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レポート

2007/10/16

患者団体アメリカ訪問記2007(第5回)--- 米国から学ぶ「患者中心の医療」

あなたは、自分のがんのことを、子どもに話せていますか?

 日本のがん患者団体6人がこのほど米国を視察した。狙いは、米国の先進事例から学ぶこと。そのツアーに密着取材した。今回のリポートは前回に引き続き、世界一のがんセンターと称されることが多いM.D.アンダーソンがんセンターから。「がんのことを子どもに隠さずに説明しましょう」と、親ががんになったとき子どもにどう説明するか教える興味深いプログラムがあった。子どもが4歳のときに乳がんになった経験があるマーサ・アッシェンブレナー氏が情熱を持って取り組んでいた。

 がんになったとき、患者にとってはたくさんの心配ごとや悩みが生じるが、「がんになったことをどう伝えるか」も大きな関心事の一つだ。自分の両親、友人、職場の同僚などへの伝え方も悩ましいが、「子どもにどう話すか」は最も難しいかもしれない。がんになるとひときわ、子どものことが心配になる。がんによって子どもをできるだけ傷つけたくないという親心が強まるだろうが、それが必ずしも良い結果をもたらすとは限らない。米国では専門家の調査や研究に基づいて、子どもへの知らせ方の推奨パターンが形成されつつある。

 M.D.アンダーソンがんセンター(以下、MDACC)では現在、KNIT(ニット)というプログラムを進めている。KNITとはKids Need Information Tooの頭文字をとったもの。直訳すると「子どもにも情報が必要だ」となるが、「子どもに親のがんのことをできるだけありのままに話そう」という趣旨のものだ。

 MDACCでKNITの推進役をするマーサ・アッシェンブレナー氏(写真1)は、「親は子どもを守ろうとしてがんのことを話さない。しかし、これが裏目に出て、子どもは疎外感をもつ。上手に説明して子どもの不安を解き、がんのことが一緒に話せるようになった方がいい」と説明する。

写真1:MDACCでKNITの推進役をするマーサ・アッシェンブレナー氏

 KNITの要点は「3C」だ。第1のCは「Cancer(がん)」。がんという病名を隠さないこと。第2のCは「not Catchy(うつらない)」。がんが他の人に感染するものではないということ。そして第3のCは「not Caused(引き起こされたことでない)」。子どもや親のしたことが原因でがんになったのではないということだ。

 がんであることを隠しても子どもは敏感に異変を感じ、「自分に何かが隠されている」という疎外感を覚える。がんと言わずに「ちょっと病気なのよ」と説明しておくと、抗がん剤で髪の毛が抜けた親を見て、子どもは「自分も何か病気になればああなるのか」と病気全般を恐れるようになる。うつらないことを教えるのは大切だ。子どもが親に安心して接することができるし、親が感染症と誤解されて子どもが友人たちから遠ざけられたりしないためにも重要だ。がんになったのは誰のせいでもないことを教えるのは欠かせない。そうでなければ、子どもは「自分が親のいうことを聞かなかったから、親ががんになった」というふうに、因果がないところに原因を見つけて罪悪感を抱いてしまうことがある。

子どもの年齢によって異なる対処法
 子どもは年齢によって精神的な発達度合いが異なるため、適切な知らせ方も異なる。アッシェンブレナー氏が、年代別の注意点を解説してくれた。

 5、6歳の子どもにも親の病気が、がんであることを説明する。先に触れたように、そうでなければ、子どもは風邪をひいても親と同じように何回も病院に通わなければならないのかと勘違いする。また、大人はがんという言葉に重たいイメージを持っているが、この年代の子どもにとっては「がん」は初めて聞く病気の名前。病名を知ることでショックを受けたりすることはない。

