関する批判的な意見が相次ぎ、事務局は「いただいた厳しい意見を踏まえて練り直す」とした。

 患者団体ブーゲンビリアの理事長で、東京都がん対策推進協議会の委員である内田絵子氏は、この会議の席上で「誰が何をいつまでにやるのか明確でない。『さあ、はじめよう!がん対策』を知っていますか。ここで示されているような表の形にまとめられたら、自分がなにをなすべきかが一目瞭然だ。東京都もこのような形でまとめてもらいたい」と述べた。

 一方、島根県は、主体別実行計画表を独自に作成した。12月10日に開催された第2回島根県がん対策推進協議会で、「島根県がん対策推進計画」の素案を提示したが、この19〜21ページには「計画の推進にかかわる各機関等の役割」(表3)が付けられている。縦に施策の項目、横には県、市町村、がん拠点病院、拠点病院以外の医療機関、県民・患者・家族の5つの主体が並ぶ。

表3●島根県がん対策推進計画(素案)に入れられた主体別役割表(一部を抜粋)

表3●島根県がん対策推進計画(素案)に入れられた主体別役割表(一部を抜粋)

 例えば、医療水準の向上という施策に関しては、県が「がん診療における病院間の役割分担の検討」など3点を実施し、市町村は「がん診療を行っている医療機関の医療機能を県などからの情報をもとに把握」し、がん拠点病院は「がん診療体制の方向性の確立」を行い、拠点病院以外の医療機関は「医療機関間の連携による切れ目のない医療の提供」を行い、県民などは「県内のがん医療機能の現状を知るとともに、今後必要な医療機能について提案」する。

 がん計画の全貌がわずか3ページの表にコンパクトにまとめられており、誰が何をなすべきか一目瞭然だ。これからがん計画を長期にわたって実施していくには、関係者の共通理解と協力が欠かせない。そのためにも、こうした表形式の実行計画が有効である可能性がある。

 がん計画に対するチェックポイントは多数ある。例えば、数値目標が書かれているか、重要ながん対策が抜けなく網羅されているか、対策の財源確保について言及されているか、などだ。チェックリストの中で、「さあ、はじめよう!がん対策」が示すような、「妥当なステップで考えられているか」「分かりやすい主体別実行計画の形にまとめられているか」も、重要な確認点であることは間違いない。

(埴岡 健一)


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