 アッシェンブレナー氏は、この年齢の子どもに「死ぬということの意味」を教えておくべきと考える。このころの年代は死という概念がよく理解できない。「生物は死んでもまたすぐ生き返る」と思っていることも多い。自分のがんのこととは切り離して、死とはどういうことか、説明をしておく。もし、自分のがんが治癒困難になった場合には、「前に死ぬってどういうことか話したことがあったでしょ」と、死一般と自分の死を結びつけて子どもに説明する。死を理解していないままに身近な人が死ぬと、子どもは大きな混乱を来すことがあるという。それを避けるためには、こうした子どもへの教育が必要だというのだ。治癒すべく治療に前向きに取り組んでいても、がんという病気になった以上、死ぬ可能性もあることを考えて、子どもに死について教えておくことが患者にとって大切なたしなみという考えが根底にある。

 7〜11歳の子どもは、がんという言葉は聞いたことがあり、命に脅威をもたらす病気であるとの認識もあることが多い。だから、がんだと説明するだけでなく、どんなタイプのがんであるか、特に治癒の見込みが高いときはそれを説明しておく必要がある。このぐらいの年齢の子どもが、「ねえ、死んじゃうの」と聞くことは珍しくない。アッシェンブレナー氏は、「死ぬわけないでしょう」「絶対、死んだりしない」と答えるのは好ましくないと考える。「死なないことを願っている。いい病院にかかれたし、お医者さんも一生懸命やってくださっている。だから、治ると思っている。だけど、もし見通しが変わったりしたら、必ず教えるからね」といった説明を薦める。やはり、子どもが後で「自分は本当のことを知らされていなかった」と感じることになる可能性がないようにすることを重視する。

 12歳以上の子どもは、知的好奇心が強いからたくさんの質問をしてくることが多い。「できるだけオープンに正直に、子どもが納得するまで、聞かれたことに答えましょう」とアッシェンブレナー氏。病状が悪化してきたときには、それも正直に伝えることが大切だ。もっとも、思春期の子どもは親とあまり口をきかないことも少なくない。それも異常なことではない。ただ、子どもが親のがんのことを一人で抱え込んでしまわず、だれか話し相手がいるかどうかを確認しておくことは重要だ。

子どもと一緒にがんに向き合う
 子どもは大人とは違う。「大人が期待した行動を取らないからといってがっかりすることはない」とアッシェンブレナー氏は忠告する。再発の知らせを受け取ったときのような深刻な状況でも、子どもは深く悲しんだあと、すぐに遊びに行きたがったりする。これは子どもとしてごく普通のことで、親が、大人の価値観で「あの子は、悲しみに付き合ってくれない」「こんなときに遊びたいなんて、ひどい子だ」などと思う必要はない。子どもはそういうふうにできているのだ。

 子どもが怒り狂うときもある。親ががんになったことへの気持ち、親が治療で家にいないことへの寂しさ、親が死んでしまうかも知れないという恐怖、自分がいけなかったのかという罪悪感――そうした感情が整理できずに怒りとして表現されることがある。それを親にぶつけたり、神をののしったりする。だが、これも親のがんを受容していく過程で子どもに起こる典型的な反応のひとつ。「うちの子どもは悪い子だ」「自分のがんのために子どもがおかしくなってしまった」などと思い詰めることはない。

写真2:マーサ・アッシェンブレナー氏を囲む患者団体ツアー一行

 アッシェンブレナー氏は、子どもとがんのことを話すコツをいくつか伝授してくれた。それまでお風呂に一緒に入る習慣があったなら、がんの手術をしたからといってそれを止めてしまわない。手術の跡を見せて「ここからお医者さんががんを取り出してくれたのよ。だから、がんはもうここにはないはず」といった風に話す。「触ってごらん。もう痛くないのよ」と、触れさせるのもいいという。

 抗がん剤で髪の毛が抜けたときは、話題にするのを避けたり、隠そうとしたりするより、「髪の毛が抜けている間、帽子がほしいから、どんなのがいいか一緒に選んでくれるかな」と子どもと一緒に買い物に行く。子どもが平気で親の頭に触れるように仕向ける。

 「子どもにがんを隠さない。むしろ、きっちりとがんのことを話す」。米国ではこのような考えがかなり前から提唱されているが、実際のところはまだ十分には浸透していない。アッシェンブレナー氏は自分が乳がんになり当時4歳の子どもと向き合った経験もあって、従来の、がんの子どもの精神面のケアから、がんの親を持つ子どものサポートやがん患者と子どものコミュニケーションの支援へと自分の仕事の重心を移した。

 MDACCは、患者の治療やケアで精一杯になりがちながん治療のなかで、がんの親を持つ子どもをケアし、子どもの情報を知りたい気持ちに応えることも重視しようとしている。ただ、数多くの患者がいるMDACCでKNITを担当するのは、まだアッシェンブレナー氏一人。だから、現在はすべての患者を対象にKNITのカウンセリングをすることはできない。ソーシャルワーカーや看護師から、子どもへのがんの伝え方で悩んでいる患者がいるという情報が入れば対処する形になっている。

 アッシェンブレナー氏が取り組むKNITプログラムは、患者団体メンバーの強い関心をひいた。なかでも、乳がん経験者で病院のソーシャルワーカーとして働く大沢かおり氏(VOL-Netに所属、写真2の右から3人目)は、「KNITを日本でも広めたい」と強く考えた。その後もアッシェンブレナー氏とメールで文通し、がんの親を持つ子どもを支援するための冊子やツールを集めるなど、勉強を進めている。アッシェンブレナー氏にもらったKNITのチラシを大沢氏が試訳したものを下記に掲載する。

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KNIT Kids Need Information Too(子どもだって知りたい)
「私はがんです――そして、私には子どもがいます」
がんと診断されることは、あなたにとってとても怖いことで、あなたの子どもにとってはさらに怖いことかもしれません。この事実からあなたの子どもを守る方がいいように思えても、実際には、子どもたちは何かが起きていることを察知し、あなたが教えないでいることに、よりおびえているかもしれません。では、どのように子どもに伝えたらいいでしょう?
○3つの"C"を念頭に置く:それは、Cancer(がん)という病気。それは、Catchy(伝染するもの)ではありません。それは、あなたや私がやったことや、やらなかったことによってCaused(引き起こされた)ものではありません。
○あなたが、がんの治療を受けるのに最高なところに居ることを説明します。
○「死んじゃうの?」と聞かれても驚かないこと。これは普通のことです。「死なない」と約束しないこと。むしろ、「そうならないことを望むわ。長く生きられるように、お医者さんが、がんを治してくれることを望むわ」と言って安心させましょう。
○可能ならば、最低1回はあなたと一緒に病院に連れて行くようにしましょう。そうすることで、子どもは、あなたがここ(病院)に居る時、どういったところに居るのか、「視覚的に」理解できます。
○あなたの子どもがあなたのがんについて聞いたり読んだりしたこと全てを、あなたに気にせず話すように言いましょう。あなたがあなたの病気についての「子どものための情報源」になりましょう。
○あなたの子どもと、がんについて話すことを恐れないでください。がんは全ての家族に影響を与えます。あなたの子どもによりオープンでいて、子どもたちへ影響が及ぶかもしれない変化を教えてあげることで、子どもたちは、よりリラックスできます。
○あなたの治療計画によって、彼らの日常生活がどのような影響を受けるかを、子どもに知らせましょう。ですが、可能な限り、正常な常態を保つようにしましょう。
○あなたの治療がどう進んでいるか、起こりうるあらゆる変化―いいことも悪いことも―を常にあなたの子どもに伝えることを保証しましょう。そしてそれを貫き通しましょう。
○質問や気になることがあれば、相談支援センターにお問い合わせください。
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(埴岡 健一)

〔参考サイト〕
M.D.アンダーソン
(ツアーに参加した患者団体)
女性特有のガンのサポートグループ オレンジティ
癌と共に生きる会
声を聴き合う患者達&ネットワーク「VOL-Net」

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